ひまわりみたいな君が好き(オリジナル版)
(はじめに)
「第4回 小説家になろうラジオ大賞」参加用に書かれた同タイトル超短編の、1000文字化される前のオリジナル版です。
2分で読むことはできませんが、よろしければお楽しみください。
ひまわりみたいな君が好き
☆
「君はまるでひまわりみたいだね」
僕がそう言うと、君はいつものように照れて恥ずかしがる。
そんな素敵なものじゃないよって。
その仕草がものすごく可愛らしい。
大好きだ。
でも別に、僕はお世辞を言ってるわけじゃない。心からそう思ってる。
彼女はまさしく本当に、ひまわりみたいな女の子なんだ。
彼女を見ているだけで、夏の太陽の下、鮮やかに咲いたあのひまわりの花を思い出す。
たぶん僕だけではないと思う。
そう感じる人は少なからず他にも……いや、何なら君と出会った誰もがそう思うんじゃないか、そう思ってさえいる。
彼女は──まるでひまわりみたいだ。
間違いない。
君を初めて見たあの日を、僕は生涯忘れることはないだろう。
あれは3年前の夏。
一面のひまわり畑だった。
驚いた。
それこそ本物のひまわりの花そのものがこちらを振り返ったのかと、一瞬思ったんだ。
一目惚れだった。
それまで、映画やドラマなんかで一目惚れという言葉自体をもちろん知ってはいた。
でも信じてはいなかった。まだよく知りもしない女の子のことを、一目見ただけで好きになるだなんて。そんなのお話の中にしか存在しないフィクションだと思っていた。
こんなことが本当にあるだなんて。
一目で心の全部を奪われるだなんて。
自分で自分が信じられなかった。
でもそれ以上に信じられなかったのは、その後の自分の行動だった。
「突然ごめんなさい。──一目見た君を好きになってしまいました。僕と、つき合ってはもらえませんか?」
いきなり現れた見ず知らずの男がこんなことを言い出して、君はさぞびっくりしたと思う。
僕もだ。
自分がこんなことをするなんて、いやこんなことを出来る行動力を持っていたなんて。自分でも知らなかった。
誓って言う。
僕は普段からこんなことをしているわけじゃない。女の子と見れば無作為に声をかけるような軟派野郎じゃない。
この時が初めてだ。
相手が……君だったから。
君は困ったような顔で「ごめんなさい」って断ったよね。
そりゃそうだ。いきなりこんなこと言われてOKする人間がどこの星にいるものか。冷静に考えたら僕にだって判る。
でも僕は引き下がらなかった。
引き下がることなんてできやしなかった。
その場でしつこく、何度も何度も君にアタックした。知ってる愛の言葉という言葉を全部ぶつけて。どれほど僕が君に恋しているのか必死に伝えた。伝えようとした。
さぞ迷惑だったろう。
端から見ていたら僕だって、こいつ何て迷惑な男なんだとあきれていたと思う。
実際、周りの人たちも、何だか不思議そうな目で僕たちを見ていたのを覚えている。そりゃあ奇妙に見えたんだろうな。誰の目にも滑稽で間抜けな姿に映っていたんだろう。
でも……僕はなりふり構っている場合じゃなかった。
ここであきらめたら、ここで何も得ずに別れてしまったら最後、もう二度と君に会うことはできなくなってしまう。
何だかそんな気がしたんだ。
結局、君は僕のしつこさにとうとう折れて、お友達からだったら、と受け入れてくれたよね。
人生であんなに嬉しかった瞬間はない。
それから、何度もデートをしたっけ。
会うたびに、僕は君がますます好きになっていった。
君の声も仕草も、何より優しいその人柄も。何もかもが素敵でたまらない。僕の心はどんどん君でいっぱいになっていった。
もちろん、ひまわりみたいなその笑顔も大好きだ。
だから──
あの日、君から大事な秘密を打ち明けられた時は、ちょっとだけ驚いたけれども、別にショックとかそういうことはなかった。
君が……人間じゃなかったなんて。
より正確には、この星の人間じゃなかっただなんて。
実は正直、何となくそんな気はしていたんだ。君はきっと普通の人間じゃない、うまく言えないけど、どこかそんな予感はあった。
君はたった一人、遠くから、この地球にやって来ていたんだね。
でも、僕はそんなことどうだってよかった。
君が、好きだから。
君が人間であろうがなかろうが、
宇宙人だろうが妖怪だろうが怪獣だろうが、
君が好きなんだ。
君だから、好きなんだ。
むしろ、それを打ち明けてくれたことが嬉しかった。
それを話しても構わないくらいに、僕は君に信頼されているんだ、って思えたから。
本当にショックだったのはその後だよ。
君が……自分の星に帰らなくちゃいけない、と僕に告げたあの時。
目の前が真っ暗になった。
この世の終わりかと思った。
泣き叫んで君を止めたよね。かなりみっともなかったと思う。
でも、どんなに自分が格好悪くても、君と離れたくない、それが叶うならもう何だっていい、とあの時は思ったんだ。
だから、それでも帰らなくちゃいけない、と君が言った時はものすごくショックだった。
でも、君は言ったよね。
必ず戻ってくるから。
絶対に、この星に帰ってくるからって。
だから……僕は受け入れた。
君を信じた。
僕らが出会ったあの日と同じ──
あのひまわり畑で、君を待ってる。
絶対に待ってる。
君にそう告げた。
君のいない日々がどれくらいだったのか、僕はもうよく覚えていない。
心にぽっかり穴が空いたみたいだった。
どんなに空が晴れても、どんなきれいな花を見ても、どんな美味しいものを食べても。
ただただ虚しいばかりだった。
この世はこんなに切ないものなのか。人生ってこんなにつまらないものだったのか──
そんなことばかり考えていた。
君はもう二度と戻ってこないのかもしれない。
そう思うこともあった。
そんなこと絶対にない。自分で自分にそう言い聞かせながら、それでもどんどん自分に自信がなくなっていった。
何度も心が折れそうになった。
だから──あの日。
あの夏と同じ、一面のひまわり畑で君が僕を振り返って微笑んだ時。
僕は──
僕はもう、言葉にならなかった。
嬉しかった。
幸せだった。
君を心から抱きしめた。
僕の気持ちは今もずっと変わらない。
何度だって言うよ。
ありがとう。
本当にありがとう。帰ってきてくれて。
僕といることを選んでくれて。
ありがとう。僕と出会ってくれて。
君が好きだ。大好きだ。
心から愛してる。
二度とこの手を離したりなんてするものか。
いっしょに歩いていこう。
これからも、ずっと。
君が微笑む。すごく素敵だ。
やっぱり君はひまわりみたいだ、と僕は思う。
ひまわりみたいな君が、
僕は大好きだ。
☆
「ちょおい藤原、大変だ!矢島の奴見たか?」
「お、森川か。あぁアレな」
「あいつ何か……とんでもないのと歩いてたぞ。何だあれ?」
「彼女だとさ」
「彼女?彼女って……“彼女”か?」
「じゃないかな」
「恋人ってことか?」
「ああ。何か、しばらく遠くに行ってたんだけど、ようやっと帰ってきたんだとか」
「そういう問題か?」
「そう言ってたしな」
「いやそうじゃなくって……いや待て。てことはつまりあれって、女子なのか?」
「なんじゃないのか?本人もそう言ってるし」
「てか性別とかあるのか?あんなの」
「おいおい、仮にも友達の彼女だぞ。あんなの呼ばわりは失礼だろ」
「いや誰だってそう思うだろ。あんなもん目にしたら」
「人間、見た目が全てじゃないだろ」
「……そもそも人間なの?」
「そりゃそうだろ」
「何で当たり前みたいに言えるんだよっ」
「本人がそう言ってるしなぁ」
「だってオマエ、あれ何に見える?」
「何って……まぁ、ひまわりかな」
「だよなぁ?」
「お前にはそう見えないのか?」
「見えるに決まってるだろ!ひまわりだよ!ひまわりにしか見えねぇよ!それ以外のいったい何に見えるってんだよ!」
「そうか。やっぱりな……俺の気のせいとかじゃなかったか」
「気のせいとかそういう問題じゃないだろ。仮に100歩譲ってあれがひまわりじゃなかったとしてだ」
「なかったとして?」
「……いや100歩譲ったってやっぱひまわりだな。バカでかいひまわりが人間と並んで歩いてるようにしか見えねぇ」
「いやぁ不思議な光景だよな」
「異様な光景だよ!何なんだよあれは!」
「何でも宇宙人だそうだ」
「宇宙人っ?」
「びっくりだよな」
「そりゃびっくりだよ!驚くって!」
「宇宙人の彼女なんてな」
「そこじゃねぇっての!……宇宙人?“人”なの?宇宙怪獣とかじゃなくてか」
「そう言ってたしなぁ」
「く、食われたりとかしないのか?」
「大丈夫なんじゃないかな」
「何でお前はそんなに落ち着いてんだよっ」
「まぁ、本人はすごく幸せそうだったし」
「え?」
「違ったか?」
「あぁ……いやまぁ、それは俺も認めるけど」
「あいつ自身が幸せだってんならそれでいいんじゃないか?」
「そう……か?」
「外野の俺たちがとやかく言うことでもないだろ」
「そう……なのかな」
「これは矢島個人の問題だよ」
「……ううーん……」
「俺たちは友達として、温かい目で見守ってやろうぜ」
「そっか……そうだな。そうなのかもな」
「矢島の幸せを祈ってやろうぜ」
「だな」
「好みなんて、人それぞれだしな」
(作者よりもう一言)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
というわけで。
オリジナル版をお送りいたしました。
いくらか長くはなってしまいましたが、その分、中身はより濃く詰まったものになったのではと思います。たぶん。
完成版との差異などもお楽しみいただければ、幸いです。