死竜「アンデットドラゴン」 その2
『グゴォッ、ゴゴォーーー!!』
「竜爺ちゃん!」
「完全に呑まれたか・・すまんがエリエル。竜爺はもう・・」
「竜爺ちゃん・・・・」
オッサンは、背中の大剣を抜き構える。アンデットドラゴンは、動きは遅いが、侮れない相手だ。しかも、今回アンデットドラゴンになったのは、何百年、或いは千年以上の歳をかさねた老竜だ。
「前に戦った奴とは格が違う」
「る、ルド様! 竜爺ちゃんが! 竜爺ちゃんが!」
泣きじゃくるエリエル。なんとかして竜爺ちゃんを助けたい。
そんな、悲痛な思いが伝わってくる。しかし・・・・。
「すまんがエリエル。竜爺は助けられない」
「そ、そんなぁーー」
「俺達に出来る事は・・・・竜爺を安らかに眠らせてやる事だけだ」
「うっ、うわーーん。竜爺ちゃーーーん! うぐっ、ひっぐ」
「泣いてる暇はないぞ、エリエル。竜爺が来る!」
『グゴォォォォォォーーーーー!!!!』
「竜爺ちゃん・・・・。うんうんうん」
「・・・・エリエル」
「・・・・ルド様、お願いします。竜爺ちゃんを安らかに眠らせてあげて下さい」
「分かった。任せろ」
エリエルは、目に涙を一杯に浮かべ。決意した顔で、オッサンに
懇願した。
「行くぞエリエル!」
「ふぬ・・はいなのです!」エリエルは涙を拭って、そう答えた。
『グゴォォォォォ!!』
オッサンと竜爺との戦いは・・・・慎重に進んだ。何故なら、エリエルが胸ポケットに居るからだ。
「うわわわわぁーー! ルドひゃまーー!」
「うおっ、くっ」エリエルが胸ポケットに居るから、本気で動けん。これは・・・・マズイ!
『グゴォォォォォ!!』
かろうじて戦えているのは、アンデットドラゴンの動きが鈍いからだ。しかも、アンデットドラゴンは暗い闇の波動を纏っている。
オッサンは平気だが、エリエルには危険だ。
どうする? 接近戦は・・・・無理だよな? チラッと胸ポケットを見る。ポケットの中から「ほげぇーー」と声がする。オッサンの動きに、エリエルが目を回しているようだ。「うーーん」と悩んだ末に、オッサンは大剣を背中に戻し。マジックバックをゴソゴソと漁り、中から一本の杖を取り出した。
「ジャジャーーン! 魔法の杖ーー!」
「・・・・・あの、ルド様? マジメにお願いしますです!」
「・・・・す、すまん。い、いくぞ竜爺!」
オッサンは杖を構え、一定の距離をとる。魔法による遠中距離戦を行うためだ。
「ふん!」と魔力を杖に込めると、杖の先に光る魔法陣が現れた。
「行くぞ竜爺! 今、楽にしてやるからな!」
そうオッサンが叫んだ瞬間、一瞬ではあるが、竜爺の動きが止まって見えた。
まだ、微かに意識が? 闇に呑まれながらも、抗っているのか?
『グゴォ・・・・グゴォォォォォ!!』
「やばっ・・・・」
『ブドガバァァァァーーーー!!』
竜爺の事に気がいってしまい、隙を見せてしまったオッサン。それを見逃さない、アンデットドラゴンと化した竜爺が、強力なブレスを吐いた。
「くっそ! マジックシールド!」
「る、ルド様ーー!」
「顔出すなエリエル! 結界を張ったから心配ない!」
オッサンとエリエルを、青紫色の炎が襲った。結界でガードできたが、オッサンの背後の森は燃えていた。
「あぁー! も、森が燃えてるです!」
「いや、よく見ろエリエル。燃えてるのとは違う」
「えっ?」
目を凝らすと、森の木々は燃えていなかった。
「あ、あれ、なんなのです?」
「あれは・・・・命を燃やす、死の炎だ」
森の木々に燃え移った炎は、木々を焼くのでは無く、木々を枯らしてた。命を吸いとり、その命を燃料にして燃えているのだ。
生ける物を殺す、死の炎。死の世界、黄泉の国に存在するとされる物。アンデットドラゴンだからこそ、ブレスとして吐く事ができる物だ。
「厄介だな・・・・」こんなもんまで吐くとか、やはり前のアンデットドラゴンとは段違いだ。あんなものを、ホイホイと吐かれたら、この辺り一体が大変な事になる。
仕方がない、地形を変える事になるが・・本気でやる!
まずは、小手調べに・・・・「ファイアボール!(たくさん!)」
『ボッボッボッボッボッボッボッボッ!!』
『グギャァァァァァ!!』
杖の先から、何十何百という火の玉が、アンデットドラゴンを襲う。まるで、ガトリングガンの乱れ撃ち状態。一発一発の威力は低くとも、これだけ濃密に撃ち込まれると、さすがのアンデットドラゴンも、反撃ができない様子であった。
「おらおらおらおらおら!」
『グゴォォォォォ!!」
オッサンは、ただファイアボールを撃ち込んでいるだけでは無かった。ファイアボールの魔法を発動させながら、もう一つの強力な魔法を、発動させようとしていた。
まだ、もうちょいか? 兎に角、準備が整うまで、時間を稼がないと・・・・おわっ!
『グゴォォ・・・・・・ブドガバァァァァーーーー!!』
「うぉぉぉぉーーー!!」
再び、死の炎を吐くアンデットドラゴン。オッサンはそれを、必死に躱す。魔法の二重発動中で、魔法結界が張れないためだ。
「うおりゃぁぁぁぁ!!」
走って躱しながらも、杖の先をアンデットドラゴンに向け続け、ファイアボールを撃ち込み続ける。ファイアボールの弾幕に、アンデットドラゴンも怯み、ブレスが止まる。
「おし、準備完了! 竜爺! 安らかに眠ってくれ!」
「竜爺ちゃん!」
「クリムゾンエンド!」
竜爺の頭上に、巨大な魔法陣が現れる。そして、真紅の終焉が訪れた。魔法陣が砕けちり、竜爺の周りが紅く染まる。凄まじい熱の放射が、竜爺を襲った。
「熱い・・・・あっつ! やば! 離れるぞエリエル!」
「竜爺ちゃーーーん!」
急ぎその場から離れるオッサン。クリムゾンエンドの凄まじい熱には、さすがのオッサンも耐えられなかった。
「ヤバかった。自分の魔法で死んだら洒落にならん」
「竜爺ちゃん・・・・」
少し離れた場所から、竜爺の最後を看取った。クリムゾンエンドが発動し終わり。竜爺の居た場所に戻ると。そこには、骨すら残さず綺麗さっぱりになっていた。
辺りは焼け焦げ、土がガラス化し、その放射された熱量が伺いしれた。
「竜爺、安らかにな」
「竜爺ちゃん、ゆっくり眠ってね・・・・うわーーーーん!」
胸ポケットから出て来たエリエルは、オッサンの頭の上で、竜爺の最後を悲しんだ。
「エリエル・・・・ん? なんだアレ?」
「ぐすっ、ぐすん。どうしまたかルド様?」
「いや、アレなんだと思って・・・・」
オッサンは、地面に落ちていたある物を拾いあげた。
「コイツは・・・・竜玉か?」
「なんですかそれ? 何か懐かしい感じもします」
エリエルは、オッサンの拾った玉をツンツンと突いた。
「コイツは竜玉って言うんだ。恐らく、竜爺の者だ」
「竜爺ちゃんの?」
それを聞いたエリエルは、オッサンの手にある竜玉に抱きついた。
「竜爺ちゃん・・・・」
「兎に角、妖精の里に戻るか。エリエル、道案内頼むぞ」
「はいなのです!」




