#004
一先ずの買い物は済ませ、賑やかな市場を一通り見て回ろう。
「さてと。回復薬だな」
残金は500ゼニー。レベル1だとしても、回復薬は必須アイテムだ。
道々、回復アイテムを手に入れるとしても、多少は必要になる。買うか迷うな。
「離して! イヤだ! 離してよ!」
「俺たちのパーティには、回復術師が必要なんだよ」
「そうだぜ、ネェちゃんのような、可愛い回復術師を探してたんだよ。こっちに来いよ」
「ちょっと、触らないで!」
近くで女の子の悲鳴が聞こえる。これは、警視庁生活安全課として、何もしないわけにはいかない。
「見つけた」
店と店の間の薄暗い路地。そこには、ハーフエルフと思われる女の子ひとりと、二人組の巨漢。見たところ、盗人か。
「嫌がってるだろ。手ぇ離せ」
「あぁん? 誰だテメェ」
「通りすがりの魔法使いだ」
「痛い目に遭いたくなきゃ、とっとと失せな!」
「おいおい。レベル1だってよ。俺たちはレベル5だ。勝ち目はねぇぞ」
「レベルなんて、関係ないね」
「くたばれ!」
殴りかかってきた盗人A。そんな無造作に殴って来たって、寧ろこっちのモノだろ。
腕を掴み、引き寄せてから回り込んで、一気に投げる。
ドーン! と響く衝撃音。近くを歩いていた通行人たちは、何事かとこちらを見ている。
「グァァァッ!」
「アニキ! アニキ! 大丈夫か!?」
「グゥゥゥ……」
さてと、あとひとり。どうしてくれようか。ボコれるだけ、ボコることも出来る。
「おい、盗人B。かかって来いよ」
「ヒッ! い、お、覚えてろぉ! アニキ、立てるか!?」
勝てないと分かった瞬間、逃げていく盗人二人組。もう少し遊んでやっても、良かったかもな。
それより、女の子の安否を確認しなければならない。
「大丈夫だった?」
「助けて下さり、ありがとうございます! って、KOH!?」
「え? あ、サーラ!? まだこの街にいたのか!?」
「冒険に出る前に、着替えようと思って。それで……」
「だからって、ホットパンツにパーカーはダメ!」
「ごめんなさい」
「取り敢えず、このローブ着てて」
全く。こういう類は、現実世界でも異世界でも一緒かよ。
「サーラ。ちょっと良い?」
「何? KOHのローブ、大きいね」
「パーティ探してるなら、俺と行く?」
「え? 良いの?」
「レベル1だし、回復術師がいれば、回復アイテムを買わなくても済む。それに」
「それに?」
「キミをひとりにしておくのは、危ないらしい。だから、俺がキミを守る」
警察官として、守らなければならない時が、異世界でもやってくるとは。仕方ないけど、サーラをひとりにしていたら、また襲われるかもしれない。
「じゃ、じゃあ、改めて自己紹介。私はサーラ。ハーフエルフの回復術師」
「俺はKOH。ヒューマンで魔法使い。よろしく、サーラ」
ひとりで冒険する予定だったけど、誰かと冒険するのも悪くないか。
「冒険に出る前に、先ずは服を買いに行こう」
「KOHも着替えるの? そのままでも良さそうだけど」
「キミのローブを買う。そのままだと、また襲われかねない」
「ええと、もうお金無いよ」
「買ってあげるから。ブティックは何処?」
「ありがとう。ブティックなら、こっちだよ」