閑話 妖精の旅路 エングランツ公国王の間 その2
「まだか! まだなのか!」
エングランツ公国の王の間に、また‥エングランツ公国公王の声が響きわたる。
「貴方‥‥落ち着いて下さいまし。イスルカ王国からの報せが届いてから、まだ四日ですよ。いくらあの、ルド・ロー・アスとは言え、無理と言うものです」
「そう‥か。そう‥‥だな。ぐぬぬ、早く来てくれ! 頼む!
ルド・ロー・アス!」
天にも祈る気持ちで公王は、玉座に深く腰掛け、両手を合わせ祈る思いでいた。
ぐぬぬう、これほど一日を長く感じるのは初めてだ。早く、早く来てくれ! ルド・ロー・アス!
刻一刻と、シャウードの迷宮から魔物に関して報告が送られて来る。その報告により、今にも魔物が溢れ出てもおかしくない状況にある。その為、王の間には不安と焦りが募っていた。
大臣や文官など‥皆沈黙し、王の間には重くるしい空気が漂う、そんな時だった。突如、兵の一人が慌てて入って来たのだ。
「公王陛下!」
「な、何だ一体! まさか‥‥シャウードか?!」
公王の勢いに「い、いえ、違います」と、やって来た兵士は気圧される。「では、一体何だ?」と、公王は飛び上がった玉座に腰を下ろした。
「は、はい。えーと、そのですね」
「なんじゃ、はっきりせぬか!」と大臣が一括する。すると兵士は、重くるしい空気の中、口を開く。
「は、はい。ヴィルム海底洞窟の近くにある漁村、ポートスの冒険者ギルドからの報告でして‥‥」
「ヴィルム海底洞窟近くの‥‥。公王陛下! もしや!」
「うむ! 待ち侘びたあの者が来たのだな! 続けよ!」
「は、はい。冒険者ギルドのギルドマスターから、ヴィルム海底洞窟がダンジョン化し始めており、公国中央の冒険者ギルドに報告と助力を求めたようです。その事について、冒険者ギルド側から報告が‥‥‥」
「「「「「ダンジョン化?!」」」」」
「なんじゃと! よりによって、こんな時に!」
「どう、対処すべきでしょうか大臣!」
「兵の大半をシャウードに向かわせてしまった以上、こちらは対処出来ませぬぞ」
「「「大臣!」」」
「う、うむ‥‥‥公王陛下、どうしましょうか?」
「し、知るか?!」
場は混乱し、大臣や文官達は右往左往し。公王も慌てふためく。
「貴方も大臣も、皆も落ち着きなさい。
そもそも、ダンジョン化=危険な事態と言う事なのですか?」
「う、うん? イザベラよ、どう言う事なのだ?」
「ヴィルム海底洞窟かダンジョン化している、それは大変な事だと思います。しかしそれは、今すぐに危険と言う事なのですか?」
王の間に居た者達は皆、互いの顔を見合わせると「ふむ?」と考え込む。そもそも、迷宮の発見や発現は、とても珍しく。数百年に一度あるか無いかの事態だ。公国のシャウード迷宮さえ、発現したのは三百年も前で、それ故に、対処の仕方自体が分からないのだ。
「大臣! どうなのだ?」と公王はたずねる。
大臣は少しの間、目を瞑って考え込む。
「公国で最も新しい迷宮がシャウードの迷宮ですから‥‥。
古い資料を探さねば分かりかねますじゃ」と首を横に振る。
「大臣、急ぎシャウードの迷宮が発現した際の状況と対応を知りたい」
「畏まりました陛下。直ぐに用意させます」と大臣は文官に指示を飛ばす。「所で、そのヴィルム海底洞窟のダンジョン化を報告したのは一体‥‥」と大臣はブツブツと言い始める。
それを聞いた公王妃が「もしかて!」と声を張り上げる。
それを聞いた公王も「まさか‥そう言う事なのか?」とピーンときた様子。
「おい、ヴィルム海底洞窟のダンジョン化を報告した者は誰なのか。報告を受けたか?!」
公王は、報せを持って来た兵に問いただす。
兵は陛下の質問に「はっ! ギルド側の報告によると、ルド・ロー・アスとの事です」
「「「「「ルド・ロー・アスだと!」」」ですと!」じゃと!」
「ルド・ロー・アス殿は! もうエングランツ公国に来ているのですね! 貴方!」
「あぁ、イザベラ! 公国は助かるぞ! して、ルド殿はどちらに?!」
「えっ? あの、それについての報告は聞いておりません」
「なんじゃと! 何をしとるか!」
「すみません!」
「落ち着きなさい大臣。兎に角、ルド・ロー・アス殿が公国に入ったのは間違いありません。確か、迎えの兵を送った筈でたわね」
「あぁ。迎えに出した兵達から、何かしらの報せがくるであろう」
「「「はい」」」
その頃、おっさんを迎えに来た兵士一向は‥‥。
ポートスの冒険者ギルドホール。
「何だと! ルド殿は既に、ポートスを出立しただと!」
「おう。ほんの数時間前にな!」
「「「「た、隊長!」」」」
「ぐぬぬ! まさか、入れ違いになろうとは!」
「ぐわーはっはっはっ! スゲェー勢いで出てったからなアイツ」
「ぐぅ! 仕方がない。兎に角、陛下に報せを‥‥。くっ、我々の任務は、ルド殿をお連れする事だと言うのに。‥‥はっ! 今なら追いつけるか?」
「は、はい。早馬を用意致します!」
「うむ! 行くぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「あっ、こら! ちょっと待てやー! ‥‥行っちまいやがった。
んだよ。ヴィルム海底洞窟の方を手伝えや! まったく!」
悪態をつきつつギルマスは、兵士達が出て行った扉を見つめていた。
その頃、おっさんは‥‥‥。
「後、山を三つ越えればシャウードの迷宮に着くな」
景色が、凄い速さで後ろに流れて行く。ポケットから顔を出すエリエルは「ルードーさーまーはー、すーごーいーはーやーさーなーのーでーすー」
「そんなに口開けて喋ると、虫がはいるぞエリエル。それに凄い顔になってる。風圧で!」
おっさんは、凄まじい速度で公国を横断しているのだった。




