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偽物

「……ジレンマ・シレジレア。若くしてそれも女性でありながら、名門シレジレア家の当主に着かれた……心労は多大であったでしょう」


 公爵は幹から指を離し、私の方に手のひらを向けながら、歩いてくる。

 かちゃり、かちゃりと、帯剣の揺れる音。

 黒い革のブーツが舞い落ちた緑の葉を踏みしめながら、近づいてくる。


「大丈夫ですよ、ジレンマ。今後は私が貴女を保護してあげますから。ですから、その握りしめた拳を開きなさい。あなたには美しいドレスが似合う、きっとエミルも悦ぶことでしょうから」


 本当に? 本当にそうなの? にいさま……


「もちろん、亡きレメウス殿も……そして、私もです」


 閉ざされた拳に公爵の指が触れようとしたが、


「ジレちゃん!」


 その声に指を振り払う。


「っち」舌打ちに顔を上げると、サジタリウス公の苛立った顔。


「……エミル。僕は、学園で待っていろと言ったはずだが?」


 さきほどと違う氷のような声。けど、底にあるものは変わらない。

 束縛を命ずる声質。


「サジタリウス様……申し訳ありません。ですが、」

「申し訳はないのであろう、ならば」


 公爵はエミールへと足早に近づき、


「口答えするな!」


 平手で頬を打った。白い頬に赤みが差す。


「……はい」


 伏し目がちで耐えるように、エミールは頭を下げる。


「はは、不甲斐ないところを、お見せしてしまった」


 顔だけをこちらに向け親しげな笑みを見せる公爵。だが、顔とは裏腹に、


「しかし、躾はしっかりしなければ!」


 空中で留めた平手を返す刀のように、手の甲でエミールの反対側の頬を殴りつけた。

 裏拳を受ける形になり、エミールは地面に倒れ込む。

 胸が締めつけられる。それだけじゃない……。

 公爵は倒れたエミールの傍にしゃがみ込むと顔を起こす。


「エミル、悪い子だ。主人の言葉に逆らうなどと……またあの『言葉』を言って欲しいのかい?」 


 公爵の言葉にエミールは、唇を震わす。


「や、やめてくださ……」

「『エミール、ごめん僕は君のこと』」

「い、いやぁぁぁ、レメウス様ぁぁぁ、そんな事言わないでぇぇ!」


 耳をおさえながら、エミールは狂ったように頭を振るう。

 身体中ぼろぼろで、心もぼろぼろで。

 私は……


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