甘々のオッサンと動きだす影
「それにしても・・・・ほんと、テュラミアーダは、リュリュティアに好かれているな」
キャッキャッと騒ぐリュリュティアを眺めつつ、お茶をすするオッサン。タルボロを倒した後、テュラミアーダの住処である、大樹に戻って来ていた。
「叔母上〜大好きなのだー」
「ふふふ、リュリュティアは甘えん坊だの」
リュリュティアとテュラミアーダを見て、オッサンは思った。
「まるで、母娘みたいだな」と。思わず口にしてしまったオッサンは、ハッとして口を閉じた。
「・・・・ある意味そうだの。何せ、リュリュティアを育てたのは妾だからの」
「ん? どう言う意味だ?」
リュリュティアは、クリュレミアの娘だろ? 更に言えば・・・・まあ、なんだ。俺の、その、あれな訳で・・・・。
「何をそんなに考えておる? そんな考え込むような意味など無いの? 単に、赤子の世話などできぬクリュレミアがの。妾に泣きついて来ただけだの」
「あぁー、そう言う事か」
「むっ、テュラミアーダは子供がいるから慣れておるじゃ。我は初めてだったのじゃ。仕方ないのじゃ!」
泣きついた事は否定しないんだな。まあ、確かにいきなり子供ができれば、そりゃあーな。
「妾とて、最初の子は初めてだの」
テュラミアーダは子供がいるのか。でも、ここに居ないって事は・・一人立ち・・・・いや、巣立ちか?
「テュラミアーダの子供は何人・・・・あれ? 古竜に何人はおかしいか?」
「別に何人でよいの。妾の子供は二人だの。二人共、既に巣立っておるの」
「へぇー、そうなのか」
「お兄とお姉にも会いたいのだ」
「リュリュティアも知ってるのか」
「うぬ、遊んでもらったのだ」
「そうか、良かったな」
「うぬ!」
可愛いリュリュティアニャンコの頭を、これでもかと撫でてやる。リュリュティアは、「むう、やめい!」と言うが、顔は綻んでいる。何だかんだ言っても、嬉しいようだ。
「さて、問題はこれからどうするか何だが」
「なんじゃ? 何があるのじゃ?」
「いや、俺が来た目的は、アウダマの森の調査だ。手掛かりは消し炭になっちまったが。どちらにせよ、報告に帰らにゃいかんし」
「ふむ。じゃが、我はまだ帰らぬのじゃ」
「ん、何で?」
「ふぅん」
「?」
「じゃから、ふぅん!」
「ほれ、あっちじゃ」と頭で方向を示すクリュレミア。その先には、テュラミアーダと遊ぶリュリュティアの姿が。
「あー、そう言う事ね。まあ、俺はひとりで帰っても別にいいが」
「にゃ! ルドは・・・・帰るのか?」
寂しそうに見つめるリュリュティア。
ぐっ、何だ? 俺の奥底にある、母性のようなものが、行ってはならぬと言っている気がする!
「うーん、そのだな」
うるうる目の上目遣いで見つめるリュリュティア。
オッサン、いけない事してる気がしてくるー!! し、仕方ない。
「それじゃあ、明日! 明日帰るとするよ」
「うー、明日にはルドが帰ってしまうのだ」
ぐーーう、明後日に変更を・・・・いっそ三日、いや、四日に・・・・。ダメだ、アウダマの森で起きた事の報告を急がねば・・・・。仕方がない。ここは、心を鬼にして・・。
「それじゃあ、三日後に帰るかな」
「三日、三日か。うー、仕方ないのだ。三日、一緒なのだ!」
「おう」
オッサンは、甘々なのである。
「子供に甘いのじゃな、ルドは」
「やかましい。さて、夕飯の準備をするか」
「手伝うのだー!」
「ふむ。ならば妾が、旨い実を取って来るの! クリュレミアも手伝うのだの!」
「はあ、しょうがないのじゃ」
オッサン達が夕飯の準備をしていた頃・・・・。
アウダマの森、戦いのあった場所にて、複数の影があった。それは、フードを深くかぶる謎の者達で、戦いのあった場所にて、何かを調査していた。
「まさか、奥の手も効かぬとはな」
「当然と言えば当然だろう。そもそも、あれが全力なのかさえ分からないのだから」
「まだ上があると?」
「さあな。それにしても、まさか古竜を呼ぶとはな。予想外にも程がある」
「そうか? 一応、火竜太公との繋がりがあると言う情報はあったがな」
「ほう、そうなのか。兎に角、アレに知られてしまった以上、事態が動きだすぞ。それも、一気にな」
「我々も、動きを早めねばなりませんな」
「ルド・ロー・アス・・・・これ以上、邪魔はさせぬ。次はエングランツだな。行くぞ」
影は、その言葉を最後に、闇の中に消えていった。
イサルカ王国の西、エングランツ公国。
「ご報告します! シャウードの迷宮にて、魔物による暴走を確認! 恐らく、近い内にスタンピードが起こる可能生が!」
「何だと! よりにもよってシャウードの迷宮で・・・・公王陛下! どういたしましょう!」
「落ち着け大臣、シャウードの迷宮のある近隣の領主に、非常事態を伝えよ。それと、禁軍の出陣の準備も整えよ。それから・・・・」
「そ、それから何でしょう?」
「イサルカ王国に、この事態を伝え・・・・冒険者、ルド・ロー・アスを呼ぶのだ!」
「「「「「はっ!!」」」」」
オッサンの知らぬ所で、事態はめまぐるしくも動いていた。




