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オッサンと晩餐会 前編


 おっ、そろそろ時間だな。


 エルナに選んでもらった服着て、姿見用の鏡で、現在チェック中だ。


 うん、悪くない・・・・と思う。今着ているのは、白い布地に青い線の入ったもの。よく騎士達に儀礼用として着用される物だ。


 ・・・・一応、帯剣して行くか。どうせ預けるだろうけど、この服ならその方が映える気がする。


「おっと、招待状っと。コレを忘れたらシャレにならん」


 招待状を内ポケットに入れ、最後に玄関の鏡でヘアスタイルをチェックする。


 よし!・・・・行くか。


 家の中では大丈夫だと思ったが、玄関を出て思った。結構恥ずかしい事に。


 近所のおばちゃんに、「おめかしして何処行くの?」と聞かれ。近所の子供に「変な格好」と言われ、通りをすれちがう人達に、ジロジロと見られながら城に向かった。


 恥ずい! 何だこの羞恥プレイは! 

 

 俺にそんな趣味は無いぞ!・・・・ハァ〜。


 

☆☆☆



 俺は、城に続く長い坂道を歩いていた。憂鬱になりそうになりながら。


 あぁ〜、もうすぐ城に着いちゃう。ハァ〜、帰りたい。


 ん? んん? んんん?・・・・・・・・。


 百メートル程先にある城門の前で、仁王立ちした女性が見えた。


 俺の視力は10.0何だが・・・・まさかな・・・・いや、疲れてるんだ。そうだ! そうに違いない!


 しかし、不安は的中した。


「よくぞ来てくれた! ルド殿!」


 殿下・・・・あんた何してんの?


「あの、王女殿下・・何で、王女殿下が出迎えてるんですか?」


 思わず疑問を口にしてしまった。


「ルド殿を招待した妾が、出迎えずしてどうする?」


「姫様、出迎えるにしても、普通城門で出迎えません」


「そうか?」じゃないよ殿下! 王女が城門で出迎えちゃダメでしょ!


「ルド殿、そのお洋服。中々お似合いですね」


「え、あぁ、ありがとうございます。えぇーと、リサーナさん」


「リサーナでいいですよ。歳もルド殿の方がひとまわり上ですし。それに、王国に貢献してきた事を考えれば、様をお付けしても良いくらいです」


「ですが・・・・リサーナさんは貴族ですよね?」


「リサーナと。それに、貴族と言っても騎士爵位です。たいした事ありません」


「えっと、リサーナ」


「はい」


 ちょっと気恥ずかしいな。


「ずるい」


「へっ?」


「ずるい! ルド殿、今から妾の事もクシャーナと」


「さすがにそれは・・・・恐れおおいので、勘弁して下さい」


 オッサンは、綺麗なお辞儀をみせた。


「姫様、無茶を言っては駄目ですよ」


 むー、と怒る殿下・・・・可愛いなこの人。


「リサーナ! 其方だけずるいではないか」


「そう言われても・・・・でしたら・・・・ルド殿、姫様の事は、クシャーナ様と呼んで差しあげて下さい」


「リサーナ! それは良い! ルド殿、それで頼む」


 えぇぇぇ、あのちょっと待って、王女を様付けとは言え、名前で呼ぶのマズイよね。殿下が良くても、他の人達がどう思うか? 不敬罪にならないよね?


「「ルド殿」」


「勘弁して下さい」


「うぅ、駄目か?」


 ちょっ、殿下! ずるい、ずるいよ! その顔は駄目!


 ウルウル涙目の上目遣いで、殿下が見てくる。


 この人・・・・もう確信犯だろこれ。あぁぁぁもう!!


「ク、クシャーナ様」


「うむ、それでよい!」


「ふふふ」


 おい、リサーナ! 笑ってんじゃない。何、微笑ましく眺めてる! 貴方こそ本当に確信犯だろ!!


「姫殿下もリサーナ殿もその辺になさりませ。ルド殿よくお越し下さいました」


「エバンさん、どうも」


「では此方へ、姫殿下も御支度をお早く」


「うむ、ルド殿! 後でな」


 殿下はリサーナと、メイド数人を連れてお城の中に入っていった。俺はエバンさんに案内され、用意された個室のソファーで、項垂れていた。


「あぁ〜あ〜、帰りたい。もう〜いや、ほんと帰りたい」


 思わず本音が出てしまう。


「何かこの後、更に疲れそうな気がするな」


 帰りたいけど、帰る訳には行かないしな。どうか平穏に終わってくれ。・・・・神様お願い。


 ハァ〜・・・・・・・・にしても豪華な部屋だな。


 キョロキョロと部屋を見渡した。あらゆる物に、豪華な装飾が施されている。


「この部屋だけで、幾らかかってんだろ?」


 うちの家とは、月とスッポンだな。まぁ俺は、家具にこだわりないけど。


 おっと、そうだった。確かエバンさんが、クローゼットに晩餐会用の服が入ってるって言ってたな。


 ・・・・無駄に豪華だな、このクローゼット。


 クローゼットの扉を開けて確認すると、中にはタキシードが入っていた。


 ・・・・・・・・えっ、コレ着るの?


 ・・・・・・・・帰りたい。


 結局、俺はタキシードを着た。着なきゃどうしようもないし。羞恥で、悶え死にそう。


「『コンコン』ルド殿、準備は整ったでしょうか?」


 この声、エバンさんか。


「はい、一応」そう返し、ドアを開けた。


「どうですかね?」


「とてもお似合いですよ」


「あのぉ〜、一つ聞いていいですか?」


「何でしょう」


「何でこのタキシード、俺のサイズにピッタリ合うんですか?」


「・・・・・・・・」


 何故こんな事を言うかといえば。普通半日やそこらで、ピッタリに合う服を用意する何て難しい。今日城に着て来た服だって、騎士達がよく着用する服なのだが、ガタイがいい騎士の為、大きいサイズは比較的ある。しかし、それでも俺には少し小さい。  


 それなのにタキシードなんて、俺のサイズは普通ないだろ。なのにピッタリなのだ。袖も裾も! オーダーメイドが基本のこの世界でおかしくないか?


「た、たまたまですよ。御来賓の為に、複数のサイズで衣服が用意してあるのです」


「成る程」と納得・・・・・・・・はしない。何か怪しい。


「では会場にご案内致します。此方です」


「はい」と、エバンさんの後ろをついて行く。城の廊下は赤絨毯しかれていて、やっぱり凄い豪華だ。


 高そうな壺に高そうな絵画。宝石を散りばめた剣や、華美な装飾を施された鎧など、煌びやかすぎて目が痛くなってくる。

 

 豪華な装飾に圧倒されていると、廊下の十字路で、三人のドレス姿の女性に出くわした。


「ルド・ロー・アス?」


「えっ、本当ですぅ〜、ルドさんですぅ〜」


「何でルドさんがいるっすか? しかも、タキシード着てる!」


 そこに居たのは、この国で数少ないSランク冒険者パーティー、紅き三つ星がいた。


「マリーダ? それに、フィオとリジーか。何で三人が居るんだ?」


「姫殿下主催の晩餐会に、招待されたからに決まってるだろ」


 赤いドレスを身に纏い、真紅の髪の女性が答えた。


「二年ぶりくらいか? それにしてもマリーダ。そのドレス決まってるなぁ〜。一瞬、分からなかったぞ」


 マリーダは紅き三つ星のリーダーで、女戦士だ。片手で大戦斧を振り回す強者だ。


「・・・・ん、そ、そうか? いや、それより何でルドが」


「それこそ招待されたからに決まってる」


「あっ、そうなんすね! 私達と一緒っす!」


「リジーも似合ってるぞ、そのドレス」


「えへへへ、ルドさんに言われると嬉しいっす」


 リジーは獣人族だ。赤茶の毛色をした犬人族。ケモ耳ケモ尻尾・・・・うむ、悪くない。愛でたくなってくる。


 オッサンは犬派だった。


「ルドさん、久しぶりですぅ〜。元気でしたかですぅ〜?」


「おう、久しぶりだなフィオ」


「はい、ですぅ〜」


 この、独特のイントネーション。相変わらずだな。 


 フィオは黒髪に、両方とも赤い瞳をした魔導師。補助魔法と攻撃魔法、防御系の魔法まで操る後方支援特化型だ。


 ちなみに、三人それぞれ、赤色の特徴を持っている。それにちなんで、異名も赤色に関係している。


 マリーダは、夜空でもっとも赤く輝く、戦神の星とされる赤い星、ポロスにちなんで紅蓮のポロス何て異名を持っている。

 

 フィオは赤い瞳から、宵の時間に現れる二つの赤い双子星にちなんで、宵闇の双星と呼ばれている。そしてリジーは、獣人族特有の素早さから赤い流星と呼ばれている。


 三人は元々、別のパーティーで活動していたが、ひょんな事からパーティーを組む事になり。それぞれの異名が赤い星に関係する事から、紅き三連星と言うパーティー名になった。


「ルドはこういうのには参加しないと思ったが」


「それはこっちのセリフだ。マリーダこそこういうの嫌うじゃないか」


「今回は、戦姫にどうしてもと言われてね」


「俺もだ」


 まぁ、冒険者を呼ぶ酔狂な王族は、クシャーナ殿下くらいだろうからな。


「ルド殿、マリーダ殿。積もる話もございましょうが、もうすぐ時間ですのでお急ぎください」


「あぁ、わかったよ。ルド、私達は暫く王都に滞在する。美味い酒でも飲みながら、ゆっくり話そう」


「なら、いい店を知ってる。奢るぞ」


「やった! ルドさんの奢りっす」


「楽しみにしてますですぅ〜」


 歩きながら談笑し、エバンさんの後ろをついて行く。少し歩くと、重厚で豪華な扉の前でエバンさんが止まった。


「こちらです」


 扉の横にいた二人の使用人が、扉を開けていく。部屋の中が廊下より明るくて、目がくらんでしまった。慣れてきた目で部屋を見渡すと、そこには!



「お、おやっさん?!」


「ん? おっ、ルドじゃねぇか!」


 

 正直、オッサンが最も会いたく無い人物がそこにいた。




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