#003
市場は賑わっている。見たことあるような果物や、何だこれ? と言いたくなるような物までが、売られているようだ。
「先ずはバッグと杖か。武器が手に入るのは、何処だ?」
歩き回ること体感で10分。あらゆる売り場を見て回った俺は、遂に魔法道具の店を見つけた。
「いらっしゃいませ。何をご所望で?」
何かの映画で見たような、燕尾服を着た長い白髪のおじいさんが、この店の店主らしい。
待てよ。俺たちはプレイヤーだ。こういったお店の店主は、NPCなんじゃ? 会話の成立は、難しいんじゃないか?
「アイテムを入れるバッグと、魔法使い用の杖を。この店には、ありますか?」
すると店主は、店の壁に掛けられている、多くのバッグの中から、ベルトバッグのような小さなバッグを出してきた。
おいおい。マジかよ。こんな小さいバッグじゃあ、入れたいアイテムなんて、入らないじゃないか。
「バッグでしたら、これは如何ですかな。見た目の割に、たくさんアイテムが入ります。バッファロンの丈夫な革を使っているので、どんな攻撃や衝撃を受けたとしても、破けることはありません」
「バッファロン? それ、何んですか?」
「二本角の、暴れ牛モンスターですよ。群れを成し、セーロン川の中流域に暮らしています」
バッファローみたいなモンスターなんかな。いつか観てみたい。
「アイテムは、どんな物でも入る?」
「ええ。このバッグよりも大きい、魔鉱石ですら入りますよ。ご覧になりますか?」
まさかの実演!? そもそも魔鉱石なんて、リアルで見たこと無いから、大きさがわからない。
「こちらが、魔鉱石になります」
ガラスで出来ているように透明な、アメジストの原石のような結晶体を、何処から出してきたのか。手のひらサイズになっているこの結晶体を、ベルトバッグに入れてくれるらしい。
「よろしいですか? いきますよ」
バッグのフラップを開けると、結晶体はバッグに吸い込まれるように、中へ入ってしまった。
驚きのあまり、言葉が見つからない。
「え? 吸い込まれた?」
「この世界では、当たり前の事です。そのうち慣れますよ」
「へぇ。じゃあ、それをください」
「ありがとうございます。他は魔法使いの杖でしたね。店の奥にあります。どうぞ、こちらへ」
店の奥へと案内された俺は、目の前の光景に、圧倒されてしまった。店の奥は、細長い箱が天井まで積まれ、床も見えない程。
「貴方に合う杖を見つけましょう」
そう言うと店主は、近くにあった箱から、杖を1本取り出した。
手渡された俺は、杖の握り心地を確かめる。
「こちらの杖は、50年もののリンゴの木から作られた杖です。しなやかさが特徴ですよ」
「これは、握りやすい。太さも丁度良いです」
「杖を振ってごらんなさい。貴方に合っているなら、杖は貴方の言うことをきくのです」
徐に杖を振ってみると、ガタガタと音を発てて、積んであった箱の山を崩してしまった。これは、俺には合っていないらしい。
「ごごご、ごめんなさいっ!」
「これまた、派手に崩れましたな。それでは、こちらは如何でしょう」
次に渡されたのは、黒くてツルツルした手触りの杖。
太さはさっきのと変わらないようだ。
「クチナシの木に、黒鳥獣の尾羽を使用した杖です。硬く艶やかな杖なのです」
「クチナシ? あの、黄色い実の?」
「そうです。こちらの杖は、少々クセのある杖なのですが、どうでしょう」
同じように振ってみると、なんと言うか、杖から俺に、歩み寄ってくれている。気持ちの良い風が吹いてきて、どんな魔法でも使えそうな、そんな感覚。
「これは……?」
「何人もの魔法使いに杖を売りましたが、この杖が選んだのは、貴方だけです。杖は選んだ者を主とし、幾多の困難を乗り越えるという」
杖が俺を選んだ。この先、どんなクエストがあるのか、進んでみなければ、何も分からない。
しかし、今の俺は、この杖となら何処へでも行ける!
「この杖、買います。いくらですか?」
「1000ゼニーです。バッグと合わせて、1500ゼニーです」