妖精との旅路 ヴィルム海底洞窟編その2
村から数分の場所に、深く大きな洞窟がある。入った者は二度と出てこれない。死の国へと、繋がっているとも噂される恐ろしき場所、ヴィルム海底洞窟。ここに入って生きている者は、オッサンを含め、数人のみである。そんな場所を、オッサンは通路代わりに通ろうと言うのである。
「ここを通るのです? 怖いのですー」
苔むし、水が上から滴り落ちる。洞窟の先は、深く暗いため、まったく見えない。そんな洞窟を目の当たりしたエリエルは、オッサン以外は、居無いにも関わらず、胸ポケットから出ようともせず、
胸ポケットでから頭だけ出して、ブルブルと震えていた。
「心配いらん。俺がいるから安心しろ」とオッサンは、エリエルを安心させるために声をかける。
ヴィルム海底洞窟には、何度も通ってる。だから問題ない。
俺ほど、ヴィルム海底洞窟を把握してる冒険者もいないだろう。
「じゃあ、行くぞ。エリエル」
「は、はいなのです」
オッサンは、散歩するくらいの気分で、ヴィルム海底洞窟へと入って行った。
「ひゃう!」
「どうしたエリエル?!」
「雨なのです!」
「あぁー。水滴が上から落ちて来たのか」
ポタポタと、上から水滴が落ちてくる。洞窟内は、所々がツルツルと滑り、オッサンも慎重に歩いていた。
「暗いのです」
「まだこの辺は、明るい方だぞ。入り口から、光りが僅かだが届いてるからな」
洞窟に入ってから数百メートル。洞窟内は、ひたすら真っ直ぐに降っており、数百メートル歩いても、まだ入り口の光りが届いている。
「もう少し行くと、さすがに光りが届かなくて真っ暗になるぞ」
「真っ暗なのです! 怖いのです!」
「大丈夫、明かりもある。それに・・・・」
「それに?」
「エリエルって、光れるだろ? ぼんやりとだけ」
「・・・・はっ! そうなのです! 確かにエリエルは光れるのです! お役に立つのです!」
「あはははっ。おー、困ったら頼むぞ」
「はいなのです!」
ポタポタと雫が落ち、奥に進むにつれ暗くなっていく。安全のため、おっさんはランプを手に持って、奥へと進んでいく。
「暗くなってきたのです。怖い! なのです」
「森だって暗かっただろ?」
「森よりも暗いのです」
「まあな」こっちは本当に、一寸先は闇だからな。
振り返ると、遠くの方に洞窟入り口の光りが見える。だいぶ奥まで降りてきたという事だ。光り石のランプで照らさないと、危なくて歩けないくらいには、暗くなっている。更に奥に進めば、光りのない真っ暗闇と化す。
「ぶるぶる」
胸のポケットに僅かな振動が、どうやら、怖さのれてまり、エリエルが震えているようだ。
「大丈夫かエリエル?」
「ぶるぶるなのです」
それは怖いって事だよな?
「暗くて怖い! なのです。それに・・・・」
「それに?」
「魔物の気配なのです!」
エリエルも感じとったか。このヴィルム海底洞窟は、魔物の巣窟だ。かなりの数の魔物が存在している。正直、何故ダンジョン化しないのかと不思議になるほどいる。暗闇でも、獲物を感知する能力があるので、ランプ片手の俺達は、普通不利なのだが。
「大丈夫大丈夫。ここにいる魔物は、俺より弱い奴ばかりだから。
襲って来やしないよ」
「そうなのです?」
「あぁ。襲って来た魔物は、全て返り討ちにしたからな」
残ってる魔物は、基本、俺を襲わない奴等ばかりだ。
ただ、久しぶりに来たからな。魔物の生態がどうなってるやら。
エリエルの心配を他所に、オッサン達は、洞窟内を襲われる事なく三時間程歩き続けた。
「静かなのです」
「そうだな」どうやら、俺を襲うような魔物は、増えてなかったか。
特にこれといって何も起きない。時おり、直ぐ近くまで魔物がやってくるが、ただジッとして動かず、何もしてこない。
そんな状態が三時間続いていた。
「ちょっと・・・・休憩するか」
「ほえ、こんな場所で! なのです?!」
「いや、もう少し先でだ。この先に、広い場所があるからそこでな。そこなら明るいし」
「ほへ? 明るいです?」
「あぁ」
エリエルは胸ポケットで、こんな暗い洞窟に、明るい場所? と考え込んでいた。しかし、二分程歩くと真っ暗闇の洞窟内に、微かに光りが見えてくる。
「ほわわわ! 明かりが見えるのです!」
「おっ、着いたな」
真っ暗な洞窟から、突然明るい広い空間に出た。同じ洞窟内にも関わらず、その場所の岩の壁は、所々が明るく光っていた。
「ふわぁぁぁ。お星様みたいなのです」
「上だけじゃなくて、下も見てみな」
「下なのです? ふわあわわわ!」
上、横、下。あらゆる場所から、星のように光りが。
エリエルはその光景に、とても感動したようで「ほえーー」と見とれていた。
「さて、休憩するか」そう言うと、オッサンは濡れてなさそう場所に腰をおろした。
「ルドひゃま」
「何だエリエル?」
「はんでほほは、おほひひゃまでいっはいでふ?」
「あぁ、エリエル。飲み込んでからもう一度たのむ」
休憩のオヤツにと出したクッキーを、エリエルは口一杯に頬張りながら喋っていた。
リスか!
「もぐもぐ、ごっくん。ごくごく・・・・ぷはーー!
何でここは、お星様で一杯なのです?」
「あぁ、それはな。これだ」そう言って、オッサンはランプを見せた。しかし、エリエルはよく分からないと「ほえ?」と返した。
「この、光り石だエリエル。この光り石が、ここにはそこら中にあるんだ」
オッサンは、ランプの中から光る白い石を外し。それをエリエルに見せながら説明した。
「ここは、光り石の鉱脈なんだ」
光り石自体は、そこまで希少な物では無いが。ここまでの大鉱脈
はそうそうないだろう。魔力を込めないと光らないが、ここには込めずとも魔力が満ちているため、普通に光るのだ。
「凄いのです!」
「綺麗だよなぁー」
「はいなのです」
オッサンは、エリエルと一緒に、光り石の満天の星空を見上げた。
「・・・・・・・・ところで、鉱脈ってなんなのです?」
分かってなかったんかい!
ヴィルム海底洞窟の状況。
現在の行程・・・・三割五分。




