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27 工員達を説得したい!

 工業ギルドの職員達が集められ、外に出る扉が全部閉められた。

 今からわたしの話を全員に伝える為だ。


 そして、この話を聞いて逃げ出したり、告げ口する人間を出さない為でもある。


 その上、扉の前にはグスタフやザフィラといった獣人がいるので、普通の人間はまず外に出たくても出る事が出来ないだろう。


 そしてわたしは工員達に話をした。


「皆様御機嫌よう。わたしは『レルリルム・ドリンコート』と申します。ドリンコート伯爵の娘で、いくつもの企業を抱える企業家でもありますわ」

「そのお嬢様がおれ達の作業を止めさせてまで何の用があるんだよ」


 まだ末端の工員にはわたしの話が伝わっていない人達がいるようだ。


「皆様、現在の待遇に満足していますか? 商人ギルドにいいように使われ、貴族や聖女教の横暴のままに工期無視で仕事を押し付けられ、疲労しても休みすら与えられない。疲労が抜けないままで仕事するので事故が起き、そして更に工程がずれての悪循環……」

「満足してるわけねえだろ! それでも仕事しないと食っていけないんだ! おれ達は忙しいんだ、貴族の暇なお嬢様の暇つぶしに付き合っている時間なんて無いんだよ!」


 まあ当然の反応だ。

 彼等にはここ以外の仕事という選択肢は存在しない。

 『貧すれば鈍する』つまりはここでこき使われ続ける貧しい仕事が続く限り、いつまでもその環境から抜けることは出来ない。


「その待遇を一気に改善できるとしたら、どうします?」

「そんなことできるわけねえだろ! おれ達は死ぬまでここでこき使われる運命なんだよ……他に行く場所も無ければ住む場所も仕事も無い。お尋ね者になるか死ぬ以外の選択肢があるなら教えてくれよ!」


 彼等の言う事は切実で悲痛な叫びだった。

 実際ここ以外に彼等が行きつける場所なんて、犯罪者か野垂れ死に、または冒険者になるくらいだ。

 だからといって冒険者ギルドの冷遇ぶりはわたしがここに来る前に見てきたので、内容的にはどっこいどっこいだ。


 結局はわたしが改善しなければ冒険者ギルドも、工業ギルドも、何の進展も無く聖女教や悪徳貴族に搾取され続けるだけのアリ地獄。


「その選択肢があるとするならば、どうしますか?」

「そんなものあるなら教えてくれ! 何でもするからよぉ」

「本当ですね、何でもすると言ったのは」

「あぁ、騎士団に捕まるようなことじゃ無きゃ何でもする。この生き地獄なら出してくれるなら……」


 これなら話を聞いてもらえそうだ。

 わたしは手元から二枚の金貨を取り出した。

 金貨を見た工員達はもの欲しそうな表情でわたしを凝視している。


「わたしの言う事を聞くなら、あなた方一人一人全員にこの金貨を一か月に二枚差し上げますわ!」


 工場の中がどよめいていた。

 金貨なんてこの工場にいる人間で手にしたのがどれだけいるかといったところだ。

 ギルド長ですら貴族に馬鹿にされていて支払いは全て銀貨だけでされているくらいだ。

 悪徳貴族の中には庶民に金貨を渡すという事自体を嫌がっている者もいる。


 まあその貴族は革命の最中で民衆に羽交い絞めにされ、口いっぱいに銀貨を詰め込まれて窒息死したそうだが。


「本当にそれを貰えるのか……? 嘘じゃ無いのか……?」

「嘘ではありませんわ。その代わりあなた方にはここで死んでもらいます」


 当然と言えば当然だが、ここにいる行員全員が、先程のギルド長ドワイトのように取り乱し、出入り口に押し寄せようとした。

 だが獣人相手には勝てるわけもなく、全員が外に出ることは出来なかった。


「もう少し話は最後まで聞いて下さいませ。あなた方にここで死んでもらうというのは書類上の話ですわ。あなた方はここで大火事に巻き込まれて全員死亡、そういう形にした上でドリンコート領に新しく作る工場で全員働いていただく形になりますわ」


 この話を聞いてもいまいち理解できていない工員が大半のようだ。

 こうなったらやはり直接伝えるしかないようね。


「あなた方にはここの人数分だけ、共同墓地から死体を持ってきて貰いますわ。それも今あなた方が押し寄せたような扉の前の配置といった形で。つまりこの工場を大火災で燃やし尽くして今あなた方の着ている服を着させた死体に身代わりになっていただくというわけですわ!」


 このトンデモない方法には、流石に工員の大半がたじろいだり怯えて竦んだりした。


「あなた方が今の待遇を変えるには死んでここからいなくなる以外の方法はありませんわ。その為なら死体に身代わりになってもらうくらいの泥は被ってくださいませ! あなた方は綺麗ごとで今の待遇を変える事ができるとお思いですか?」


 わたしのこの意見に、工員は一人が泣き出し、その後全員の嗚咽や号泣が聞こえた。

 それは彼等の助けて欲しいという魂からの叫びだったのだろう。


「辛い、辛いんだよ……どれだけ死んだ方がマシかと思ったことか」

「オレなんてここから機械の中に巻き込まれたら楽になれると何度思ったことか……」

「おれもだ、帰る家も無く、好きなものを食べる金も無い。オレ何のために生きているんだとどれだけ思っただろう」


 彼等の言葉はわたしにずっしりと重くのしかかった。

 前の人生で革命に駆り立たれた時の人達の思いは、これらをさらに上回るものだったのだろう。


 だからこそ方法なんて選んでいられない。

 わたしは彼等を助け出さなくては。

 回り回ればそれがわたしの未来を守る事にもなるのだから。


「お嬢さん、死体を持ってこればいいんだな」

「ここから出る時の服は普段着でいいのか?」

「昼間は目立つから、動くとしたら日が暮れた後でいいのでしょうか?」


 工員達は前向きにわたしの作戦に協力する姿勢を見せた。


 その日の夕暮れから作戦は開始された。

 わたしは工員と、獣人達にも協力してもらい、共同墓地でまともに埋葬すらされていない男と思わしき死体を数百人分集めた。


 流石に腐ったり骨が見えていたり虫が湧いたりと酷い臭いと有様だ。

 これらは病気になったりして投げ捨てられた死体が大半で、このまま放っておけば伝染病の原因にもなりかねない。


 わたしはクロフトに前日に連絡して来てもらい、それらの死体を弔ってもらう事にした。


「レルリルム様、またとんでもない事を考えましたね……」

「ここに集めたのはそのままだと埋葬もされていないような死体だから、せめて焼いてしまう前に神父であるあなたに弔ってもらいたかったのよ」

「わかりました。聖女教の腐れ司教共は金にならない貧乏人の葬式すら嫌がりますからね。自分が彼等を弔ってあげましょう」


 クロフトは嫌な顔一つせず、呪文を唱え、身寄りのない死体達を弔ってくれた。


「レルリルム、キミは本当に何を考えているんだい? 死体を燃やすとしても、相当の強い火で燃やし尽くさないと証拠が残るんだよ」


 この声は! 鬼畜眼鏡ッ‼


「あ、あら。アンリ、来てたのね」

「僕が来たら困るような話でもあったのかい?」

「い、いいえ。そうでは無いですが」

「それならいいけど……いいかい、とにかく大量の可燃性の粉を工場の中で息が出来なくなるくらいに撒き散らすんだよ」


 アンリは何かアドバイスをしてくれているようだ。


「粉塵爆発って言ってね、粉類は空気中に撒き散らされると少しの火で大爆発を起こす。レルリルム、先日の鉱山の崩落、あの原因も粉塵爆発だったんだよ」


 そうだったのか!

 ここでアンリが来てくれたのはむしろ助かったかもしれない。


 その粉塵爆発で木っ端みじんになれば、この工場が跡形もなく吹き飛んでもだれも疑わない。


ありがとうアンリ、今晩の内に作戦が実行できそうな流れになってきたわ。

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