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10 先生が欲しい!

 わたしは数日程、獣人や子供達に勉強を教えたが、やってみるととても難しかった。


「おねーちゃん、わからないよう」

「オレ、ざふぃラだけど、なまえなんてかくんだ?」

「ガウ、わからん」

「シロノ、なまえはかけるようになったのにゃ」

「すみません、みんな難しいみたいなんです。私はわかりますが……わかる人は一部だけかと」


 人にものを教えるのがこれほど難しいとは。

 あの聖女教の連中、そういう部分は得意だったようなので頭は良かったのだろう。


 やはりアンリを探さないと。

 わたしはその日の勉強をおしまいにして、みんなに孤児院の建物の掃除と修理を任せてわたしの経営するお菓子屋に向かった。


 お菓子屋は連日盛況である。

 今日も今日とても長い行列ができ、お客さんが並んでいた。

 そんな中で事件は起きた。


「ええいっ! 何故ワシが待たされなくていけないのだ。娘が待っているんだぞ」


 まあよくあるタチの悪い貴族が順番抜かしをしようとして止められ、ひと悶着が起きているようだ。


「そんなこと言ったってね、アンタここにいるのはみんな並んでるんだからね。人としてのルールも守れないのかい!?」

「ええい! 黙れ、下等な平民が貴族であるワシに逆らうのかっ!」


 このままでは下手すれば暴力沙汰になりかねない。

 いや、貴族が平民をその場で無礼だと殺しても罪にならないので殺人事件すら起きてもおかしくはない。


 誰もが行列から離れようとし、貴族の横暴がそのまままかり通ろうとしていた時、謎の男性が姿を見せた。


「いやあ、旦那様。旦那様のような立派な方がこのような下賤な者達の血で汚れるなんてみっともないコトはやめましょうよ」

「誰だ!? 貴様?」

「いえ、名乗るほどの者ではありませんよ。それより旦那様に提案したいことがございましてね」


 見た感じ、メガネをつけて飄々とした男性だ。


「何だ? つまらないことだったら貴様が血祭りになると思え」

「おお、こわいこわい。いや、旦那様。折角でしたら並ばずに誰よりも早く購入したいと思いませんか?」

「むう、それはそうだが」

「それでしたら、待つ時間を銀貨一枚で前の人から順番に買えばいかがでしょうか? そうすれば、あなたの気前の良さに誰もが喜んで順番を譲るでしょう。なあに、たかだか銀貨百枚程度で旦那様の立派さをみなが褒め称えるんですよ」


 この人物、なかなかの切れ者だ!

 貴族のプライドの高さを逆手に取り、順番抜かしではなく前の順番をそれぞれ銀貨一枚で買えばいいと提案しているのだ。


「ぬう、だがたかだかそのために銀貨一枚を使うのはなぁ」

「何をケチっているのですか!? たかだか銀貨で旦那様の立派さが噂されるのですよ。コレは宣伝効果とも言えませんか!」


 この男、まるで詐欺師だ! 相手を持ち上げつつ、損をさせることを損と思わせずに誘導している。


「うむ、そうだな! ワシの偉大さが庶民相手にたかだか銀貨百枚で買えるなら安い物だ。良かろう、貴様が平民にワシの銀貨を配れ、気に入った!」

「はい、旦那様。喜んで!」


 頭を下げた彼がニヤリとしたのをわたしは見逃さなかった。


 詐欺師に踊らされた貴族は機嫌よく銀貨を一枚ずつ渡してその度に順番を抜かし、一番手前まで移動して上機嫌で菓子を大量に買って帰った。


 横暴な貴族がいなくなった後、彼は順番を売った平民たちに深々と頭を下げた。


「皆さん、不快な思いをさせて申し訳ございませんでした。その銀貨は迷惑料だと思ってどうぞ受け取ってください」


 彼が頭を下げると喝采が沸き上がった。


「兄ちゃん、気に入ったよ! あの鼻持ちならない貴族から銀貨をせしめるなんてね」

「まあ迷惑料と考えれば安いものかもね、これでウチの子に良い物買ってあげれるよ」

「アンタ凄いな、貴族相手にまるで物怖じしないなんて」


 彼は一躍この場の主役になった。

 そしてちゃっかりとお客さん達に順番を譲ってもらった彼は、わたしの店で買い物をしようとした。


「一番安いクレープをくれ」

「はいどうぞ!」

「おや? 僕は一番安いクレープをくれと言ったのに、何故一番トッピング増しのものが出てくるんだ?」

「それはわたしの奢りです」


 わたしは彼が気になったので、話がしたくなった。

 その対価としてクレープの費用を立て替えたのだ。


「へえ、お嬢さん。ただのお金持ちの娘さんじゃなさそうだね。目を見ればわかるよ」

「目? ですか」

「ああ、そんな可愛い目の女の子、初めて見たよ」


 動揺するわたしの横に彼はいきなり立ち、わたしの手に銀貨を一枚手渡した。


「隙あり」


 その後ぱっと離れた彼は、悪戯な笑いをしながらわたしを見つめた。


「お嬢さん、実はあまり現場慣れしてないね、とっさのアドリブに弱いと見た」

「無礼な! アナタは誰なんですか!」

「おっと、名乗るほどの者じゃないと言ったはずですが」


 わたしは彼とのやり取りをお客さん達に見られている。

 ここで下手な態度をとると、店のイメージダウンになりかねない。

 だから今は下手な動きをするわけにはいかない……。


「お嬢さん、まあよかったじゃないの。今回のことで誰も傷つかなかったんだから」

「どういうことですか!?」

「そうだね、まずは、あの横暴な貴族だけど……順番抜かしを咎められたら逆上して刃物沙汰になっていた可能性がある、だからと貴族の横暴を見逃せば、今後この店は平民を蔑ろにして貴族を優遇する店という悪評が立つ」


 確かに言われればそうだ。


「だからあえて貴族の横暴はそのままにしつつ、そいつを浮かれた気分に追い込んで持っていた小銭を吐き出させる。なあに、あれくらいの貴族にすれば銀貨百枚なんて一日の食事代にもならないだろうよ。その銀貨を使い、順番抜かしを合法化するために順番を銀貨で買ったことにすれば、順番抜かしされた人の迷惑料にもなるから、増えたお金で君の店も儲かるってワケ。これが全方良しってことさ」


 凄い考え方だ。

 でも確かに彼がいなければ、誰かがどの形かでマイナスになっていた。

 そのマイナスは決して小さい物では済まず、後々に悪い影響を及ぼすものだった。


 それを彼は横暴貴族をペテンにかけることで銀貨百枚程度を使わせ、誰もが損をしない形を編み出したのだ。

 この頭の良さ、是非とも学校の先生に欲しい!


「素晴らしいですわ! 貴方とはお話をしたいので、是非とも奥の別室においで下さいませ」


 わたしは彼をわたし用の特別室に招いた。


「それで、僕に何の用が?」

「貴方の頭の良さ、そして人に説明する上手さ、わたしは惚れこみました、是非ともわたし達の先生になってもらえませんか?」


 しかし彼は即答で却下した。


「嫌だね」

「何故ですの!? わたしがお願いしているのに」

「だから貴族は嫌いなんだ。キミは違うと思ったんだけどね。ガッカリだ。稀代の少女経営者がどんなものか見るために僕はこの店に来たんだけど……残念だよ」


 彼の落胆は芝居ではなさそうだ。


「何故ですの? わたしの何が良くないと?」

「相手の事情も知らずに自分の意見を押し通す、そういうところだよ。僕はこの後とても大きな仕事をしようとしているんだ。キミはその仕事をキャンセルさせてまで僕に依頼できるだけの金があるのかい?」


 確かにそうだった。

 わたしは彼の事情も聞かず、わたしの願いだけを伝えていた。


「申し訳……ありませんでした。貴方の事情も聞かずに、わたしが浅はかでした。あの、差し出がましいようですが、もしよろしければ貴方はどのような仕事をしようとしていたのでしょうか?」


 彼はわざと厭味ったらしく鼻で笑って説明をした。


「ハハッ、鼻持ちならない強欲な貴族のボロい家を別の貧乏貴族に売りつける仕事さ」


 まさか! わたしの目の前にいる彼が……あの稀代の詐欺師『アンリ・シュターデン』だというの!?

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