死竜「アンデットドラゴン」その1
「・・・・酷いもんだ」
枯れ、荒れ果てた森。だった場所を、オッサンは歩いていた。
生き物は一匹たりとも居らず。時々見かける、魔獣や動物の亡き骸が、アンデットドラゴンの、生への執着をまざまざと見せつけていた。
「うーー、酷い! なのです」
「エリエル、あんまり顔出すなよ? 危ないからな?」
「はいなのです」そう言うと、エリエルは胸ポケットの奥に潜った。窮屈だろうが仕方ない。この辺りの空気は、嫌な感じがヒリヒリと肌に感じる。弱い者だと、直ぐに生命力を吸われて、骨と皮になってしまうだろう。妖精とは言え、エリエルが外を飛び回るのは危険だ。干からびた妖精なんて、見たくない。
「んー、こっちから嫌な気配が・・・・やはり中心部か?」
取り敢えず、嫌な気配を辿る事に。胸ポケットのエリエルは、時おりビクビクと動いていた。やっぱり怖いのか?
「森の竜爺ちゃんは、いい竜だったのです」
胸ポケットの奥から、エリエルが急に語り出した。
「もしかしてエリエルは、その竜爺ちゃん? が心配で来たのか?」
「はいなのです。昔は、良く一緒に遊んだのです。でも、最近は寝てばかりなのです」
「そうか・・・・。因みにどんな事して遊んでたんだ?」
「はいなのです。背中と尻尾を滑って遊んだり。頭の上でお昼寝したです! 楽しかったです! 後、背中に生えてる木の実を一緒に、一緒に・・・・・・食べたりした・・です」
竜との、楽しかった思い出が浮かび、言葉に詰まるエリエル。
胸ポケットの中で、姿は見えないが、悲しそうにジッとしていた。
「・・・・・・・・」
今からその竜を、倒さんと行けないんだが・・・・。
大丈夫だろうか?
着いて来てしまったとは言え、どうしたものかと考え込むオッサン。
エリエルは、無理にでも返すべきだったかな? そんな事を考えていた時だった。突如、周りの空気が変わった。元々、嫌な気配がしていたが、更に強力で、異質な空気が辺りを漂っていた。
「コイツは・・・・近いな」
「る、ルド様・・・・怖いです」と振るえる声で、エリエルは胸ポケットでガクガクブルブルとしていた。
「大丈夫だエリエル、俺がいるからな」
「・・・はい・・なのです」
この嫌な空気・・・・前に討伐したアンデットドラゴンとは、比べものにならない。今回、アンデットドラゴン化したフォレストドラゴンは、かなり年月を経た、かなり力を持つ老竜だった事がわかる。
ピリつく空気の中。更に奥へとオッサンは進んで行く。
奥に進むにつれ、嫌な気配は更に強まり。生命力溢れるオッサンも、さすがにキツく・・・・。
「うーーん、ちょっとくるなぁー。肩辺りに・・・・なんかコリ始めたきがする」
・・・・そうでもなかった。
「うぅーー、ルド様よく平気なのです」
「いや、俺もちょっとはくるよ? なんとなく?」
「なんとなくで済むものなのです?」
「まあ、なんとか? それより、エリエルは大丈夫か?」
「怖いのです! ブルブルなのです!」
「うーん、あっ、あれがあった!」
ゴソゴソと、マジックバックに手を突っ込んで、何かを探すオッサン。「えーと、ここか?」「いやコレじゃない」「ここか?」
「おっ、あったあった!」とようやく、手をバックから抜きとると。その手には、綺麗なクリスタルの首飾りがあった。
「エリエル、コレを抱きしめとくといいぞ」
オッサンは、その首飾りを胸ポケットにそっと入れる。
「こ、コレはなんです?」
「アンデット対策用?」
「だったら、ルド様が身につけて下さい」
「いや、俺は平気だから。エリエルが持ってろ」
「分かったのです!」
「おう」
胸ポケットで、ぎゅっとクリスタルを抱きしめるエリエル。
「あっ、なんか安らぐのです!」
「良かった、ちゃんと効果があったな。それじゃあ行くか」
「はいなのです」
元気なったエリエルにホッとし。オッサンは更に奥へと進んでいく。
明るくなり始めた空、もうすぐ朝がくる。暗い森が、薄暗い森くらいになりつつある。そんな森を、いや、森だった場所を更に奥へと進むと・・・・・・そして、それは居た。
「アンデット・・・・ドラゴン。なんてデカイんだ。古竜並みだぞ!」
「竜爺ちゃん!」
アンデットドラゴンの居た場所は、何も無かった。荒れ果てた荒野のように何も無い。アンデットドラゴンの周囲、半径百メートル程は、死が満ちていた。
「竜爺ちゃん! エリエルなのです!」
「エリエル! 不用意に顔だすな!」
『エリ・・・・エ・・ル』
「まだ、意識があるのか?」
「竜爺ちゃん!!」
『グゴォォォォォガァァァァーーーーーーン!!』
死と闇に飲まれた竜の、悲し咆哮が轟いた。




