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26 私のための工場が欲しい!

 工業ギルドのギルド長ドワイトは真ん中の禿げあがった初老の男性だった。

 彼はわたしの話を仕事の邪魔とばかりに聞こうとしていなかった。


 わたしはこの工場が将来的に大火災で燃えてしまい、多くの工員が亡くなる事を知っている。

 その大惨事のせいで商人ギルドは物資を生産出来なくなり、物価は通常の三倍以上に跳ね上がってしまった。

 それもこの国の革命に至る原因になったとも言えるだろう。

 商人ギルドは革命の際に燃やし尽くされ、建物の入口を閉じ込められた商人達は全員が火の海の中で焼死体となった。


 この大惨事を食い止め、なおかつここにいる工業ギルドの工員達を助け出す秘策がわたしにはあった。


「あなた方の悪いようにはしません。ですからわたしの仕事を引き受けてもらえませんでしょうか?」

「だから今は仕事の依頼は順番待ちだって言ったはずですよ、お嬢さん」


 彼等はよほど商人ギルドが怖いのだろうか。

 商人ギルドに押し付けられた仕事は、断る事が許されず、どんどん数が増えて押し付けられる一方だ。


 その上、彼等には休みが与えられる事はない。

 一年中常に働き続けなくてはいけないのだ。

 そうでなければ商業ギルドに取引を切られ、全員の仕事が無くなってしまう。


 だからいくら薄給でも休みがもらえなくても彼等は常に働き続けなくてはいけないのだ。

 工業ギルドも冒険者ギルドも商人ギルドの末端扱いでしかなく、上にのさばる聖女教、悪徳貴族の手下の商人ギルドは常に上からアゴでこき使うだけ、それがこの国の実態だ。


 そのような最悪な環境下で仕事をさせられている為、彼等には事故が尽きない。

 そして事故が起きるとさらに工期が伸びてしまうので予定はどこまでも狂い、さらに押し付けられた仕事が増え、疲労からの事故が起こる……まさに悪循環としか言えない。


 前の人生でのわたしはそのような苦労が存在する事すら知らなかった。

 物はなんでも頼めば用意されると考えていたのだ。

 頼む=それを作る人が素材を用意する。そしてそれを加工する人がいてようやく頼んだ本人に届く形になるのだ。


 その当たり前の事すら知らなかった事をわたしは今の人生で大いに反省した。


 このまま疲労が抜けない状態で仕事を続ければ、この工業ギルドは大火災で多くの人が亡くなってしまう。

 その前にどうにかしなければ……。


 幸いわたしの父のドリンコート領には大きな土地もあれば豊富な川の水等も存在する。

 この工業ギルドをそっくりそのままドリンコート領に持ってこられれば問題は万事解決するし、商人ギルドを潰す事も可能になる。


 しかし商人ギルドが死んでもこの工員達を手放そうとするか……それが問題だ。


 え?


 ――死んでも手放すか……これだ!――


 この工場は数年後疲労の末にミスった工員のせいで大規模火災が発生する。

 それならば、ここを燃やし尽くしてしまい、全員を死者にしてしまえばいいんだ!


 当然死者にすると言っても書類上の話だ。

 ここにいた工員が全員焼死した事にすれば、聖女教や悪徳貴族もそれ以上追及はするまい。

 単に商品が作れなくなって物価を上げるだけの話だ。


 もちろんその対策として、冒険者ギルドには最良の武器防具、素材を与え、運搬全般の仕事をしてもらい、死んだ事になっているはずの工業ギルドの人達はドリンコート領の新しい工場で働いてもらえばいい。


 物価が高くて買えない一般人にドリンコート領製の商品が出回るようになれば商人ギルドは潰せる!

 よし、作戦は決まった。

 これでここにいる人達も助ける事が出来るし、わたしの願いも叶う。


 さあ、作戦開始だ!


「お嬢さん! 冷やかしなら帰ってもらえますか! 儂らは忙しいんですわい!」

「ドワイトさん、この工員の賃金って大体いくらかしら」

「賃金……ですか? 商人ギルドが決めているので詳しくは分かりませんが、一人一か月で銀貨二枚ですかね。食費や寮費が抜かれますから」


 安すぎる! ここの人達はどれだけ人扱いされていないの!


「もし……全員に一か月金貨二枚の仕事をあげる、と言ったら……どうします?」

「一か月金貨二枚!? お嬢さん本気ですかい!」

「ええ勿論ですわ。ただし条件があります」

「どんな条件だ、今よりもキツイ仕事でそれならとても受けることは出来んぞ」


 ここでわたしはあることを確認した。


「あなた方、家族はいますか?」

「いるわけないだろう。みんな独り身で食うのがやっとの生活だ。所帯を持つなんてできるわけもない。だからって継ぐ農地も無ければ住む場所も無いような奴らがここで最底辺の仕事をさせられているんだ」


 やはり思った通りだ。

 これなら例の作戦も実行しやすい。


「なるほど、よくわかりました。わたしの仕事の条件とは……あなた方には死んでもらおうと思っています!」

「‼ お嬢さん、これ以上こき使って儂らを殺すというなら、流石にここから生きて返すわけにはいきませんぞ……」

「違いますわ、お話を聞いていただけるかしら」


 ギルド長ドワイトはいきなりの話に顔を真っ赤にしてハゲ頭をタコのようにしていた。


「どういう話だ! 儂らに死ねって言ったのはっ!」

「そうですわね。まあ、簡単に言えば、ここを大火事にして死体になってもらいたいってだけですわ」

「ふざけんなぁ! ぶっ殺すぞこのアマァ‼」


 ギルド長の気迫は本気でわたしを殺してやるといった雰囲気だった。


「ちょっと、冷静になって落ち着いて下さいます?」

「これが落ち着いていられるか! 儂は事故に見せかけてお前を機械の中に放り込んでやりたい気分だ!」

「まあ落ち着いて下さいませ。あなた方にここを大火事にして死体になってもらうというのは本当ではありませんわ」

「忙しい男を貴族のお嬢様のくだらん冗談に付き合わせるな!」


 そりゃあ説明の仕方が悪かった。

 こんなところをあの陰険メガネのアンリに見られてたら何を言われるか。


「わかりました! 分かりやすく説明します! あなた方にはこの工場から離れてドリンコート領で大工場を作るのでそこで仕事をしてもらいます! それが金貨二枚の条件です!」

「それとここで火事を起こして死体になるってのとはどういう話なんだ! 馬鹿も休み休み言え!」


 ギルド長ドワイトをどういえば説得できるのか、わたしはどうにか説明を続けた。


「あなた方は商人ギルドにこき使われていますよね。彼等やその上にいる聖女教や悪徳貴族は強欲で多分死ぬまであなた方をこき使うでしょう。だから実際にここで死ぬのです。ただし、死ぬのは書類上の話だけで、本当に死ぬわけではありません」

「本当に死ぬわけではない? それはどういう事だ」

「あなた方にこの後でやってもらいたいのは、夜中に共同墓地から大量の死体や骨を持って来てもらいたいのです。あんな場所、貧民ばかりで聖女教にすら見捨てられた場所なので夜中に行けば誰もいませんわ」


 彼の頭が少し混乱してきたようだ、それでもわたしは説明を続けた。


「つまり、あなた方がここで大火事を起こし、大量の焼死体の骨が見つかれば、全員死んだ事になるわけです。そしてあなた方には大火事で大騒ぎになっている間にドリンコート領に夜の内に移動し、そこでわたしの工場で働いてもらうという事ですわ」


 この説明にギルド長ドワイトの顔面が蒼白になった。


「お……お嬢さん、アンタなんてこと考えるんだ……そんな事、普通の人間の思いつくことじゃ無い」

「それでは、この話を断りますか?」

「い、いや……もしそれが本当なら、是非とも乗りたい。儂らはもう商人ギルドのいいなりになって事故を起こすのはうんざりだ。このままではお嬢さんの話に乗らなくても本当にここがいつか大火事になって全員死んでもおかしくはない……」


 ギルド長ドワイトは眼を閉じてため息をついた。


「それでは、この話に乗るという事で良いのですね?」

「ああ、儂が工員全員を説得しておく」

「それでは全員分の前金をお渡し致しますわ。どうぞお受け取り下さいませ」


 わたしはこの工場ギルドにいる職員全員に渡るように、念の為にザフィラに持たせた金貨の袋を手渡した。

 これを受け取る=告げ口や裏切りは許さない、という意味にもなるだろう。


 さあ、今晩から作戦開始よ。

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