先を急ぐオッサン
「それじゃあなユミア、エリエル。元気でな」
「はい。ルド殿も」
「ルド様、もう行くのです?」
「先を急いでるからな」にしても・・・・まったく休めなかった。
一晩中、頑張っていたオッサン。さすがに疲れが・・・・。
「それじゃあ!」と颯爽と走り去るオッサン。たいして疲れていなかった。
「ルド殿ーー! お元気でー!」
エリエル「・・・・・・・・」
「ほっ、よっと。もう、すっかり朝だな」
朝日が、深い森に射し込む。そんな中を、オッサンは風のように走り抜けていた。
「ふわぁーーあ。さすがに、ちょっと眠いな。俺も年と言う事か」
若い頃なら、三日三晩、不眠不休で戦えたが、今は・・さすがに無理だな。
さて、兎に角・・・・昼までに、ヴィルム海底洞窟の手前にある村に、着きたい所ではあるのだが・・・・眠い。
確か、少し先に行った所に、よくキャンプに使っていた巨木があったな。そこで少し休もう。
その頃、エルフの隠れ里では・・・。
「エリエルー! エリエルーー!! 何処に行ったのー!!
・・・・エリエルったら何処に? もう、帰っちゃったのかな?」
エリエルが、何処かに行ってしまったとはつゆ知らず、オッサンは走り続ける事三時間。
「ふう、疲れた。やっと樹洞のある巨木に着いた。ここで休むのも久しぶりだな」
巨木は、高さ約三十メートル、直径も十数メートルはある。
そして、根本の辺りからポッカリと、大きな穴が空いていた。
「さてと、ここで少し寝るか。その前に・・・・うん、何も住み着いてはいないな」
こういう所には、魔物がよく住みつく。暫く来て無かったから、何が居るかもと思っていたが、どうやら大丈夫そうだ。
オッサンは樹洞の中を確認し、安全を確認すると、樹洞の中の掃除を始めた。
「木の葉がだいぶ溜まってるな。エアブロー!」
オッサンが手をかざし、魔法を唱える。すると、風の魔法によって木の葉が吹き飛んでいった。
「こんなものか。さて、寝袋を広げて・・・・と。後、念の為に結界をと・・・・よし! それじゃあ、お休み!! ぐがぁーーー」
オッサンは寝た。それは、見事としか言いようのない速さで。
キラーンと、オッサンが寝る樹洞に、何かが入った。オッサンの結界は、巨木の周囲数十メートルを、壁の用に守っている。
なので、上から入って来たそれは、結界の効果が無かった。
それは、何がする訳でもなく。オッサンの元に降りた。
・・・・・・・・・・・よく寝た。
「ふあーーあ。二時間は寝れたかな? ん? えっ?!」
オッサンは驚いた。何故かと言うと・・・・。
「ムニャムニャ。ルドしゃまー、もう食べられないのですー」
「・・・エリエル?!」
オッサンの腹の上で、何故かエリエルが眠っていた。
なんでここに? 着いて来たのか? ・・・・と言うか。
「凄い気持ち良さそうに寝てるな」
「ムニャ・・・・ふはぁー。良く・・・・寝たです」
「おはようエリエル」
「ほえ、おはようなのれふ、ルドしゃま」
誰がルドしゃまだ。寝ぼけてるのか。
「あぁ、おはようエリエル。昼だけど・・・・なんで居るの?」
「ほえ? 着いてきちゃのれふ」
「着いて来たって・・・・ユミアとかに言ったのか? 大精霊様には? と言うか、なんで来た?」
オッサンの腹の上で、ほへーと、まだ寝ぼけた様子のエリエル。
「ユミアには・・・・言ってないのれす。大精霊しゃまには・・・・許可して・・・・もらいまひた・・はひ」
ユミアには言ってないのか? 心配するぞきっと。
「はうー?」
「はあー、寝ぼけてないでしゃんとしろ」
そう言って、オッサンはエリエルの頬を、優しくこ突いてやる。
「ほわわわわ、なのです。ふへ? ルド様」
「エリエル、なんで着いて来たんだ?」
「ルド様に恩返しがしたいのです! だから着いて来たのです!」
「そ、そうか。それで、ユミアにも伝えずに来て、大丈夫か?」
「大丈夫なのです! ・・・・多分。 心配すかもです」
「だろうな。・・・・はあーー。今から連れて帰るのもなぁー」
「エリエルは恩返ししたいのです! 頑張るのです!」
妖精の恩返しかぁー。うーーん、今から危険の真っ只中に行くんだが・・・・。チラッ。
エリエルに目を向けると、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「はあーー。公国で用事済ましたら、また同じ道を通って帰るつもりだ。それまでなら着いてくるのを許す」
「あわわわ! ありがとうなのです! エリエルは頑張るのです!」
「はいはい。分かったから腹からどいてくれ。こそばゆい」
「はいなのです」
「小腹が空いたな。エリエル、果物食うか?」
「食べるのです!」
マジックバックから取り出した赤い実を、エリエルに手渡す。
エリエルの頭と変わらない大きさの果物を、エリエルは美味しそうに頬張っていた。それをジッと見つめるオッサン。
なんか・・・・ペット飼ったみたいな感じだな。
世にも奇妙な、絵本の物語のような、妖精とオッサンの旅が始まろうとしていた。




