帰って来たオッサンと侵入者
おっ、王都の正門が見えてきた。ふう、帰って来たな。一ヶ月ぶりぐらいか? そこまでたって無いか? まあいいや。兎に角、早く家に帰ろう。
王都ヴァロワの正門が見えて来る。相変わらず、正門前には人が列を成していた。
「今日も多いな。おっ? あれは・・・・おーーい! キッツー!」
門番をしている顔見知り、キッツの姿が見えた。キッツに手を振ると、どうやら気づいたようだ。驚いた顔をしていた。
「ん? あぁぁぁ! ルドさん! 久しぶりじゃないですか!」
「おう。仕事がひと段落してな。やっと帰ってこれたよ。キッツのほうは、変わりないか?」
「こっちは、特に何も無いっすよ。さあどうぞ! ルドさん」
「悪いな」
列の順番をすっ飛ばし、門番の検問もされず、オッサンは門を通り抜ける。国の英雄とも言えるオッサンは、顔パスで問題無く通れるのだ。
「仕事頑張れよ」
「はい!」
オッサンは、足早に家へ帰っていっ・・・・行けなかった。
「ルド殿! ルド殿ですね! 自分は近衛隊の者です」
「あの・・・・何でしょう?」
「直ぐにでも王城に来て下さい」
「・・・・・・・・あの、疲れたので一旦家に帰ります。城には後で顔を出しますので・・・・」
「ちょ、ちょっと! ルド殿?!」
オッサンは、近衛隊の兵士を振り切り。家に帰っていった。
「どうしますか隊長?!」
「急ぎルド殿の帰還を城に、陛下にお伝えするのだ!」
「はっ!」
*****
「おや? ルドさんお帰り!」「ルドさんじゃないか? 仕事は終わったのかい?」「ルドのおっちゃーん」
「おう! 元気してたか?」と挨拶を交わしながら、家への帰り道を歩いていく。近所に住むみんなが、道で会う度に話しかけて来るのだ。「王都に帰って来たって感じだな」とオッサンは王都での、いつもの光景に和む。
「ふうー、俺の家。ちょっと留守にしただけだが。
凄い久しぶりな気がするな。ただいまーー。って、
誰も居ないよな。あははは・・「おかえりーー」おう、ただいぃーーー!!」
オッサンは驚いた。何故なら、誰も居ない筈の自宅に、人が居たからだ。
「侵入者か?! だ、誰だ?! ん? お前は・・・・まさか!」
「うぃーーっす。叔父ちゃん元気してたぁー」
「何でお前がここに居るんだ、ネイメ」
我が家に侵入した者、それは・・・・俺の姪だった。
「えへへへ。来ちゃった」
「来ちゃったじゃねぇよ! ん、まさか実家で何かあったのか?」
「特に何もないよ? 叔父ちゃんの顔が見たくなって来ちゃった」
「はあーー、来ちゃったじゃねぇよ」
「だって、叔父ちゃん。全然帰って来ないじゃん。前に会った時なんて、たまたま会った時だよ? たまたま! それも五年前だし!」
「うっ、それは仕方ないだろ? 忙しいんだから」
「そうなんだろうけどさあ、たまには帰って来たら? お爺ちゃんやお婆ちゃんも、顔見たがってたよ」
「うーーん、親父とお袋は元気してるか?」
「いつも通り元気してるよ」
んー、今抱えてる仕事がひと段落したら。一回顔出すか。
「ん? そう言えば、ネイメ一人で来たのか?」
「そうだけど?」
「危ねえなぁー、女の子の一人旅とか」
「むー。私、もう十七才だよ。大人だもん! それに、冒険者として頑張ってるんだから!」
「ネイメ・・・・お前、やっぱり冒険者になったのか」
「そりゃなるよ。叔父にこんな凄い人いたらさ、目指すじゃん?」
「はあーーー。それにしても、お前どうやってここに入った? まさか鍵を開けたのか?」
家の防犯は、魔法を使って徹底している。一戸建てだが、セキュリティーは城並みだろう。なのに、どうやって?
「叔父ちゃん、ここの鍵預けてるでしょ? お隣りさんに」
「あぁー、そう言う事か」
家の合鍵を、信頼しているお隣りさんに預けてある。家を留守にする時は、長いと半年、それ以上の時もある。なので、家の管理の為に、お隣りさんに鍵を預けてあるのだ。
「と言うか、何て言って鍵開けてもらったんだ?」
「えっ、えーーーと」
「おい! 何て言って開けてもらった!」
「あははは、・・・・隠し子?」
「おい!」
「ごめーーーん。だってさ、姪じゃさ、関係性がちょっと薄いじゃん?」
「このバカ姪が・・・・お隣りさんに、説明しにちょっと行ってくる」
「えへへへへ」
「兎に角、お前は服をちゃんと着ろ! いい年した娘が、はしたない」
「はーーい」
お風呂あがりなのか。ネイメは濡れた髪に、トランクスタイプの下着に、上はランニングのみだった。まったく、もう少し慎みを持ってほしい。
はあーー、兄貴に手紙出すか。こっちにネイメが来てるって。
あーー、それよりお隣りさんだな。はあーー。
お隣りさんに行くと「まあ、ルドさんなら一人や二人くらいね」
と、お隣りのおばちゃんに揶揄われた。姪である事を説明したが「やだ、隠さなくてもいいのよ?」と、中々信じてくれなかった。
あぁーもう。確かに一人、隠し子的なのがいるっちゃーいるが。
リュリュティアをふと思うオッサン。
ん? 馬車と・・・・騎士? あれってもしかして?
「だ・ か・ら! 今留守です! と言うか、お隣りさんの所に行ってます!」
「それは分かった・・・・しかし、お主は何者だ!」
あぁーー、聞き覚えのある声。はあーー。
「私は、ルド・ロー・アスの!「姪ですよクシャーナ殿下」
「る、ルド殿!」
俺が声をかけると、振り向いた殿下は俺の名前を叫んだ。
「何やってるネイメ」
「叔父ちゃん! この人達がいきなりやって来て、叔父ちゃんを出せって、うるさくて」
「はあー、うるさいとか言うな。この人はイサルカ王国の王女様だぞ」
「えっ?」
「うん」
「えぇーーーー? 申し訳ありません! ははーーーー!!」
ネイメは見事な平伏を見せた。田舎暮らしで、貴族との関わりなど皆無。なのに、初めて会った偉い人が、天上人である王族だから仕方ないとも言える。
「何と! ルド殿の姪」
「良かったですね姫様。もしかしたら、ルド殿の「リサーナ!」
「それで殿下。どう言ったご用件です?」
「そうであった。ルド殿、シャウードの迷宮で異変があったようなのだ。それで、エングランツ公国からルド殿を寄越して欲しいと。
兎に角、王城にて陛下に謁見してくれ」
「シャウードで? 成る程・・・・分かりました。少しお待ち下さい。準備します」
「うむ」
「えっ、何? どうしたの?」
家に入り手早く準備して、急いで玄関に戻る。
おっと、忘れてた。
「ネイメ、お前はお留守番な」
「えーー、私もお城に行ってみーたーいーー!」
「・・・・何か粗相でもしたら、首が飛ぶぞ?」
「お留守番してます」
「よろしい。では殿下」
「うむ。・・・・ルド殿、姪子殿も連れて行っても構わぬが?」
「本当!」
「おい、ネイメ。あの、殿下。止めとい方が・・・・」
「えーー! いーーいじゃん!」
駄々っ子かよ!
「はあー、行儀よくしろよな。分かったか?」
「はーーーい!」
「ルド殿の姪子さんにしては、何と言うか・・・・」
「言うなリサーナ」
「えっ、なになに?」
「ネイメ。お前は俺がいいと言うまで、絶対しゃべるな。いーな」
「はーーい。お城楽しみー」
「はあーー。先が思いやられる」
オッサンは、ネイメを連れて王城に向かったのであった。
「綺麗な馬車! うわーー! ねえねえ、凄いよ叔父ちゃん!」
・・・・頭痛い。




