表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/66

オッサンと受付嬢


 オッサンは悩んでいた。どの服を着て登城しようかと。


「あー、これは無いな。こっちは・・・・んー、それともこっちかな?」


 せめて、少しでもいい服を着て行かないとな。でもなぁ〜

パーティーで着る服は無いからな。借りられるらしいけど、城に出向くにしても、失礼の無い服を着てかないと。


 クローゼットを隅々まで探すが、中々いいのが無い。


 げっ、コレ虫食ってるじゃん。あっ、こっちも・・・・コレ高かったのに・・・・(涙)


 元々、お洒落にそんなに興味なかった。けど、色々付き合いもあるので、それなりには持ってはいる。いるが・・。


 城に着て行く服って、どんなのがいいんだ?


 一人で考えても仕方ない。誰かに相談しよう! でも誰に聞けば・・・・。


 あっ、あの人なら。




☆☆☆



「と言う事で、服を選ぶのを手伝ってくれ」


「だから、気安く話しかけないで! それと、何で私がそんな事しないといけないのよ! て言うかどういう事よ!」


 俺が頼んだ相手それは、冒険者ギルドの受付嬢エルナだ。


 まぁ、嬢って歳でも無いけどな。


「何か言った?」


「いえ、何も」


 さすがはお局様、勘が鋭い。


「仕事の邪魔だから帰ってくれる!」


「何もして無いじゃん」


「後ろ見なさい!」


 振り返ると、数名の冒険者が並んでいた。恐らくエルナが担当している冒険者達だろう。


「・・・・後にしてくれ」と俺はにこやかに、並ぶ冒険者に低めの声で伝えた。


「ちょっと! 後輩冒険者を威圧し無いの!」


「威圧なんてして無い」


「アンタみたいなデカイ図体した奴に言われたら、誰だって怖いから!」


 なっ、失礼な! 近所の子供達に、結構人気があるんだぞ。後輩達だって、怖がって無いだろ。そう思い振り返ると・・・・すんごい怯えてる。あのー・・・・ごめん。


「ハァーー。話しは聞いてあげるから、先に仕事を片付けさせて! 次の鐘で、休憩時間だし」


「了解。それじゃぁー、相談乗ってもらう代わりに何か奢るよ」


「だったら、ヘンデル通りに新しくオープンしたお店にして」


「それって確か・・・・ラパラパンとか言うとこか?」


「何だ知ってたの?」


「入った事はねぇーけどな。分かった、別にいいぞ。先に行っとくぞ」


「えぇ、終わったら直ぐ行くから。お待ちの方どうぞ」


***エルナ・プチ視点


「やっと終わった。ハァー、先に休憩入るわ」


「エルナさーん! ルドさんとデート頑張ってねぇ!」


「ちょっと! リズ、何言ってんのよ。デートじゃないから!」


「あのぉ〜、ラパラパンって、予約が必要だったと思いますけど?」


「へっ? メーネ! それほんと?」


「はい、確かそうだったと思いますけど? それに、あそこめっちゃ高いですよ。彼氏に行きたいっておねだりしたら、俺を破産させる気かって言われちゃいました」


 どうしよう。予約必要なの? 確かに高級店ぽかったし。それに高いのかぁー。どうしよう。


「まぁ、ルドさんなら平気じゃないですか?」


「そうですね。リズの言う通り、ルドさんかなり稼いでるし。有名人だから予約無しでもいけるんじゃない? 多分」


 ルドなら大丈夫・・・・本当に大丈夫かしら?


☆☆☆



「で、何なの相談て?」


「どうした? キョドキョドしたりして?」


「べ、べ、別に・・・・ここって、結構な高級店だけど大丈夫? そもそも予約しないといけないんじゃ?」


「ん? 別に予約しなくても大丈夫だったぞ。支配人が問題無いって、確かに高級店だが、支払いも平気だぞ? 俺はそれなりに稼いでるからな」


「そう・・・・」支配人? 何で支配人がわざわざ答えてんの? やっぱり王国トップは伊達じゃないってことなのかしら?


「ハァー、確かにアンタなら大丈夫ね。私の給料じゃ無理だけど」


「へっ? 受付嬢ってそんなに給料安いの?」


「まぁ、一人暮らしなら問題ない程度に貰ってるけど・・・・って、そんな話しする為に来たんじゃないでしょ!」


「そうだった」


「それで、何なの相談って?」


「実はな・・・・」


「はあぁ? 姫殿下主催の晩餐会に呼ばれたぁ〜あ?」


「あぁ、そうなんだわ」


 エルナは、おでこを指でトントンしながら唸っていた。


「いやいや、私に王族主催の相談って、何を相談に乗れって言うのよ!」


「別にそんなたいした事じゃないぞ? 王城に登城する為の服選びを、手伝って欲しいだけなんだけど?」


「服・・・・、そんなの適当に着て行けば?」


「適当はダメだろ? エルナがもし登城する事になって、服は適当に着て行くか?」


「・・・・行かないわね」


「だろ」


 王城に登城する以上、せめて失礼の無い格好をしないと。

 

「でも、私は城に呼ばれた事なんてないから分からないわよ? 助言の仕様が無いわ」


「それでも、俺が選ぶより良いと思う」


「ハァー、分かったわ。そのかわり、責任取らないわよ」


「すまん。恩にきる」


「でっ、いつなの?」


「今日」


「へっ?」


「だから今日」


「・・・・やっぱり今回の事は無かった事に・・」


「おぉい!! 逃げるな!!」


 エルナは、「分かったわよ」と椅子に座り直した。ちょうど話しが済んだ所に、ボーイさんがやって来た。


「メニューは御決まりでしょうか?」


「えっ、あっちょっと待って下さい」


「この、コースランチでいいんじゃないか?」


「でもコレ、結構な値段よ」とエルナが小声で返す。確かに高いな。ランチでこの値段・・・・まぁいいか。


「それじゃあ、コースランチを二つで」


「料理に合わせるお酒はどう致しましょうか?」


 エルナはこの後も仕事だし、俺は夜に備えないとだからな。


「果実水で構わない。エルナそれでいいよな」


「えっ、あ、うん」


「じゃあ、以上で頼む」


「かしこまりました」


 ウェィターは、綺麗なお辞儀をして、注文を伝えに奥の厨房に消えていった。


「大丈夫かエルナ?」


「へっ、だ、だ、大丈夫よ」


 こんな高級店、あまり来た事無いのだろう。エルナの顔に緊張が見てとれた。さっきまでなんとも無かったのに何で?


 十分程して、前菜が運ばれて来た。俺達は、次から次に出てくる料理に舌鼓した。エルナもご満悦で、見た事無い顔で、料理を頬張っていた。


 代金は二人で金貨六枚程した。まぁこの味なら安い方だ。そう納得させられる味だった。


 ただエルナは「私の給料三ヶ月分」と呟いていた。


「おーーい、エルナーー」


「ハッ!」


「大丈夫か? 本当に」


「大丈夫よ!」


「美味かったな、今度はディナーを食いに来ようぜ」


「へっ? ディ、ディ、ディナー?」


「おう、また奢ってやる」


「貴方がそう言うなら仕方ないわね! 奢られてあげる!」


 そう言うエルナの顔は真っ赤だった。


「顔赤いぞ、大丈夫か?」


 残念な事に、オッサンは鈍かった。


「馬鹿! 何でもないわよ!」


 馬鹿とは何だ馬鹿とは。って、服! 慌てて早足で去っていったエルナを追いかけた。


 その後、何とか良さそうな儀礼服を店で見つけたのだが、

その服を選んだエルナは「私の給料五ヶ月分」と呟いていた。


 エルナをギルドまで送って行き、家に帰って準備をする為急いで帰った。


 よし、取り敢えず服は買えた。・・・・城かぁ〜、やっぱ行きたく無いなぁ〜。



***エルナプチ視点


「エルナさ〜ん、お帰りなさ〜い。それで! どうでしたルドさんとのデート!」


「だからデートじゃないって言ったでしょ! リズ!」


「それよりも、ラパラパンはどうでした?」

 

「凄かったわよメーネ。料理も値段も・・私の給料三ヶ月分がランチで・・・・」


 エルナさんの目が、突如死んだ魚の様に・・・・。


「だ、大丈夫ですかエルナさん」


「ん、え、えぇ、大丈夫よメーネ。彼に感謝ね。あんな高級店、私一人じゃ一生行けないわ」


「さすがはルドさん。それで? 次のデートの約束は、したんですか?」


「ちょっとリズ」


「メーネだって気になるでしょ」


「「・・・・・・・・」」


 リズとメーネが静かに此方を見てくる。


「一応、ディナーの約束を・・・・」


「「本当に!!」」


「エルナさんにとうとう春が! 苦節三十年、良かったですね」


「三十にもなって、男性とお付き合いした事無いとか、ありえないですから心配してたんですよ」


「リズ、メーネ・・・・私はまだ二十九よ!!」


「「エルナさんが怒った!!」」


「あっ、こら! リズ! メーネ! 待ちなさい!!」


 二人には、先輩として私がきっちり、お灸を据えたのは言うまでも無い。


 元冒険者受付嬢の脚力と腕力を舐めないでもらいたいわ!




誤字などがありましたらご報告ください。

少しでも面白いと思ったら☆を下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ