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12 婚約破棄させたくない!

レルリルムとザフィラのシーンを追加しました。

計算が分からないのをやり方教えてあげるシーンです。

 アンリのスパルタ学習は筆舌に尽くし難い物だった。

 一応わたしは前の人生で成人後とはいえ、聖女教の教師による最低限の教育を受けていたので読み書きや貴族社会のマナーは身に着けている。


 だが、彼の猛勉強はどう考えてもそれを大きく上回る量とレベルだった。

 政治、宗教、社会学、算学、外国語、軍事、農業、工業、造船、どう考えても中等科レベルではありえない学習の内容とレベルだ。


「ちょっと待ってよ……何でこんなにメチャクチャ大変なの!? 中等科の入学問題ってこれよりも簡単だったんじゃ……」

「嫌ならやめても良いんだよ。キミの野望はそこで止まるし、僕ももう来なくなるけどね」

「えっ!?」

「キミ、言ったよね。勉強して賢くなった私の手下でこの国を全て乗っ取ってやるって」


 確かにこれは数日前、わたしがアンリに言った台詞だ。


「賢くなった手下で国を乗っ取るって言ったけど、キミ……考えてもみなよ。賢くなった部下よりも上にいる人間が馬鹿、愚かだったらどうなると思う?」

「それは……」

「そんなの必要なくなるよね。そうなると……キミはいらなくなって……処刑か追放ってとこかな」


 ‼ そんな事考えた事も無かった。

 前の人生では確かにわたしは愚かだった、でも革命に至った流れはわたしとは直接関係ないと考えていた。


「今キツイ思いして、後々みんなに尊敬されるのと、今楽をして将来賢くなった部下に不必要と見做されて処刑や追放をされるの、キミはどちらの人生を選びたい?」


 彼はそう言うと眼鏡の奥にニッコリと悪魔の微笑みを浮かべた。

 もう選ぶことなんて許されるわけもない。

 わたしは死に物狂いで彼の勉強を耐え抜いた。

 彼はそんな合間に優しく獣人や子供達に文字を教え、簡単な数の数え方を説明していた。


 彼の説明はとても分かりやすく、獣人や子供達は一週間程度で自分の名前を書けるくらいになっていた。


「ボクのなまえは……ザフィラ! そう、ライオンの王の子ザフィラだ!」

「あたち、シャーリー。こうかくのかな?」

「オイオイ、シャーリー、それだとチャーリーだよ」

「そんなこと言うアンタだってグスタフじゃなくてダスタフになってるよ」

「ガウ、人のこといえなかったガウ」

「シロノ、もう立派に自分の名前も人の名前も書けるようになったのにゃ」


 彼を先生にしてよかった。

 アンリは食事の時間を算学の時間にした。

 食べて覚えるのが一番わかるからということだ。


「みんな、いまここに丸いパイがテーブルの数だけある。これを一人一つずつに分けるのに、テーブルが6個、椅子は7人が座れる。さあ、このパイは全部でいくつに分ければいい?」


 これはかけ算の問題だ。

 答えがわかった人に一個ずつ配っていく形で最後はみんなが食べれるようにしていた。

 答えは6×7の42個だ。

 全部の椅子の数を数えようとする子や獣人もいたが、やり方を言えないと出直しになっていた。


「ダメだ! どうしてもわからない! レルリルル、ボクは三より大きいかずがわからないんだ!」

「ザフィラは算学が苦手なの?」

「ボク、力にはじしんがあるけど。べんきょうはアタマがイタくなるからイヤだ!」


 わたしはザフィラに一つずつ数を教えてあげ、十までの数を数えれるようにしてあげた。

 パイは冷めてしまっていたが、ザフィラはわたしの言う事を素直に聞き、十が四つで四十という数を覚える事ができた。


「レルリルル、つまり十が四つで四十、それに二個で四十二でいいの?」

「そうよ、それをかけ算ってやりかたで言うと、6かける7は42って数になるのよ」

「なるほど、ろくひちよんじゅうに。パイはよんじゅうにこあったんだな」


 最後の一人になるまでに少しずつヒントを与えることで、食事の時間のうちにきちんとみんながパイを食べることが出来た。

 ザフィラは冷めたパイを食べる事になったが、わたしがかけ算や数の数え方を教えてあげたのがとても嬉しかったようだ。


 アンリはそんなわたしとザフィラをニヤニヤしながら見ていた。


 確かに勉強を楽しみながらやるというのはいい方法だと思う。


 それならわたしのスパルタもどうにかしてほしいってのが本音だけど、将来の為と聞くと仕方ないのだろう。

 さあ、諦めて勉強をするか……。


 でもそのスパルタ特訓の甲斐あって、わたしはトップの成績で王立学院中等科の編入試験を合格する事が出来た。


 わたしが学校に行っている間はアンリがお菓子屋の経営を兼任してくれることになった。

 これも一か月金貨十枚で頼んだ形なので、彼は一か月に金貨三十枚を稼ぐことになる。


 さて、わたしは今日から王立学院中等科の生徒だ。

 先日わたしは13歳になった。

 

 前の人生でもここに来ていたが、父親によるコネの裏口入学で、勉強なんてほとんどやらず、取り巻きの貴族令嬢と日々何かくだらない話をしてお菓子を食べているだけの日々だった。


 でも今は違う、わたしはあのスパルタ教師アンリの猛勉強を潜り抜けてきたんだ。

 前の人生では難しいと思っていた中等科の勉強が、今ではスラスラと解ける! 頭に入ってくる!

 わたしは編入数日で学院の注目の的になっていた。


 そこで人生中一番会いたくない奴に会う事になってしまった!


「おや、そこの美人は……最近話題の天才少女じゃないか!」


 コイツは『オウギュスト・アングレーム』王子だ。

 横にいるのは聖女候補として許嫁になっているアンリエッタで間違いない。


 本来伯爵以上でなければ王族との結婚は許されていない。

 だが、聖女となると話は別だ。


 この国では聖女は王妃と同じものとみなされ、何よりも立場が優先される。


 前の人生でのわたしは、家柄的に劣るはずのアンリエッタが聖女として王妃になるのが許せず、あのバカ王子を色仕掛けで誘惑して奪い取った。


 しかし本性を知ってわかったが、あのバカ王子はそこまでする価値も無い。

 そしてもしもだが、わたしがあの王子と一緒にならなければ、本当の聖女であるアンリエッタが王女になり、この国が破滅の未来へ進まずに済むかもしれない。


 この人生ではわたしはあのバカ王子と接点を作らないようにしよう。

 わたしはそう決めた。


「あら、王子様。御機嫌よう。お隣におられるのは、許嫁の方でしょうか?」


 出だしから許嫁がいるのに他の女に手を出す節操無しのイメージを与えてしまえば、そう簡単にわたしに手出しは出来ないはず。

 わたしはそう思ったが、バカ王子は想像以上にバカだった。


「そうだ。だが、ぼくはこの国の王になる。もし君が望むなら君を第二王妃として迎え入れてもかまわない。感謝するのだな」

「いいえ、ご遠慮いたしますわ。許嫁を大事にしてあげてくださいな」


 わたしはさっさとその場を離れようとした。

 しかしそれが気に入らなかったのか、バカ王子はアンリエッタを突き放し、わたしの手を取った。


「許せないなぁ、僕を相手にそんな生意気な態度。女はぼくのいうことに従えばいいんだよ。そうすれば幸せになれるんだから」

「でも貴方には許嫁が……」

「あんな下級貴族の娘、ぼくには不釣り合いだ。ぼくには君のような生まれながらに高貴な令嬢こそが相応しい……そうだ、アンリエッタと婚約破棄をして君を聖女にしよう。そうすればぼくの思い通りになる!」


 コイツのあまりの自分勝手な言い分にわたしはブチ切れてしまった!


「いい加減にして! 女はアンタの持ち物じゃないのよ!」


 バチィイーン!


 わたしがバカ王子を平手打ちすると、王子はその場に頬を撫でたまま、へたり込んで叱った。


「ぼ……ぼくをぶった。パパにもぶたれたことがないのにっ!」


 そりゃあバカ王子にもなるわけだ。

 今まで生きてきて一度も殴られたことが無いなんて。

 おろおろしている王子にアンリエッタが近寄り、治癒の魔法を使った。


「オウギュスト様、大丈夫ですか?」

「誰か! この女を捕まえろ! 国家反逆罪、王族を侮辱した罪で牢屋行きだ!」


 困ったことになった。

 衛兵がどんどん集まりわたしを囲んでしまった。

 どうにかここを切り抜ける方法は……そうだ!


「皆様、王国法第四条第三項はご存じでしょうか? 何人たりとも王族を侮辱、愚弄、揶揄する事は国家に対する反逆罪として厳罰に処される……でしたわね」

「そ、そうだ! それを知りながら僕をぶったお前は大罪人だ!」

「ですが……これには補足事項があります。ただし、王族は王族に相応しい振る舞いをするべし、それに見合わぬ愚行をたしなめる為の是正、忠告は反逆ではなく、むしろ忠心として王は自らを省みるべし……とありますわ。これは別冊の補足事項大典にまとめられているのでご存じない方もおられるではないでしょうか?」


 ここでアンリエッタが助け船を出してくれた。


「それ、アタシも読んだ事があります。父様の書庫に間違いなくありました。レルリルム様の言っていることは間違いではありません」


 婚約者のはずのアンリエッタに梯子を外されたバカ王子はマヌケ面で唖然としていた。

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