24 冒険者ギルドが欲しい!
「お嬢様、ソレ……本気ですかい!」
「ええ勿論ですわ! 冗談でこのような事言えませんわ」
人払いをした冒険者ギルドの応接室でわたしはギルド長のユリシーズと話をした。
「アナタ達、悔しくないの? どれだけ危険な目に遭っても、どれだけ大変な仕事を成し遂げてもその素材は何の苦労もしていない商人ギルドに横取りされて、その挙句に報酬は微々たるもの。そのくせ武器防具は商人ギルドを通したものしか買えないのでいつまでたっても金が溜まらず、装備のレベルが低いから高レベルのモンスターには勝てない」
わたしの言い方はギルド長のユリシーズを怒らせるには十分だった。
「何も知らない小娘が偉そうに言うな! おれ達がどれだけ苦しい思いをしているのか知っているのか!」
「知らないわ、だってそういう事を外に誰も言おうとしないのですもの」
「言えるわけないだろう……下手に商人ギルドの関係者にそんな話が入ったら、装備から何から用意できなくなる……」
思った通りだ。
商人ギルドはあえて低レベルの装備しか冒険者ギルドには与えず、モンスター退治は犠牲が出れば出ただけ取り分が減る程度にしか見ていない。
強いモンスターが出た場合は聖女教の手下の騎士団が出ればいい。
それ以外の雑魚や露払い、雑用程度にしかならないモンスター退治を薄給で押し付けられているのが冒険者ギルドだと言える。
「そうよね、アナタ達弱いものね。そんな負け犬ならいつまでも商人ギルドにアゴで使われて続けていれば良いわ。わたし、弱い者には興味が無いの」
「お嬢さん……言いたい放題言ってくれてるけど、おれ達だってプライドくらいはある。そこまで言われて黙っていられるほど人間出来ていないのでね……」
「あら、それなら負け犬さん達、わたしのボディーガードに勝てたら負け犬と言ったことを謝罪するわよ」
わたしは今ザフィラ、グスタフ、シロノ、ギュスターヴの四人を連れている。
この四人に冒険者ギルドのメンバーと勝負してもらうことにした。
「フン、獣人風情が……冒険者を舐めるなよ!」
ここでも獣人差別か。
まあそれもわたしの目論見通りなので偏見で見ていればいいわ。
腕利きの冒険者が獣人にあっけなくやられる姿を見せつければ、彼等もわたしの言うことを聞くでしょう。
「お嬢にゃま。シロノこんなとこでケンカしたくにゃいです」
「大丈夫よ、貴女は自分が思っているほど弱くないんだから」
「へっ、最初の相手は猫の獣人女かよ。冒険者を舐めるな!」
冒険者の剣がシロノを襲った。
しかしシロノはそれを軽くかわすと、肉球のついた手で冒険者に張り手を決めた。
「女の子にいきなりにゃにをするのにゃーっ!!」
バチィイーン!
シロノが軽く張り手をした冒険者は、壁まで吹っ飛び気絶した。
「お、お嬢にゃま。シロノ、にゃにか悪い事しちゃいにゃしたか?」
「いいえ、正当防衛よ。シロノ、貴女強いわね」
「えへへへ……」
冒険者はいきなり壁に吹っ飛ばされた仲間を見て目を丸くしていた。
それもそうだろう、奴隷扱いされた獣人しか彼等は知らない。
つまりは力を押さえつけられ、首輪で自由を奪われた獣人しか、この国の人間は知らないのだ。
「次、誰が相手してくれるのかしら」
「舐めるな、ガキが。ここは子供の遊び場ではないのだ!」
眼帯をして傷だらけの歴戦の傭兵といった男がザフィラと戦った。
ザフィラは歴戦の傭兵の剣を全て直前で躱し、鋭い爪で剣を弾いた。
「ガォオオオオゥッ!」
「何だと!?」
キィイン!
ベテランの傭兵の剣が宙を舞った。
その直後、ザフィラは傭兵を蹴り倒し、その身体の上に覆いかぶさる形で喉に爪を当てた。
「ザフィラ、そこまでにして!」
「レルリルルお嬢様、わかりました」
獣人に二連続で負けた冒険者達の顔に焦りの色が見えた。
今度は数人がかりで攻撃するようだ。
「ちょっと、卑怯じゃないの!」
「ガウ、お嬢様。だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「そう、怪我させちゃダメよ」
グスタフは数人がかりで攻撃され、魔法使いの魔法までも放たれた。
しかし少し毛皮が焦げた程度で、ほとんど無傷のグスタフは冒険者を掴んでは投げ飛ばし、あっという間に全員を気絶させてしまった。
「まさかここまで強いとは、仕方ない。このギルド長のおれ自ら相手をさせてもらう。このまま全部負けたままじゃ冒険者のプライドが傷ついたままだ」
「お相手致しましょう。さあ、勝負です!」
「お前は獣人では無いんだな」
「俺はお嬢様の騎士だ!」
最後の戦いはギルド長のユリシーズと騎士ギュスターヴの一騎打ちだった。
最初はギルド長ユリシーズが押したように見えたが、ギュスターヴは確実に攻撃を弾き反撃の機会を狙っていた。
「やりますね!」
「当たり前だ、武器のレベルが低いおれが生き残るには武器の熟練度を上げるしか方法が無いんだ!」
ユリシーズは使い込まれたロングソードでギュスターヴを激しく攻撃した。
しかしギュスターヴの剣は騎士団で提供されたミスリルソード。
武器のレベルでは圧勝だ。
だがギュスターヴの腕は武器だけではなくユリシーズを上回っていた。
「これで決めます!」
ガキィイインッ!
ギュスターヴの剣はユリシーズの使いこまれたロングソードをへし折り、彼はユリシーズの首元に剣を突き付けた。
「くそっ。おれの完敗だ」
ギルド長のユリシーズが成すすべもなく負けた姿を見た冒険者達はわたし達には向かおうという気持ちが折れてしまったらしく、全員が負けを認めてしまった。
「お話、聞いていただけますね」
わたしは再び応接間の椅子に座り、その横にはシロノ、グスタフ、ザフィラが座った。
ギュスターヴは立ってわたしの後ろに構えている。
「アンタら一体何者だ? 歴戦の冒険者が全くなすすべもなく負けてしまうなんて」
「わたしはレルリルム・ドリンコートですわ。ドリンコート伯爵の娘で、起業家でもあります」
「おお、アンタが噂の天才少女だったのか。良い部下をお持ちだ。しかし、何故首輪の無い獣人がアンタに従っているんだ?」
「この子達はわたしが奴隷市場から解放してあげたのよ、そしてその後普通の生活を保障してあげたの。それでこの子達は今わたしに従ってくれているの」
ギルド長ユリシーズは笑いながら煙草をくわえた。
「ハッハッハッハ、成程な。獣人が人に従うなんてのが信じられなかったが、アンタらを見てたら堅い信頼で結ばれてるってのがよくわかったよ。そりゃあおれ達が勝てないわけだ」
「それで、わたしの話を聞いてもらえますか?」
「もらえますか、ってよりもおれ達はアンタらに完敗だったんだ。もうどんな条件でも受け入れる覚悟は出来ている」
ギルド長ユリシーズはこの後わたしがどんな条件を出しても受け入れると言っている。
これならわたしの計画を話して聞いてもらえそうだ。
「わたしはこの国の流通を仕切る商人ギルドを潰したいの。それでアナタ達にその流通を仕切ってもらいたいのよ。つまりは盗賊やモンスターから荷物を守りつつ色々な町での行商をしてもらいたいの」
「それは穏やかな話じゃねえな。それにこの状態の冒険者ギルドに何ができると思ってるんだ? 商人の雑用や弱小モンスターを倒す程度の仕事しか出来ないし、それだけの腕の奴もいないんだぜ」
「だから先程アナタ達とわたしの獣人の部下を戦わせたのよ。獣人達はわたしのいうことは何でも聞いてくれます、彼等彼女等を冒険者として登録し、一緒に流通を担って欲しいのよ。その際の必要な武器防具はわたしが全て提供いたしますわ!」
あまりの好条件にビックリしたギルド長ユリシーズは、思わずくわえていたタバコを地面に落としてしまった。




