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11 勉強を教えて欲しい!

 何ということなの!?

 今わたしの目の前にいるメガネの男性、彼がわたしの会いたがっていた『アンリ・シュターデン』だった。


 彼はわたしに対し、いかにも貴族を馬鹿にしたような言い方で、これからする詐欺を仕事と言い放ったのだ。


「マヌケな貴族を手玉に取るってのは楽しいね。強欲で傲慢な悪徳貴族の持っているボロい廃屋をプライドだけは高い没落した貧乏貴族に売りつけるだけで売り上げの一割がもらえるってんだから。金貨三万枚だっけ、いや……僕なら三万五千枚にも四万枚にすらして見せるけどね」


 わたしの父親のドリンコート伯爵はいったいどれほどの相手とやり取りをしてしまったのだ!

 この人物、どう考えてもドリンコート伯爵もバートン子爵も自分の踏み台としか見ていない。

 そして彼が貴族を馬鹿にする時、眼鏡の奥に物凄く冷徹な視線を感じた。


「あ……あの、アンリさんは、何故そこまで貴族を目の敵にするんですか?」

「そりゃあ威張り腐った貴族が全て僕達庶民の敵だからさ! 何も生みだせない寄生虫のくせに。……おや、僕の名前を君に教えた覚えはないけど……流石だね、レルリルム嬢。どこまで僕のことを知ってるんだ? ひょっとして父親に言われてやはり仕事をやめて欲しいって言いたかったのかい?」


 やはり彼はわたしのことを知っていた。

 その上で彼はわたしが父親に頼まれて仕事をやめて欲しいと子供の口を使って言わせていると思っているようだ。

 そうではないことをきちんと伝えないと。


「違います! むしろこの話を言い出したのはわたしなんです!」

「何だって? いったい、どういうことなんだ?」

「実は……」


 わたしは奴隷市場を金貨三万枚で潰し、そのための費用が必要だからと離宮をバートン子爵に売る計画を父親に焚きつけた話を伝えた。


 その話を聞いた彼が、ポーカーフェイスを崩し、素顔を見せてしまった。


「そんな……僕が陥れようとしていた貧乏貴族が、妹の家だったなんて……!」

「妹!?」

「どうやらキミには隠しごとは出来なそうだ。キミが僕を信用して話してくれたように、僕も自分の身の内を話すよ。僕はバートン子爵の息子、本名は『アンリ・バートン』だ。貧乏子爵には継ぐような領地も無く、父の代でほぼお取り潰しが決まっていた。僕は父の友人だった裕福な平民の商人、シュターデン家に引き取られ、商人としての人生を選ぶことにしたんだ」


 なんてことなの! 彼が、聖女アンリエッタの兄だったなんて。


「でも……僕が実家を破滅させるかもしれなかった。そんな僕が踏みとどまれたのはキミのおかげだ。僕はやはりこの件から手を引く」

「いいえ! そのまま進めてください!」

「何故……そこまでこだわるんだ!?」


 わたしは離宮を売る本当の理由を彼に伝えた。

 あの寂れた土地からは少し手を入れれば本当に金鉱から金が出る話と、良識派貴族にこそあの場所を買ってもらい奴隷にされていた獣人を守ろうという話だ。


「信じられない……でも、高騰化した砂糖を悪徳貴族から買い占めたり、奴隷市場を潰したりしているキミのやっていることは実際に調べた。騎士団に悪徳孤児院を通報したのが最新の話みたいだね」


 彼の情報源がどこからのものかはわからない。

 だがその能力の高さは間違いなく本物だ。


「でも、何故キミのようなお嬢様が……敵を増やすだけのそんな何の得にもならなそうなことを? 伯爵令嬢なんて黙って笑っているだけで一生安泰だろうに」

「実は……」


 わたしはアンリに自身が妾腹で孤児院から伯爵が政略結婚の道具として引き取った話を伝えた。

 流石に前の人生で悪逆の限りを尽くした王妃でした、なんて荒唐無稽な話は避けておいた。


「成程ね……そうか、キミも痛みを知っている側の人間だったんだね。良いだろう、最良の条件でバートン子爵とキミの父親との交渉を進めよう。それと……もう一つ頼みたかった事があるんだろう? 言ってみなよ」

「本当ですか! 実は、わたしが悪徳院長から取り上げた孤児院なんですが、勉強を教えてあげられる人が誰もいないんです。金を出せば教師は見つかるかもしれませんが、獣人や孤児を馬鹿にせず、差別せずに勉強を教えてくれる人……わたしが探していた先生はそういう人なんです。お願いです! どうか、わたしの孤児院で子供達や獣人に勉強を教えて下さい!」


 話を聞いてくれたアンリは紅茶を飲んでから返答してくれた。


「成程。そういうわけだったか。確かに良い試みだ。でも……キミはそれがどんな危険な事なのかを分かっているのかい?」

「ええっ!?」

「考えてもみるんだね。聖女教や悪徳貴族が何故庶民に勉強を教えないと思う?」

「それは……」

「奴らは貧乏人には愚かでいて欲しいんだよ。効率ややり方を考えるのは為政者だけで良い。無能な貧乏人は頭の良い金持ちの手足にだけなって言われるがままに考えることも無く命令だけ聞けば都合が良いんだよ」


 確かにそうだ。

 実際聖女教は貧乏人にアピールするような炊き出しはたまにやっていたが、実際の仕事につながるような話は貧乏人側から一切聞こうとしなかった。


「もし腕っぷしのある獣人や数が大量の貧乏人の中に頭の良いものが出てきたらどうなると思う? そいつをリーダーに今のシステムが破壊される。そうなれば今の貴族なんてひとたまりも無いだろう。だから教育は富裕層だけのものにしておきたいんだよ。キミはそういう連中を敵にしてまで、貧乏人や獣人に勉強を教えるべきだと思うのかい?」


 つまり彼は貧乏人に教育するのは、現体制を敵にするのと同じだと言っているのだ。

 だがそれこそがわたしの願っていること、彼はわたしの想いをわかっているのだろうか。


「はい、勿論ですわ! わたしもそういう連中が大嫌い。わたし以外が威張ってるなんて許せないから、勉強して賢くなったわたしの手下でこの国を全て乗っ取ってやるんですわ!」


 あまりにも突拍子の無い言い方だっただろうか。

 アンリはメガネをずらしてずっこけてしまった。


「プッ……ハハハ、アハハハハハハ! 良いね! まるで横暴なワガママ姫だ! でもキミなら本当に出来るかもしれない! 良いだろう。僕の仕事の合間で良ければ子供達や獣人に勉強を教えてあげるよ。それで、いくらくらい貰えるのかな?」

「そうですわね、一か月金貨……二十枚あればどうかしら? もちろん時間は仕事の合間で大丈夫、……そうね最初は一日二回くらい読み書きを教えてもらえれば良いかしら」

「わかりました、レルリルムお嬢様。ただしこちらも一つお願いがあるのですが……」

「お願い?」


 彼は一体わたしに何を頼もうというのだろうか?


「はい、僕には先ほど言ったように妹がいます。彼女はとても良い子なのですが、所詮貧乏子爵の娘、彼女には誰も同じくらいの年の友達がいないのです。お願いです、仕事とは全くかけ離れた話ですが……妹と、アンリエッタと仲良くしてあげてください」


 何ということなの!

 今の人生でわたしはアンリエッタとは敵になりたくないと思っていたら、彼の実の兄からアンリエッタと仲良くしてほしいと言われた。


「勿論ですわ! わたしも同じ年くらいのお友達が欲しいと思っていたのですわ。是非とも妹さんと、アンリエッタさんとお友達になりたいですわ」

「これで交渉成立ですね。それでは……キミにはやってもらうことがあります」


 そう言うとアンリはメガネをずり上げて不敵な笑いを見せた。


「さあ、レルリルムお嬢様。覚悟してくださいね」


 何だかものすごく嫌な予感がした……。


 そして数日後、彼はわたしの孤児院に大量の書物を送りつけ、現れた。


「さあ、お勉強の時間です」

「え? これ……どう見ても子供用の読み書きのレベルじゃないわよね……」

「当然です。これはレルリルムお嬢様の王立学院中等科の入試問題ですから」

「えええーっ!?」

「お嬢様には妹と仲良くなってもらうために、王立学院中等科に入学してもらわないといけませんので……」

「なんですってぇぇぇー‼」


 わたしはその後スパルタでアンリの猛勉強の特訓を受ける事になってしまった。

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