#005
ブティックは、今いる場所から数メートル行った場所にあった。窓から覗いてみると、中は賑わっていて、多くの冒険者たちでひしめき合っている。
「人多くないか?」
「そうかな? そうでもないよ」
「さてと。なるべく安いやつな」
緑色のドアを開けると、心地良いベルの音が響いた。
店員の姿は、若い女性ひとりしか見当たらず、この人が店主なのだろう。
「いらっしゃい。何をお求め?」
「えと、この子に見合うローブを。なるべく安く」
「あら。回復術師のハーフエルフちゃん。先程はありがとう」
「こちらこそ。この、凄く着心地が良いです!」
「ローブね。うーん。パーカーに合わせるなら、そうね。パーカーが薄桃だから、ネイビーはどうかしら」
女店主は、近くにあるローブの中から、ダークネイビーのローブを持ってきた。
「可愛い! この模様、初めて見た!」
「これ、いくらです?」
「これはね、500ゼニーよ」
「安いですね。この世界の物価は、安いんですか?」
「どうかしら。昔からずっと、物価は変わらないのよ。きっと、《カゲロウ様》のお陰ね」
「誰です? その《カゲロウ様》とは」
「この世界を作って下さった方よ。カゲロウ様が居なければ、この世界で暮らすスフィア人は居なかったわ」
《カゲロウ》と名乗る創造主が存在しているならば、このパンデミックを終わらせる、方法が見つかるかもしれない。
「あの。《カゲロウ様》に会うことは出来るのでしょうか?」
「無理ね。あの方は、伝説として伝わる方なの。今も生きているはずだけど、何処にいるのかは、誰も分からないわ」
「ありがとうございました。これで、冒険に出発出来ます」
「そう? また何かあれば、いらっしゃい」
ブティックを出て、いよいよ冒険が始まる。買ったばかりのローブを着たサーラは、ご機嫌な様子。
「ありがとう。買ってくれて」
「先行投資だから。良い働きをしてもらいたい」
「任せなさい! 期待以上の働きを提供するから!」
「ハァ……。これで、残金ゼロ」
「モンスターを倒して、経験値と、ドロップアイテムと、お金を手に入れよう!」
簡単に言うなぁ。あれ? 何か気になる。俺の杖はあるし、サーラにはローブを買った。なのに何故だろう。このモヤモヤした気持ちは、一体。
「サーラ。キミの杖は?」
「杖? それなら……。あれ? 私、何時から杖持ってない?」
「知らないよ。出会った時には、持ってなかったよ」
「どうしよう。何処かに、置いてきたかも」
冒険者が、自らの武器を忘れるなんてこと、100%無いと思っていた。
いや、サーラの場合、危機感が無さすぎる。
「どのくらいの大きさ? 色や特徴は? 俺と出会う前に、立ち寄った場所は?」
「えと、えと。大きさは、30センチで、木の根っこが絡み合ったような杖なの。先端には緑色の宝玉が付いていて、色は黒に近い茶色」
30センチくらいの杖か。サーラのことだから、このエリアから出ていないはず。狭い範囲なら、二人で探せるか。
「KOHと出会う前に立ち寄ったのは、武器と鞄のお店、ブティック、あとは市場をウロウロ」
「寝泊まりは何処で? その場所にあるかもしれない」
「寝泊まりはね、空き家で寝てたよ。干し草の上で寝てたから、暖かかった」
「可能性を消していきたい。先ずは、その空き家から探そう」
冒険が始まるはずが、回復術師の杖探しに変わってしまうとは。先が思いやられる。