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18 盗賊ギルドを潰したい!

 鉱山の事故から数週間が経ち、わたしはドリンコート伯爵の領地に戻ってきた。

 どうやらあの鉱山で落盤したところから実際に金が見つかったらしい。

 これが不幸中の幸いというべきなのだろうか。


 あの騒動の中で一人の犠牲者も出さずに済んだのは獣人達とギュスターヴ率いる騎士団のおかげだ。


 騎士団の隊長だったギュスターヴは本部に異動願を届け出、わたしの直属の騎士になった。

 これだけすんなりと上司への異動願が受け入れられたのは、やはり何か理由があるのだろう。

 やはり腐敗した騎士団にとっては体のいい厄介払いが出来たといったところだろうか。


 『ギュスターヴ・フォートレス』彼は実直で誠実な人物だ。

 軍人の家系に生まれ、現騎士団副団長である父親テオドール将軍の息子である彼は数多くの武勲を上げ、モンスターを退治し、民衆の指示も厚い。


 だがそれだけに腐敗貴族にとっては厄介者だと言えるだろう。

 わたしの前の人生で、悪徳貴族と裏で結びついている盗賊ギルド、犯罪者ギルドを悉く壊滅させたのは騎士団長になった後の彼だからだ。


 だが彼が騎士団長になった時には王国はもう既に末期状況だった。

 腐敗貴族は国外に逃亡したり、革命軍に捕まり見せしめの死刑にされたりしているような状況下、隣国と戦争中だった騎士団団長グローヴス元帥の戦死、テオドール将軍の戦死の後、臨時で騎士団長を引き継いだのが彼だった。


 わたしは前の人生で間違いなく彼に嫌われていた。

 そりゃそうだろう、贅沢三昧で国民を省みない、毒婦そのものの王妃という名の偽りの聖女。

 上の命令で仕方が無く従ってはいたが、彼は明らかにわたしを蔑視していた。


 それでも職務に忠実な彼は、そんなわたしを守り続けてくれたのだ。

 王宮が革命軍の手に落ちた時、彼は馬車を用意し、わたしを外れの離宮に避難させようとした。


 奇しくもその離宮とはわたし達の今居るこの場所なのだ。


 ゴールドラッシュ後、華やかなカジノで一時的には栄華を極めたこの村だったが、王国末期には金を掘り出す鉱夫もいなくなり、貴族によって成り立っていたカジノは暴徒化した民衆の略奪で全てが壊滅し、残ったのは改修されずにここに在り続けたボロボロの離宮だった。


 ギュスターヴは王都を追われたわたしをこの離宮まで連れて来てくれるはずだったが、部下の裏切りにより、その計画を果たすことが出来なかった。

 逃亡計画の途中で捕まったわたしは再び塔に幽閉され、わたしを助けようと職務に忠実だった彼は怒りの民衆達の手によってなぶり殺しにされてしまった。


 そんな彼が今の人生ではわたしに心から忠誠を誓ってくれている素晴らしい騎士になっている。

 わたしはそんな彼に恥じない立派な女性にならないといけない。


「レルリルムお嬢様、俺は貴女の忠実な騎士です。たとえ何があろうとお嬢様をお守りして見せます」

「オイ、何を言っている。レルリルルを守るのはボクの役目だ!」


 白いライオンの獣人で元王子のザフィラがギュスターヴに噛みついた。

 いや、噛みついたというのは言葉のアヤで、本当に嚙みついたわけではない。


「失礼だがお前は誰だ。獣人の分際でお嬢様を守るだと……身の程をわきまえろ!」

「ふざけるなッ! レルリルル様はボクの大事な人だ。ボクが守るんだ」

「フッ、名前を間違える程度の獣人にレルリルムお嬢様が守れるとは思えんがな!」

「何だと、お前……ボクと勝負しろッ」


 何だか困った流れになってしまった。

 二人共わたしを守ると言ってくれているならそれでいいじゃない。

 それなのにギュスターヴとザフィラの二人は何故か勝負することになってしまった。


「さあ、やらせてみたらいいんじゃないですか。ただし、武器は使わないこと前提で」


 この流れをニヤニヤしながら見ているのは鬼畜メガネのアンリだ。

 コイツだけは何を考えているのか全く分からない。


「でも怪我したら……」

「彼等はそれでは収まりませんよ。お互いプライドがありますからね」


 もう止められないなら、思いっきりやらせるしかないのか。

 でも二人とも怪我はしてほしくない。


 先に手を出したのはザフィラの方だった。

 武器は禁止だと言っていたが、彼の爪は武器になるのだろうか。

 しかし爪はギュスターヴの鎧を削り取るだけで、実際の傷にはならなかった。


「そら、足元がお留守だぞ!」


 ギュスターヴは手甲を固く握り、パンチをザフィラのお腹に叩き込んだ。

 その直後ザフィラはギュスターヴの頬にパンチを叩き込み、お互いが吹っ飛んだ。


「はいはい、そこまで。二人共これ以上はやめておくんだね」


 決闘を止めさせたのはアンリだった。


「ふざけるなっ! こんな中途半端で終われるか!」

「コイツ、気にくわない。ギタギタにしてやるッ!」


 血の気の多い二人にアンリは笑いながらある提案をした。


「あのね、キミ達。それでもし勝ったとしても、レルリルムお嬢様が喜ぶと思う? むしろ傷だらけになった方を助けると思うけどね。彼女は聖女候補なんだよ」


 アンリの一言で気持ちがモヤモヤしたままではあるが二人は拳を収めた。


「どうも二人共納得いかないって顔しているね。それなら思いっきり発散してみたらどうかな?」

「えっ!? アンリ、一体何を言ってるの?」

「そうだね、キミ達には……盗賊ギルドのならず者達を退治してもらおうか。これで活躍した方がお嬢様に褒めてもらえると思うよ」


 アンリはいきなりとんでもない提案を出してきた。


「盗賊ギルド……だと?」

「そいつら倒したら、お嬢様褒めてくれるのか」

「そうだね、この領地の関所近くに盗賊ギルドがあるみたいだからね、ここを潰せばお嬢様の悩みも無くなるだろう」


 この盗賊ギルド、実際はわたしの父であるドリンコート伯爵が見逃している連中だ。

 父は関所ではほぼ無税に近い通行料にしている。

 だが実際はその後に盗賊ギルドの連中にその通行人を襲わせて金品を根こそぎ奪っているのだ。

 それだけに飽き足らず、女子供は攫ってそのまま奴隷商人に売りつける。


 あの男は裏で盗賊ギルドと組んで荒稼ぎをしているのだ。

 わたしはその事実を前の人生で、処刑の前に知らされた。

 わたしを恨んでいた人達の中には、盗賊ギルドに家族や財産を根こそぎ奪われた生き残りもいたのだ。


「え……ええ。二人共、無理しないでね」

「承知致しました! お嬢様」

「オウ、ボクに任せてくれ!」


 ギュスターヴは部下の騎士達を集め、ザフィラは仲間の獣人達と一緒に凄い勢いで屋敷を飛び出していった。


「二人共、大丈夫かな」

「大丈夫ですよ。彼等ならきっとお嬢様の悩みの種である盗賊ギルドを潰してくれるでしょう」


 確かにわたしは盗賊ギルドを潰したいと思っていた。


 でもわたしは、アンリに盗賊ギルドの話をした覚えはない。

 だが彼はわたしが読んでいたこの土地の収支報告書や、調べていた地図などの内容から盗賊ギルドの事を見抜いたのだ。


「まあここの盗賊ギルドが壊滅したとなれば、アイツらはネットワークを張っているだろうから他の土地に情報が行くだろうね。ドリンコート伯爵領には恐ろしく強い奴らがいると」

「アンリさん、それに一体どういう意味が?」

「なあに、今は怖がらせるだけで十分だよ。表立って動けなくするだけだから」


 本当に彼は何を考えているのかわからない。

 だが前の人生で稀代の詐欺師と言われたほどの知恵と頭脳の持ち主である彼は、ニヤニヤしながら何かの作戦を考えているようだった。


「さて、この事で色々と国内が騒がしくなるだろうな。盗賊ギルドと組んでいた上の連中は必死でこの件をもみ消そうとするだろうからね。でもね、世の中には、いくら上に命令されても黒い物を白とは言えない人達もいるんだよ」


 このヒント、何を意味しているのだろうか。

 わたしはモヤモヤしたままアンリの言った言葉の意味を考えた。

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