不死の王 その1
「よし、それじゃあ行ってくる!」
「ちょ、ちょっと、待って下さい! まさか一人で?!」
「えっ、まさかも何も。そのつもりですけど?」
何か問題でも?
「に、・・ルド殿! 幾らなんでも無茶すぎる!」
「そうです! 相手は不死の王なのですよ!」
まあ、そうなんだけど。
「うーん、なんとかなるんじゃないか? 前にも倒した事あるからな」
「「「「不死の王を!!」」」」
みんなは、オッサンの言葉に目を丸くして驚いた。そう、オッサンはかつて、リッチーを倒した事があるのだ。
「なんなら、リッチーの知人もいるぞ」
「「「「「はいーー??!!」」」」
「る、ルド様? 不死の王の、お知り合いるのです?」
「あぁ、別にリッチーになった奴全てが、悪い奴とは限らんからな」
「いやいや、不死の王ですよ?!」
オッサンの頭の上で、エリエルが驚く。
「そう言われてもな・・・・」リッチーになった奴は、大抵が学者みたいな奴が多い。と言うのも、限られた寿命ではやれない事が多すぎる。だから、死から解放されリッチーとなり。研究に励む奴ばかりだ。故に、寿命の短い人間が、リッチーになる事が基本的に多く。エルフのような、寿命が長い種族がリッチーになる事は稀だ。
俺の知り合いのリッチーも、研究バカの元人間だ。
それにしても、そのリッチー。なんでこんな所に?
「ふむ、まあいい。兎に角、行ってくる」
「ルド様、私も行きます!」
「ちょっと、エリエル。無茶よ!」
「止めないでユミア! ルド様に助けてもらったから、恩返ししたいのです!」
「ふんす!」と意気込むエリエル。
おい、着いて来る気か? 危ないぞ?
「・・・・エリエルが行くなら私も行きます」
「ユミア! 何言ってるんだ!」
「隊長! ルド殿だけに頼る訳にも・・・・それに、友人を放っておく訳には・・・・」
「おいおい、着いて来られても困るんだが? 一人の方がやり易いし」
「ルド・ロー・アスよ。ユミアも連れて行くがよい」
「おい、ばあさん!」「族長?!」
「あ奴の元に行くには、エルフの結界を解かねばならぬからの。
ユミア、コレを持って行きなさい」
ばあさんはユミアに、自分の首にさげていた首飾りを渡した。
首飾りには、緑色の綺麗な石がついており。不思議な力を宿しているように、オッサンにも感じられた。
ん? 待てよ? 結界? なんで結界?
「では頼んだぞ、ユミア、ルド殿。それとちっこいの」
「ん、あぁ。それじゃあ行ってくる」
「では、行って参ります。お婆様」
腑に落ち無い何かを、モヤモヤを抱えたまま、俺達はリッチーのいる山へと出発した。
「族長、宜しいのですか? ユミアを行かせたりして」
「なぁーーに、あの者が着いていれば心配無い。それどころか、あの者の側が、一番安全じゃろうて・・・・里の結界を強化せよ。今宵は・・・・長い夜になりそうじゃ」
「・・・・はい、分かりました」
*****
「里を出発してから言う事じゃないんだが・・・・本当に着いて来る気か?」
「今さらですね。勿論です・・・・お婆様にもコレを預かりましたから」
緑色に光る石の首飾りの石を、手に持って見詰めるユミア。
「うーん、やっぱりコレ・・・・」
ユミアの頭の上で、緑色の石について考え込むエリエル。
なんだ? 何か知ってるのか?
「エリエル、あなたコレが何か知ってるの?」
「多分知ってるです。コレは恐らく、精霊石です」
「精霊石? なんだ精霊石って?」
「精霊石、コレが・・・・」
「ん? ユミアは知ってるのか?」
「はい。話しに聞い事が・・・・と言っても、詳しく知ってる訳では無いですが」
「ざっくりでいいから教えてくれ」
「私がルド様に説明するです!」
エリエルは俺の頭に移動すると。「任せてください」と自身の胸をポンと叩いた。
「エリエル・・・・出来るのか説明?」
「酷いですルド様! エリエルだってやれるです!」
「分かった、疑った俺が悪かった。だから、髪を引っ張るな」
ただでさえ最近、心配なんだから。
「エリエル、説明してあげて」
「はい、任せてなのです! 精霊石は、その名前の通り。精霊様が関係してるです」
まあ、そうだろうな。名前からして・・。
「精霊様の霊力によって作られた物、それが精霊石です。一つの精霊石を作るのに、数百年から数千年とも言われる時が必要なのです」
「へぇー、それでどんな力があるんだ?」
「それは!」
「それは?」
「分からないのです」
分からんのかい! 良くそれで説明をかって出たな。
「ん? そう言えばエリエルは、大精霊様を助けてと言っていたな」
「はいなのです!」
「大精霊様は無事なのか? と言うか、一緒に着いて来ていいのか?」
「大精霊様は無事なのです。妖精の里を守る為に、結界を張っているのです! 本当なら、ルド様をお連れして、里に押し寄せて来るアンデットをどうにかしたいのです。でも、それより元凶を倒した方がいいと判断したのです!」
「まあ、その方が早いっちゃー早いか」
里に言って、リッチー倒してより。リッチー倒しに行った方が早い。俺も二度手間はごめんだ。
「妖精の里アーナン。一度は行ってみたいな」
「ルド様なら歓迎なのです!」
「ず、狡い! 私もまだ、行った事ないのに!」
エリエルの歓迎の言葉に、ユミアが拗ねる。
「あれ? そうなのか? 二人は友達なんだろ?」
「はいです。でも、ユミアはまだダメなのです」
「むう、エリエルの意地悪」
何が明確な、条件とかあるのかな? 例えば俺だと・妖精を助けたとか? ・・・・。
「あの、二人はどう知り合ったんだ?」
「私達ですか?」
「ユミアとの出会いです?」
「エリエルとの「ユミアとの出会いは・・・・ユミアに」エリエルが」
「エリエルが、魔植物に捕まっているのを、助けたのがキッカケですね」
「食べられそうになってる所を。ユミアに助けてもらったのです」
助けた事は条件とは違うのか? ん? なんだ? 寒気?
「気をつけろ二人共。何か来るぞ」
「な、なんなのです?」
「冷気? 何かしら、何かがこちらに・・・・」
『ズサ、ズサ、ズサ、ズサ』
暗い森中、何かが蠢く音が。少しずつ、音は近づいて来る。
それも、一つや二つでは無い。軽く数十を超える何かが・・・・。
月明かりがその正体を暴いた。それは・・・・「うぁぁーー」
「ゾンビかよ!」
三十いや、もっと居る。少なくとも五十を超えるゾンビが、こちら向かって来ていた。
「なっ、くっ、ルド殿! 一旦引きましょう!」
「る、ルド様!」
「ゾンビは臭いから嫌いなんだよなぁ。よっこらせっ!!」
オッサンは、背中の大剣を抜き構えると。白い光を剣に宿らせた。そして・・・・。
「せぇーーのっ!」
ふわりと、白い光を纏った剣で横に振り払うと。
『ドサッ・・・・ドサドサッ!』と全てのゾンビが倒れて動かなくなった。
「はい終わりと」
エリエルとユミアは、それを呆然と見ていた。
「くせぇー! やっぱりゾンビくせぇー!」
辺りにたち籠める、腐臭にオッサンは鼻を摘んだ。
「くっさーーい! ゾンビ臭い!」




