#006
「ごめんねぇ。ローブを買ってくれた上に、杖探しまで」
「杖の無い回復術師は、ただの村人と変わらないでしょ。無力な村人に投資する程、余裕なんて無いから」
「ホント、ごめんなさい。そこの角を曲がった先に、水辺があって、そこに空き家があるんだよ」
俺は何故、こんなことをしているんだろう。
サーラと出会って数時間。まだ日は高く、冒険日和だというのに。
最初のクエストが、杖探しになってしまうとは、誰が思っただろう。
「ここだよ。私が寝泊まりしてた、空き家」
市場の外れなのだろうと思われる、人気のない、一角。
ドアのない、土壁の小屋に到着した。
「空き家ってより、小屋だろ。ドアはないし、窓は板で閉められてる」
「何だか、減ってる?」
「この辺で、家畜を飼ってるとは思えない。市場の片隅で家畜を飼っていたら、臭いで分かる。」
大量の干し草の中から、30センチ程の杖を見つけ出す。
干し草が減っているなら、大歓迎だ。手間が省ける。
「よし。片っ端から探していく。減ってる理由なんて、知った事か」
「うん! 頑張ろう!」
***
捜索を始めて、体感15分くらい。一向に、見つかる気配は無く。
「ここじゃないのか……」
「うーん。他に立ち寄った所なんて、あったかな……」
持ち主ですら、何処に置き忘れたのかを、忘れる始末。
このままでは、冒険になんて出られない。
いや、待てよ。
サーラとは、正式にパーティを組んだわけではない。それなら、俺一人で冒険に出るか。
「このままじゃ、日が暮れちゃうよぉ」
「1日目は、この市場で終わり。って、セーブされるんだろうな」
「どうしよう?」
「考えるな。手を動かせ」
「KOHの予定、狂わせてない?」
「大幅に狂った。必要なものを買い揃えたら、すぐに出発する予定だった」
そんなこと言ったって、サーラに罪は無い。それは分かっている。
それに、サーラを再び一人にしていては、また、襲われかねない。
「また買わなきゃだね」
「買い直すって、お金無いでしょ」
「そうだけど、でも……」
「ここがダメなら、立ち寄った場所を、全て捜索する。それでもダメなら、考える」
干し草全てをどうにかしたいけど、小屋の持ち主に無許可でなんて、そんなことは不可能。
ひたすら掻き分けて探すしか、方法はない。
「ここで、何をしている?」
振り向くと、麦わら帽子を被った、オーバーオールの農夫らしき人物が立っていた。
サーラが対応するべきだけど、ここは俺が。
「この小屋の、持ち主ですか?」
「そうだ。勝手に、干し草を弄りやがって。どうしてくれる」
「すみません。探し物をしていたんです」
「探し物?」
「回復術師の杖なんですけど、長さは30センチくらいで、色は黒に近い茶色。先端には緑色の宝玉が付いています。恐らく、エメラルドかと」
「エメラルドの杖か。それなら、これの事か?」
すると、農夫は荷馬車の荷台から、一本の杖を持ってきた。
それは、黒に近い茶色で、先端にはエメラルドの宝玉。そして木の根が絡まったような杖。
サーラの言っていた特徴と、ピッタリ合っている。
「これです! 私の杖!」
「ネエちゃんの杖か。しかしまぁ、何でこんな所に?」
「ごめんなさい。少し、寝泊まりをさせて貰っていました」
「寝泊まり!? この干し草の場所で!?」
「フカフカで、暖かくて、気持ち良かった」
「そ、そうか。うん。気に入ってくれて、何より」
「でも、それも終わりなので。ようやく、冒険に出発出来ます!」
いや、それは、キミに言われたくなかった言葉。誰のせいで、予定が狂ったのだろう。