オッサンと晩餐会 後編
突如、開いた扉から入ってきたのは、イスルカ国、国王。
ヴァロデウス・ベレディクト・イスルカ陛下だった。
「「「「「「陛下」」」」」
殿下に将軍や公爵達は椅子から立ち上がり、臣下の礼をとった。冒険者の俺やマリーダ達も、一応椅子から立って頭を下げた。
「礼はその辺でよい。楽しい食事を邪魔してすまんのぉ」
「父上、どうしたのですか急に?」
殿下は「こちらへ」と、自身が座っていた椅子に誘導した。陛下は、殿下の椅子にゆっくりと腰かけた。殿下は陛下の左横に立ち、陛下の肩に優しく手を置いていた。
「うむ、実は・・・・」チラリと、何故か陛下が俺を見てくる。
「ふむ、ルド・ロー・アス。そなたに用があってのぉ」
「えっ? 俺ですか?」
「そうじゃ、サローム執政大臣!」
「はっ!」
陛下が部屋に入って来る時、陛下の後ろにいた初老の男性が返事をした。
執政大臣・・・・確か政務を取り仕切る人だったか?
執政大臣は、書類をパラパラとめくり出した。
「ルド殿、貴殿に支払う褒賞が溜まりに溜まっているのですが?」
一体何を言われるかと思って、内心ビクビクしていたのだが・・・・褒賞? 何の?
「褒賞ですか?」
「はい、貴殿が成し遂げた多くの偉業に対する褒賞です。それが、支払われずにかなり溜まっています」
偉業? 別にたいした事して無いけど?・・・・そう言えば! アレの事か? 何度か使者が来たヤツ。忙しいうえに面倒だったから、断ってたっけ。
「あの、サローム大臣。褒賞の件は、お断りしたと思うのですが?」
「受け取って貰らいませんと困ります! 王国の威信に関わります! 他国から、何故ルド殿を褒賞しないのかと愚痴を言われるんですよ!」
サローム大臣は、顔を真っ赤にして怒りだした。
相当ストレス溜まってそうだなぁこの人。褒賞ねぇ、貰ったら貰ったで、面倒な事になるし。それに、無くても報酬は充分貰ってるからなぁ。
「サローム、落ち着きなさい」
「失礼しました陛下」
「兎に角そう言う事じゃ、受け取ってくれぬか? そなたの活躍が、イスルカ王国のみなら受け取らずとも問題は無かったのじゃが・・・・」
まあ、他の国でも結構頑張ったもんなぁ俺。あっ、そう言えば、他国から、うちに来ないかって誘われたっけか?
イサルカ側からしたら、Sランクの冒険者を取られる訳にいかないからな。
「褒賞かぁ。大臣! そいつにはぁ、クアッザート砦の褒賞も入ってるのか? もし入って無いなら入れてくれ」
「「「「「???」」」」」
「ボルナーク将軍、何故クアッザート砦なのじゃ? クアッザード砦の攻防があった時、ルド・ロー・アスはまだ子供じゃろ? まったく関係ないではないか」
「父上、クアッザート砦とは、まさかあの・・・・」
「うむ、そのまさかじゃ」
クアッザート砦とは王国の北、魔境に接する国境付近に建てられた砦だ。
魔境、魔物の巣窟、暗黒の大地。最も古い文献に記されているその地名は、バハルメネク。人間の生活圏へと広がり続け、幾つもの国を飲み込んできた恐ろしい場所だ。
複数の国が魔境に接しているが、イスルカ王国のクアッザート砦は、その中でも飛び抜けた最前戦の激戦地だった。
「何故も何も、ルドはクアッザート砦で戦ってましたぜ?」
「「「「「はいぃぃぃぃぃ?!」」」」」
「な、な、誠か? いや、しかし・・・・その頃は成人もして無いじゃろ!」
「いえ、陛下。参加してましたよ。確かあの時は、十五才になったばかりだったと思います」
「「「「「「なにいぃぃぃぃぃぃ?!」」」」」
俺の言葉にみんな驚愕した。ちなみに、この世界の成人年齢は十八才だ。
「いや、あり得ないでしょう。確かに、クアッザート砦は激戦地で、「兵が幾らいても足り無い」と言われたとは言え、成人もして無い者が参加は出来ない筈です。そうお達しが出ていたのですから!」
「しかしなぁ〜レイザール公。現にルドは砦にいたからなぁ〜」
ある程度、砦の状況を知っている陛下や公爵達からは、嘘だろと言う顔で見られた。
「ルド・ロー・アス。本当に本当なのじゃな? 冗談の類いでは無いのだな?」
突然、優しい顔から、厳しい王としての顔になった陛下が、低い圧のある声で聞いてきた。
「はい、誓って冗談などではありません」
陛下の目を、真っ直ぐに見て俺は答えた。
「ふむ・・・・じゃが、事実として、何故お主はクアッザート砦にいたのじゃ? 確かに兵の募集や徴兵はしていたが、成人未満は対象外の筈じゃ」
「陛下の言う通り、確かに兵の募集や徴兵もおこないましたが、成人未満は禁止令を出しております。私は大臣補佐として、募集や徴兵に関する書類等作成に関わっていました。間違いありません」
「陛下や、サローム大臣の言う通りです。私の領地でも、成人未満は除外しました」
「「「「・・・・???・・・・」」」」みんなが、何でと
いった顔で俺を見てくる。
「ルド・ロー・アス。どう言う事じゃ?」
「別に、たいした理由では・・・・。俺の故郷でも徴兵が始まって、当初は父が行く筈でしたが、父は足が悪い為に無理
でした。父の足ではいざと言う時、逃げる事も出来ませんから。そんで次は、成人していた兄がと言う話になったんです。ただ、兄は病弱で戦う何て無理でしたし、結婚の予定もあったんです。なので俺が代わりに行ったんです」
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
「うっ、うわーん。ルドさんはいい人過ぎですぅ!」
「うっ、ひぐ、えーん。ルドさん優しいっす!」
何故か、フィオとリジーが泣いていた。泣き所なんてあったか?
「なるほどのぉ、そのような事情が。しかし、成人しとらんのに、よく受かったのぉ」
「いや陛下、そりゃ受かるぜ! コイツ、ガキの頃からデカくて、ガキに見えなかったぞ!」
うーん、確かに身長はあったな。十五の時で百八十は、ゆうにあったからな。
ちなみにオッサンは、身長百九十七センチあります。
「とは言え、激戦地だったクアッザート砦での戦いは、幾らルド殿でも大変でしたでしょう?
「大変? 無い無い。大臣、コイツ砦に来たその日に、オーガキング倒してるぞ」
「「「「「はあぁぁぁぁ?!」」」」」
「オーガキングって、あり得ないだろ! ちょっ、ホントなのか! ルド!」
「お、おい、マリーダ落ち着けぇぇぇあぁぁぁぁぁぁ」
マリーダが胸ぐらを掴んで持ち上げて、凄い勢いで揺さぶ
ってくる。
ぐおっ、マジ落ち着け! 出る! 食った物が出る!
「マリーダ殿! 落ち着け! ルド殿ならそれくらいやってもおかしくないであろう?」
「む、すみません殿下、取り乱しました。・・・・確かにルドの化け物っぷりなら」
「そうですぅ、ルドさんは化け物ですぅ」
「そうっす! ルドさんは化け物だ!」
「おう、ルドは化け物だな!」
「確かに、ルド殿は化け物ですしね」
何か、酷い言われようだな。化け物化け物って! 俺だって、結構傷つくんだよ!
それに、おやっさん! あんたには言われたくないよ! オークジェネラルとか、オークキングを素手で殴り殺しただろ!
「じゃが将軍よ。クアッザート戦に参加しとるだけでは褒賞とはいかぬぞ。彼に褒賞をとなると、戦に参加した者全てに出さねばならぬ」
「陛下の言う通りです。そもそもクアッザート戦において戦死した者も含めて、戦った者全てに慰労金と勲章が与えられています。ルド殿だけを特別扱いする訳には・・・・」
そりゃそうだ。それに、俺も別に欲しく無いな。そんな物貰った所で、嬉しくとも何ともない。逆に、散っていった仲間や戦友に申し訳ない!
「おやっさん、別に俺は要らないぞ」
「あぁん? オメェが貰わないで、誰が貰うんだ! バハルメネクを倒したのはオメェだろ!」
「「「「「「なんだってぇぇぇぇぇ!!」」」」」」
バハルメネク。地名から、そのまま取って付けられた名前の怪物で、とてつもない巨大さを誇る見た事無い化け物だった。奴を倒した事で、魔境の侵食を抑える事に成功しただけでは無く、後退させるまでに至った。学者の間では、魔境の主なのではと言われる。故に、地名をそのまま名前に付けられた。しかし、倒すのに余りに多くの犠牲者を出してまった。
「でもアレは、みんなで頑張ったからだろ?」
「いやいや、殆どオメェの攻撃で倒したろ! ラインハルトも、ベイリーンにファルガスも、皆がそうだって言うぞ!」
「・・・・そうか? いやいや、ラインハルトさんも、結構斬りまくってたぞ? ベイリーンさん何て、バハルメネクの角へし折ってたし。ファルガスの爺さんなんて、爆破しまくってたじゃんか! それに、おやっさんも結構やってたぞ」
「そうだったか? いやでもよぉ〜、バハルメネクにとどめ刺したのはオメェだろ」
「いや、弱ってたからだろ? あんだけタコ殴りにされたら大抵の魔物は死ぬだろ」
「そうか?」
「絶対そうだって!」
凄いと言うか、酷かった。ほんと、酷かったぞアレ。バハルメネクに軽く同情したぞ。
「あのぉ〜、凄い名前がいっぱい出たですぅ」
「アレ? ベイリーンて確かあねさんの・・」
「ルド! お前、師匠と知り合いだったのか!」
「あぁ、少しな」
ベイリーンさんかぁ、懐かしいな。そうか、マリーダの師匠だったのか。どうりで、戦い方が似てるなぁ〜と思った。
「いえ、それよりファルガス様ですぅ。イスルカ王国最高の魔法使いですぅ。まさか、ルドさんが知り合いだなんてですぅ」
「知り合いも何も、ルドはファルガスのじじい最後の弟子だぞ?」
「ふぇっ?! ファルガス様の弟子」
「何! ボルナーク将軍、その話は本当か!」
「本当だぞ、レイザール公。ファルガスのじじいだけじゃなく。ルドは、ラインハルトの弟子でもあるぞ」
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
みんな、驚き過ぎて目が点になっている。大臣とか顎が外れんばかりに口が開いていた。
「では、ルド殿は妾の兄弟子なのですね」
殿下が満面の笑みで言ってきた。殿下、機嫌がだいぶなおったな。でもそうか、ラインハルトさんて王国に仕える騎士だったな。王国一の剣の使いてなら、殿下に稽古をつけてるよな。
「そうですね姫様。ですから私も、ルド殿の妹弟子です」
「むっ、妾の方が先だぞ! リサーナ!」
・・・・リサーナもか。しかし、何故張り合う?
オッサンは、どっちが妹弟子として先か張り合う二人を、生暖かく見守った。最終的に、リサーナが一日早く教えて貰っていたと言う事で決着した。
「王国一の剣の使い手に、王国一の魔法使いに教えを乞うたなど、王族とて難しいぞ。じゃが、ルド・ロー・アスの、底知れぬ強さの秘密を知った気がするわい」
「まったくです陛下。こうなると、褒賞を更に上げるべきでしょうか?」
「いえ、別に要りませんよ!」
「ですからルド殿! そう言う訳にはいかないのですよ! 兎に角今回は、精査し直すと言う事で・・」
「そうじゃな、それでは皆の者。失礼させてもうぞ」
そう挨拶して、陛下と大臣は部屋から退出した。
「姫殿下、そろそろお時間でござます」
「エバン、もうそんな時間か? では、名残り惜しいが、今日はこれでお開きとしよう。皆、今宵の晩餐会はとても楽しいものであった。出来ればまた、開かせてくれ」
「「「「「はっ」」」」」
殿下はリサーナを伴って部屋を退出した。公爵やおやっさん達も、殿下が行かれた後に部屋を出た。
ふう、やっと帰れる。着替えたら、さっさと帰るぞ!
「おい、ルド! 私達は城に泊まるがお前はどうすんだ?」
「帰るぞ? 王都に住んでるからな」
「そうか、じゃあーな。あっ、奢る話。忘れてないからな」
「分かってるよ。それじゃあーな」
「ルドさん、バイバイですぅ」
「ルドさん、じゃあーねぇー」
「ではルド殿、部屋へ参りましょう」
「はい、エバンさん」
「ルド殿、何だったらお泊りになられますか? 部屋を用意しますよ?」
「遠慮します」
俺は帰って寝るんだ。こんな落ちつけない場所じゃなく!我が家へ!
オッサンは、着替えが終わると一目散に帰った。それは、とんでもない速さで。部屋に剣を忘れる程に。
その日から王城の近衛隊では、ある噂が立つ事になる。走るよりも速く歩く、デカイ人物の噂が・・・・。
とある近衛隊長は警備日誌にこう残している。。
あまりの速さに、目で追うのがやっとだった。どうやったらあんな速さで歩けるんだ? もし彼が本気で走ったら、まさに目にも止まらぬ速さだろう。と・・・・。
オッサンは知らない。それから暫く、王国最速のウォークキングとして名を馳せる事なるとは・・・・。
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