オッサン、公国へ
「こら! ネイメ! 静かに座ってろ!」
「えぇー、座ってたら外、見えないじゃん」
「大人しくしてろって、言っただろ! 馬車から叩きだすぞ」
「ぶーー、叔父ちゃんの意地悪!」
「ふはははっ、大変仲が良いのだなルド殿」
殿下が俺達のやり取りに、思わず笑ってしまう。「とても羨ましい」と仲の良さを羨ましがった。
「妾は叔父上と、あまり仲が良くないからな」
「そうなのですか?」
「まあ、平民とてゴタゴタはあろう? それが王族となると、さらにな」
「成る程・・・・」
分からない事はないが、分かりたくはない理論だ。
「ところで・・・・ルド殿の姪子殿は、何しに王都へ?」
「確かに私も気になります。ルド殿のご家族ですから何か凄い訳が・・・・」
「単に会いに来ただけだけど?」
「「・・・・・・・・」」
「ん? どうかした?『ゴン』あ痛!」
不作法な姪の頭に、オッサンの拳骨が落ちる。
「ネイメ、失礼だろ!」
「ぶー、頭が割れるかと思ったぁー」
「まあまあ、ルド殿。それくらいで。妾は気にせん」
「逆に新鮮ですね。年の近い女性と、こんな風に会話した事ありませんから」
「本当にすみません。躾がなってなくて」
「叔父ちゃんに躾けられてないし!」
はあーー、兄貴達はどんな教育を・・・・。叔父で、尚且つ家に居なかった俺が、言う事では無いんだろうけど。
「着きました」
リサーナが、城に到着した事を伝える。馬車のドアが開けられ、一人ずつ馬車を降りる。
「頼むから、大人しくしてろよ」
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ」
俺からすれば、好奇心旺盛な子供にしか見えない。そう言った側から、あらゆる物が珍しいらしく。フラフラとどっかに行きそうな、姪の首根っこを捕まえておく。
「ほら行くぞ」
「あぁー、ちょっ、ちょっと!」
ネイメを引きずりながら、王城の中へ。相変わらず豪華だ。
「すんげーー」
「ネイメ」
「いいじゃんか、感想ぐらい」
「そう言うのは口には出さないのがマナーだ」
「はーい」
まったく。
「ルド殿、このまま謁見となります。宜しいですか?」
「えっ、このままですか? ・・・・」
オッサンはネイメを見つめる。このまま、謁見までさせて平気だろうかと考える。何かやらかしそうなネイメに、不安を覚えるオッサン。
「えーと、リサーナ」
「はい」
「コイツはどっかの部屋待たせるから」
「えーー! 私も王様に会ーいーたーいぃー!」
『ゴン』再び、オッサンの拳骨が落ちる。
「バカタレ! 王様ってのは会いたいから会うとか、そう言う存在じゃないんだぞ!」
「痛〜い! また叔父ちゃんがぶったー」
「よしよし」
「おい、リサーナ・・・・何してる」
「いえ、慰めてルド殿の姪子殿を取り込もうかと」
「やめーーい!」
「リサーナ! 狡いぞ1人だけ!」
「早いもの勝ちです。姫様」
「・・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと! リサーナさん? それにお姫様?」
ネイメは二人に、揉みくちゃにされ可愛いがられた。
「兎に角・・・・部屋で大人しくしてろ」
「えぇーーー、ぶーぶー!」
ぶーたれて、抗議してくる姪。
「あのー、ルド殿」
「何だリサーナ?」
「姪子殿も一緒に、謁見された方が良いかと」
「何故?」
「私には見えます。部屋を抜け出し、城の中を探検する姪子殿の姿が! そして、高いツボなどを誤って割ってしまい。焦る姿が!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ひどーい! そんな事しないもん!」
想像できてしまった。やらかして泣きついくるネイメの姿が。
「よし! 地下牢に閉じ込めておこう! あるだろ地下牢?」
「ちょっと叔父ちゃん! 可愛い姪を、牢屋に入れる気!」
「なぁーに、これも経験だ。10年後には、いい笑い話しになる」
「そんな笑い話しなんていらなよ!」
「さすがにそれは・・・・」
「うむ。ルド殿の親類にその様な事はできぬ」
「ほら! お姫様もこう言ってるよ!」
「「さすがにそれは無理」」とリサーナとクシャーナ殿下は首を横に振る。ちっ、無理か。
「はあー。なら仕方ない、謁見はさせてやるが、大人しくしていろよ! 分かったな!」
「はーーい。えへへー」
はあーー。王様に会う前に疲れた。
*****
王城、謁見の間にて。
「陛下、ルド殿をお連れしました」
「うむ、すまぬなクシャーナ。ルド殿、帰って来たばかりだと言うのにすまぬ」
「いえ、迷宮の異変ですから・・・・」
「うむ。シャウードの迷宮との事じゃが・・・・ルド殿、メルキオス迷宮と何か関係があると思うかな?」
「はい、恐らく間違いなく」
「そうか・・・・」
「そう言えば、クシャーナ殿下からアウダマの森に向かったとお聞きしましたが?」
横で控える大臣が、アウダマの件を聞いてきた。
うん。報告した方がいいよな。
「はい。実はその事で、ご報告しておきたい事があります」
「うむ。聞かせてくれ」
・・・・・・・・・・・・。
「なんじゃと! その様な事がアウダマで?!」
「ルド殿、よくご無事でしたな!」
アウダマの森にてあった事を、包み隠さず話すと。二人は驚き、目を見開いた。
「ルド殿の話しからすると・・・・それらが、迷宮の異変に関係しているのでしょうか?」
「うむ、その可能性は高いの。それにしても、ルド殿はよく無事じゃった。その様な化け物相手にの」
「陛下」
「なんじゃクシャーナ?」
「我が国だけでなく、他の国にも警戒を促した方がよいのでは?」
「うむ。既に他国にも連絡しておる。安心せよクシャーナ。それでルド殿よ。急ぎ公国に向かって欲しい。良いかの?」
「はい、今日にでも向かいます」
「ですが陛下。ここから、シャウードの迷宮があるアウスバウ領まで、馬で二十日以上かかります」
「うむ、確かに大臣の言う通り・・・・事が起きる前に間に合うか?」
謁見の間に重い空気が流れる。隣国とは言え、それなりの距離だ。山を超え、谷を超えなければならない。どんなに俺が急いでも、二週間がいい所だ。あそこを通らなければだが。
「方法が無い訳ではありません」
「うむ? ルド殿には何かいい案が?」
「ヴィルム海底洞窟を通ります」
「ヴィルム海底洞窟じゃと!」
「ルド殿! いくら何でも無茶ですぞ!」
陛下と大臣は再び驚く。しかも、今度は顎が外れんばかりに。
それもその筈で、ヴィルム海底洞窟は、まさに魔窟。魔物の巣窟なのである。危険過ぎる為、入り口は塞がれ警備されている程だ。
しかし、オッサンにとっては「そこまで無茶でも無いですけど?」と言う感じだ。
あっちこっちに行ききしていたオッサンは、とんでもない道を複数もっていた。なのでオッサンからしたら、ただの通り道にすぎないのだ。
「あの、もしかしてルド殿は・・・・」
「はい、良く使ってましたね。あそこを通れば、五日程で着けますから」
「「「「・・・・・・・・」」」」
謁見の間に居た者の全てが絶句していた。
なんだ?
「ねぇ、叔父ちゃん。まだ?」
「大人しくしてろ」
俺の横で、ネイメがあきだした。だから待ってろって言ったんだ。ボソボソとネイメと喋っていると、陛下が「ところでルド殿、その隣りの者は一体・・・・」と聞いてきた。
「あのー、姪っ子です」
「何と! ルド殿の姪っ子とな?!」
「はーい! ルド叔父ちゃんの姪で、ネイメ・エマ・アスって言いまーーす!」
あーーこのバカ! やらかしやがった!
「ほっほっほ、元気な子じゃの」
「えへへへ」
「ネイメ! 行儀よくしろ!」
「だって、話し長いんだもん『ゴン』あ痛!」
はあーー。 頭痛くなって来た。
「ふむ。格好からして冒険者をしておるのか?」
「はい、叔父ちゃんみたいになりたくて!」
「ほう、そうかそうか」
「す、すみません陛下」
「よいよい。元気があってよい。所で・・・・ルド殿の姪ならば、かなりの実力があるのでは?」
「いえ、コイツはまだまだですから」
「えーー、ひどーい! 私Cランクだよー!」
「Cランクですと!」
何故か大臣が驚く。うん? 何故?
「なんじゃ大臣、そんなに驚いて?」
「いえ陛下。姪子殿は、見た目の年齢からして恐らく。冒険者に成り立ての筈・・・・にも関わらず、Cランクですよ」
「ふむ、確かに。ネイメとやら、冒険者になってどれくらいじゃ?」
「えーーと、半年くらい?」
「「「「半年!!」」」」
「そんなに驚く事か? 陛下に大臣、殿下まで」
「いや、ルド殿。半年でCランクはおかしいぞ! 早いなんてものでは・・・・」
「そうなのか?」
「叔父ちゃん本当に冒険者? ギルドの人も凄いって褒めてくれたよ?」
「んーー、リサーナも凄いと思うか?」
「はい。半年でCランク・・・・さすがルド殿の姪子殿です」
「んーー」
「ルド殿は、一体何が納得できぬのですか?」
「いや、リサーナ。その、何だ。俺は七日でAランクまで上がったから」
「「「「はいぃぃぃぃ!!!」」」」
「さっすが叔父ちゃん!」
「褒めても何もやらんぞ」
「ふむ、さすがは王国一・・・・いや、人類一の冒険者じゃ」
「はい陛下。規格外にも程がありますね」
「ルド殿は、どうやってそんなに早くに」
「あれですよ姫様。化け物だからです」
「な、成る程!」
いや、成る程じゃないよ殿下。
「どうやったの叔父ちゃん?」
「どうやったって、普通に迷宮を踏破してだな」
「「「「えぇぇぇぇ!!!」」」」
何度も驚き過ぎでしょ!
「迷宮? 迷宮と言ったか?」
「はい。初心者でも入れる、ルツカの迷宮をです」
「「「「ルツカの迷宮?!」」」」
ルツカの迷宮は、冒険者の中でも、比較的踏破しやすい迷宮だ。魔物が弱いからなのだが・・・・それでも、踏破するには最低でもBランクでなければ無理だ。俺はそこを、冒険者になったその日に入り、四日かけ踏破した。それも一人で。
「ルツカの迷宮・・・・私も行ってみようかな?」
「今のお前にはちょうどいいかもな。・・・・ん? って! そんな場合じゃなかった。陛下、直ぐに出立します」
「・・・・・・・・あっ、うむ。頼むぞ、ルド・ロー・アス。ネイメも元気でな」
「はい!」「はーーい」
王城の城門前。
さて、行きますか・・・・あっ!
「ネイメ、お前はどうする?」
「どうする? って・・・・着いて行っていいの?」
「ダメだな」
「そりゃそうだよね。・・・・暫く王都には居るつもりだけど」
「そうか。ならほれ、鍵」
「叔父ちゃん家、使っていいの?」
「と言うか、使ってたろ」
「えへへへ。ありがと叔父ちゃん」
「おう。後、王都の冒険者ギルドに顔出すなら、エルナって言う受付がいるから、王都の事はそいつに聞け。あっ、それと約束はもう暫く待てと伝えてくれ。言えば分かるから」
「えっ、叔父ちゃんの彼女?」
「バカ、違う。じゃあ、行ってくるな」
「行ってらっしゃーーい」
「ルド殿、お気をつけて!」
「姪子殿はお任せをーー」
「はい殿下! リサーナ頼ん・・・・ん? 何でリサーナが面倒見るつもりなんだ? まあいいか」
オッサンは走り出す、エングランツ公国を目指して。
「・・・・所で、エルナとは何者だ?」
「覚えていませんか姫様。ギルドにて受付嬢をされていた者です」
「ほう、あの者か。約束とは一体・・・・」
「あのー」
「な、何だ姪子殿」
「ネイメでいいですよ、お姫様」
「そうか、なら私もクシャーナと」
「クシャーナ姫・・・・様?」
「うむ」
「では、私はリサーナと呼んで下さい」
「リサーナさん・・分かりました! ところで・・・・」
「なんじゃ?」「どうされました?」
「クシャーナ姫様は、叔父ちゃんのことが好きなんですか?」
「・・・・・・・・にゃ、にゃにを言ってりゅのだ!」
「あー、凄い分かりやすい」
「えぇ、本当にそうなんですよ。ネイメ」
「にゃ、りさーにゃ!」
「そうだ! これからみんなで王都観光しましょうよ!」
「「王都観光?」」
「ふむ、面白そうだ」
「はい、姫様」
「観光しながら、ルド叔父ちゃんの事、色々教えてあげる」
「うむ、頼む」
「面白そうです」
その頃、エングランツ公国に向かっているオッサンは・・。
「ハーーックション! うぅー、何だ? 妙な寒気が・・・・気の所為か? そんな事より、急がないと!」




