#008
「何が必要か、分かってる?」
「馬車は必要だよね。屋根と壁のある、荷馬車にしないと」
「他にも、焼くための型とか、調理道具一式」
無一文の俺たちでも、手に入れる方法はあるのか? 否。あるわけない。
「ここからちょっと歩くけど、KOHも一緒に来て」
「何処に行くつもり? 危険な場所は、行かない」
「大丈夫だよ。危なくないから」
市場エリアを離れ、どんどん歩いていく。半ば強引に袖を引っ張られ、やって来たのは、謎めいた、摩訶不思議な店。
店内に入るのを、躊躇いたくなる程、奇妙な雰囲気を醸し出している。
「ここは?」
「ここはね、不要品広場だよ。ここなら、調理道具一式、手に入るでしょ?」
「分かっているだろうけど、無一文なんだぞ、俺たち」
「分かってるよ。壊れてたりしてて、使えないような物ばかりが集まってるの。だから、ここにあるのは、全て無料!」
ドヤァ。なんて顔を向けられ、無理矢理腕を掴まれ。
サーラに身を任せ、渋々店内へ。
見た感じ、店内には俺たちだけらしい。
ろうそくが灯された、薄暗い店内には、服やら木材やら金属類やらが、ごちゃごちゃ。
「えーと、荷馬車は、こっち」
「何処まで連れていくんだ。俺はもう出たい」
「私だけで決められないよ。ほら、歩いて」
「そもそも。大判焼きなんて、作れるわけ? 俺は、無理だから」
「大判焼き屋さんで、バイトしてた。だから、大丈夫」
何が大丈夫なのか、誰か教えて欲しい。
「箱形の荷馬車にして。あ、この箱形の荷馬車、後方だけじゃなく、両側面にも、扉が付いてる!」
「御者台、ボロいけどね」
「これにしよう!」
「勝手にどうぞ~」
もう、俺は嫌だ。
今すぐ逃げ出したいけど、腕を掴まれていては、逃げられない。
「テントも欲しいね。あとは……」
ようやく解放されたと思った矢先、欲しいと思った物は全て、俺の足元に置かれていく。
「KOHは、御者台を直してて。その辺りに、木材があるから」
「はぁ。仰せのままに」
俺の冒険は、大判焼きを作る為ではない。
パンデミックを終わらせるため、この世界の創造者である、《カゲロウ》に会わなければいけないのだ。
適当な木材を手に取り、『ご自由にお使いください』の文字とともに、何故だか壁に掛けられた、工具を手に取る。
バールを使って傷んだ座席を剥ぎ取り、新しい木材を当てていく。
釘は、元々のやつが使えそうで、それを使うことに。
「はぁあ。何で、こんなことをしなきゃ、いけないんだよ」
「お金を手に入れる為だよ!」
聞こえてたのかよ。独り言だったのに、サーラといると、全て狂わされる。
「てかさ、馬はどうする予定?」
「心配ご無用! ハイド原野に行けば、ポニーロップっていう、ユニコーンみたいな角の生えた馬が、いるんだって」
「手懐けて、馬車を牽いて貰うと?」
「イエス! よく分かったね」
「それは良いけど、材料はどうするつもり? 小麦粉と砂糖、あんこ、カスタードクリームが必要でしょ?」
あっと、驚いた表情のサーラ。材料の問題を、忘れていた様子。
「うーん。ハイド原野に行って、材料を探そう。無ければ、大判焼きは、諦める」
「ここまでやって、諦めるわけ? 必要な道具は一通り揃えたんでしょ? あとは、俺たちの寝袋」
「KOH、良いの?」
「一緒に行くって言ったの、俺だし。ここまでやらされて、諦められるのも、嫌なんで」
「KOHって、良い人だよね。出会えて良かった」