晩餐会後の王城
大きな机が一つだけ置かれた部屋。イスルカ国王執務室。
ワシは木製の大きな椅子に腰掛け、書類に目をとうしていた。
「うむ、コレはこのまま進めてくれ、サローム」
「はい、ではその様に。所で、どうしたものでしょうか?」
「ルド・ロー・アスの事か。うむ、どうしたものか・・」
ルド・ロー・アス。イスルカ王国最高の冒険者じゃ。あの者のお陰で、国は随分救われたからのぉ〜。彼に支払う褒賞は、かなりの物になるのじゃが・・・・まさか、更に偉業が増えるとはな。
「よもや、バハルメネクを倒していたとはなぁ〜」
「まったくもって予想外でした。陛下」
「そう言った情報は、入っとらんかったのか?」
「はい、何より先王陛下の時代でしたから」
それを聞いて、思わず眉を寄せてしまう。ワシが在位したのは、約二十年前。クアッザート砦の戦いが終結した後じゃった。
父上の時代は荒れていた。魔物との戦いだけではないく、
人との戦いでもあった。砦に人員を割き過ぎて、他国の領土侵犯を許してしまった。
「まったく、死肉を漁る貪狼とはこの事だ」
「はい、まったくで。しかし、あの国も代替わりして、今や友好国ですからね。代われば変わると言いますが、あそこまで変わるとは・・・・」
「これも、彼に感謝せねばな」
「はい・・・・ですが、あの国もルド殿を狙っているご様子。何でも、第二王女がご執心とか」
第二王女か・・・・ルド・ロー・アスも、厄介な者に好かれたものよ。うむ、いっその事・・・・いやいや・・今、頭に浮かんだのは保留じゃな。
「陛下、いっその事・・」
「待てサローム! それは言うな!」
「ハァー、しかし、一番手っ取り早いものかと・・」
それはそうなのだが・・・・しかし、そうなると・・・・うむ。
「そうしますと、爵位ですね」
「その辺はどうなのだ? もし褒賞を爵位にとするならどれ程になる?」
「最低でも侯爵は固いかと・・」
「何じゃと! それ程か!」
「はい、功績の多くが規格外ですから。彼は本当に人間なんでしょうか?」
大臣が、彼の功績や偉業がまとめられた書類の束を見せてきた。読めば読む程、頭が別な意味で痛くなる。正直、やり過ぎなくらい王国の恩人なのじゃが!
「うーむ・・侯爵なら・・問題ないかの? じゃがアレがよしとするか・・・・。いや、それはルド・ロー・アスも同じか」
「陛下! 可能かどうか、本当に検討してみますか?」
「まあ待て、慎重に慎重を重ねねば」
『コンコン』ん? 誰ぞ来たか。
「陛下、エバンにございます」
「エバン? おう、そうじゃった。聞きたい事があって、来るように言ったのであった」
今宵の晩餐会に関して、ちょっと、聞きたい事があったのじゃった。
「はっ、失礼致します」
「陛下、ご報告に来ました。先程、ルド殿がお帰りに」
「うむ、そうか」
「それと・・・・」
「どうしたのだエバン?」
「それが陛下、ルド殿が剣を忘れてお帰りに」
「剣を?」
「はい」
そう言って差し出されたのは、なかなかの拵えを施された見事な剣だった。
「これは見事な作り、さすがルド殿。王国一の冒険者が帯剣する剣は、違いますなぁ〜」
「えぇ、本当に。ですが、どうした物でしょうか? サローム大臣」
「明日の朝一番に、とどければよいでしょう」
「では、そのように」
「所でエバンよ」
「何でしょう陛下?」
「実は気になっておったのだが? わしが来る前、何やら盛り上がっておったの。何だったのだ?」
扉の前で、やけに賑やかじゃのぉと、思っていたのだが?一体なん騒ぎかと凄く気になっていたのじゃ。
「あぁ、アレはその・・・・実は・・・・」
「何じゃぁとー」「何ですってぇー」
引退じゃと・・・・何と、引退を考えていたとは。
「今日明日にも引退、と言う事は無いでしょうが」
うーむ、確か彼は四十手前じゃ。引退を考えてもおかしくは無いか。
「陛下、コレはいい機会なのでは?」
「いい機会とは一体? 陛下、サローム大臣。一体、何の話を・・・・」
「いや、何でも無いぞ・・・・」
「はい、何でもありません・・・・」
うぐっ、エバンのあの目、完全に疑っておる。いや、そもそも、王に対してその目はなんじゃ!
「陛下、サローム大臣。私達は歳も近い事から、昔から友の様に付き合ってきました。その私に隠し事ですか?」
「いや、隠すつもりは・・・・」
「陛下の言う通りです。ただ言いにくいだけです」
「なるほど、長い付き合いの私でも、言いにくい内容と」
「ぐっ、いえ、その」
サローム! 馬鹿者! 昔からほんとお前は。うっかりも大概にせよ!
「陛下、どう言う事ですかな? 言わないと、王妃様に・・・・」
「うむむむ。わ、分かった。言うから、言えばいいのだろ。
ただし、誰にも言ってはいかんぞ! 誰にもだ」
「ふむ、姫殿下にもですか?」
「そうじゃ!」
「分かりました」
「実はの」と、わしらのちょっとした計画と言うか、考えをエバンに話した。するとエバンは、妙に納得して賛成した。
「その話、案外上手くいくのでは? ルド殿は兎も角、あの方は受け入れる所か喜ぶかと」
喜ぶ? まさか、そういう事なのか? まさか・・・・だから?・・うむ、うーむ。なら父として少し動いてみるかの? 上手くいくかは分からぬが・・・・。少し酒でも飲みたくなってきたのう。
「そうじゃ、三人が久しく集まったのだ。一杯どうじゃ?
まさか友人の誘いをことわらんよな?」
「では、一杯だけ」
「わたくしも付き合いましょう」
結局三人は、一杯だけでは終わらず、夜更けまで酒盛りは続いた。
まったく二人とも、わし秘蔵の高級酒を、遠慮なしに飲みおってからに。しかも、妻に見つかって怒られたではないか!
確かにわしが誘ったが、わしはあくまで、寝る前の一杯程度にするつもりだったのだ! まったく!
その頃姫殿下は・・・・。
「引退なろ、みりょめーん」
ベットの上で、グッスリと寝ていた。
「みひょめんぞー・・・・・・・・ルドどりょ、いっちゃりゃやー」
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