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華やかなる舞踏会

 従者が扉を開くと光が眼前に満ちた。

 天井の巧みな風景画から煌びやかな黄金のシャンデリアが吊され、壁際の白い胡蝶蘭が甘い匂いを放ち、弦楽四重奏の音色は舞踏会の世界をいっそう、華やかなに色づけしていた。

 談笑するタキシード姿の男性と、いくつもの勲章をつけた軍人、象牙の扇で顔を隠しながら笑うどこかで見た伯爵夫人、白いレースを波のように揺らしながら歩く貴婦人。

 どこもかしこも懐かしい風景が変わらずに存在している。

 

 名門シレジレア家は、十三代当主……私の父の代で没落した。

 威厳のある父に優しい母だった。だが、ある事件を切欠に二人は酒に溺れ、挙げ句、禁制のモノに手を出し、白き壁の中へと堕ちた。没落貴族シレジレア。

 

 大好きだった兄の死で全ては変わっていってしまったのだ。

 私を助けるために、川へと飛び込んだ兄。私の代わりに死んだ兄。

 

――何故、お前が生きているのだ。

 

 中毒者になった父が、私にかけてくれた言葉。

 全てを失って、残ったモノは郊外の小さな屋敷と年老いた婆や、そして兄の代用品である私だけ。

 目に映っている景色は、もう、私のいられる場所ではない。


「ジレちゃん、やっぱり舞踏会に来てみると、すっごい似合ってるのが分かるよぉ」

「なにがだ?」

「もぅーなーにぃ、ぼけーっとしちゃって、ジレちゃんの格好に決まってるじゃん」


 我に返った頭でエミールの言葉を噛みしめる。格好? はて、なんだ? 


「おい、見ろよ、あれ、エミールの傍にいる美人、あれ誰だよ?」

「誰だろう……エミールの友達って、もしかして!」

「うっそ、あれ、ジレンマかよ! ありえねぇ、まるで女じゃん」


 ふざけたセリフに私は、睨みをきかす。



「うぁ、睨んでるよ、絶対ジレンマだ……でも、なんだろ」

「うん、なんだろ、なんか、ゾクゾクってする」

「ほへぇ、悪くないかも」


 なんなんだ、こいつら。

いつもの様子と違って、気色の悪い瞳でこちらを見続けているぞ。

 そう言えば少し寒気が。


「へっくちょ」

「うわぁ、ジレちゃんってカワイイくしゃみするね」


 くすくすといたずらっ子のように笑うエミール。


「むぅ、生理的作用で人を馬鹿にするな……先程から寒いのだ、特に背中と胸元と股の間がな」

「……ジレちゃん、それってドレス着てるからじゃないの? でも、股の間って表現は止めた方がいいよぉ」


 眉間にシワを寄せながら、エミールの示す方向を見る。夜の森がうっすらと見える窓に一人の淑女が映っていた。

 白いドレスには淡い桃色のレースが飾っており、大胆に開かれた胸元と背中から透き通るような肌が露出し、可憐さと妖艶さが混じり合っていた。


 なんて派手な服を着た女だ、眉をひそめたくなるな。すると窓の淑女も眉をひそめた。

 なんだ、こいつ私を見てるのか? 顔を近づけると窓の淑女も顔を近づけてきた。

 ほほぉ、やる気だな。そんな前髪を前に揃えるような髪型で、戦いに不利と知らぬと見えるな。

 思わず構えた所で、エミールがため息混じりに私の肩を叩いた。


「……ジレちゃん、それ冗談でも、面白くないからぁ」

「なんの事だ?」


 エミールのため息が心底分からない。


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