アウダマの森と言えばアイツ
「やり過ぎだろお前ら・・・・はあーー。兎に角、終わっ・・・ん? はっ!」
『ゴゴゴゴ・・・・ドスーーーン!!』
突然、地鳴りが聞こえてきたと思ったら、地面から触手が飛び出す。 これはまさか!
「はっ! しまった!」
『シュッ!!』と触手が地面から伸びて来て、オッサンの持っていた、ミイラが入ったガラスケースを掠め取った。
「くっ! コイツ!」
ちっ、油断した!
「ルド! 下じゃ!」
クリュレミアがそう叫んだ瞬間、ボゴボコと地面が盛り上がり。
奴が姿を現した。
「やっぱりかよ!」
姿を現したのは、アウダマの森にのみ生息する魔物、タルボロであった。
おいおい、コイツめちゃくちゃデカイぞ。メルキオスに居た奴と同等くらい? って事は、やはりあの連中が関わってるのか? それとも・・・・たまたま育ったユニークモンスターか?
「リュリュティア! 後ろに下がるのだの! 此奴、変じゃの!」
「変? どう言う事だテュラミアーダ」
「此奴の体内から、変な力を感じるの! 洞窟に居た奴と、同じ力を感じるの!」
「そうか、と言う事はだ。やっぱり、あの妙な連中が・・・・」
「ルド! 考えるのは後にするのじゃ! 此奴、何かしようとしておるのじゃ!」
「ん?」
『パリーーン』
「っておい!」
タルボロは、ガラスケースを割り。中のミイラの肉片を、自分に摂り込み始めた。
「この野郎、折角の手がかりを! はーあっ!」
『ガキィーーーン』
「なっ!」
タルボロは、オッサンの一撃を容易く止めた。ブニョブニョした体からは、想像できない程の硬さだった。
「なっ! コイツ硬い!」
「ピギィーーー!!」
来る!
『ビシュン! ビシュン! バシュン! バシュン!』
くっ、速い!
『キィン! キィン! ギィン! ギィン!』
タルボロの鋼質化した触手が、オッサンを襲う。オッサンはそれを、大剣で捌く。触手と大剣がぶつかる度、火花が飛ぶ。タルボロとオッサンの、凄まじい鍔迫り合いは、僅か数秒で十数回はぶつかっていた。
「ぐうーーーつっ!」
凄まじい鍔迫り合いを何とか堪えるが、ズザァーーと後ろに、体ごと押し出される。
「ピギャーーー!!」
『ドゥバシューーン』と、一番太い触手で、タルボロは強力な一撃を放つ。
『ゴギィーーーン』
「くっ、ぐぅーーーーーあぁーーーっと」
タルボロの攻撃を、大剣で跳ね返したが、強力な一撃に、オッサンは後ろに吹き飛ばされた。
「ちっ! 何て奴だ。ん? なんだ・・・・」
タルボロが突然、体がグニュグニュし始める。気持ち悪い光景に、オッサンは唖然と見つめた。
「ルド!」
「はっ!」
ぼーっと見つめるルドに、後方にいたクリュレミアが声をかける。
「どうしたクリュレミア!」
「変な感じがするのじゃ! 危険なのじゃ、もう我が焼き払う! 下がれ!」
「変な感じ? ん? 焼き払う・・・・っておい、ちょっ、ちょっと待て!」
『ギュイーーーン・・・・ボボッフ!!」
クリュレミアは、口にエネルギーを溜め、それを解き放った。
放たれ火球は、タルボロに直撃すると。『ボガーーーン!!!』
と大爆発を起こした。
「ぐわっ!」
クリュレミアめ、こんな距離で使う技じゃ無いぞ! ぬおっ!
ぬうおーーーーー!
爆風が到達する前に、『シュピーン』と、テュラミアーダは光る壁を魔法で生み出した。
「リュリュティアよ。妾の後ろにおるのだの」
「はい、なのだー」
爆風に飛ばされたオッサンに対し、テュラミアーダは結界を張って、爆風を防いだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぐへっ!! いててて・・・・クリュレミアの奴、何つう攻撃を・・」
高く吹っ飛んで、地面に叩きつかれるオッサン。
タルボロは・・・・土煙で見えないか。しかし、クリュレミアの攻撃だ。無事では無いは・・・・なっ!
「なっ、無傷だと」
タルボロは、まったくダメージを受けた様子は無かった。それだけではなく、体が真っ黒に染まり、血管の様に赤い筋が体じゅうに走っていた。
「我のブレスで死なんとは・・・・それに、更に力が増してきているのじゃ」
「クリュレミア。一旦下がるのだの」
「痛たたたっ、クリュレミア! お前な・・・・」
吹き飛ばされたオッサンも、強打した腰を摩りながら、テュラミアーダの元へやって来た。
「これは・・・・かなりマズイの。仕方ない。森の半分を失っても構わんから、本気でやるかの」
「リュリュもやるのだー!」
「リュリュティアはダメだの」
「えぇーー! リュリュもやりたいのだー!」
「うむ、なら我の最大火力で・・・「あぁーーー!!」
クリュレミアとテュラミアーダが、本気を出そうと気合いを入れようとしたその時、オッサンが叫んだ。
「なっ、なんじゃルド!」
「剣が・・・・」
「剣がなんなのじゃ?」
「・・・・俺の剣が欠けた」
「「はあ?」」「なのだ?」
オッサンは、大きく刃が欠けた大剣を、涙目になりながら見せる。
「ルド、剣くらいで・・・・」
「ただの剣じゃ無い! 大事な剣なんだ!」
「だとしてもじゃ、剣は剣じゃ。また、買うなりすればいいのじゃ、人間とはそう言うものなのじゃろ?」
「あのなクリュレミア。買い替えれば良いと、言うものじゃ無いんだぞ。クリュレミアだって、折角買った服をボロボロにされたらどう思う! また買えよと言われて、納得するのか?!」
「うーーーむ、それはじゃな・・・・」
「クリュレミア、何をルドに言い含まれておるのだの。それに、今それどころでは無いのだの」
「はっ! つい」
「なのだ?」
むっ、テュラミアーダは人間世界に疎いから、分からないのか。リュリュティアも良く分かって無いな。
「兎に角、俺は無性に腹が立っている。だから、憂さ晴らしをさせて欲しい」
「つまり・・・・どう言う事かの?」
「テュラミアーダ。ルドは一人で闘うと言っおるのじゃ」
まあ、簡単に言ったらそうだが。
「むう! リュリュも闘うのだ!」
「リュリュティアはダメだの。アレと闘うには、まだまだ小さいからの」
「むむう! ぶーーー!」
黒ニャンコ姿のリュリュティアは、ほっぺを膨らまして抗議する。オッサンはそのほっぺを、プニプニして元に戻す。
「ふははっ、リュリュティア、あんまりぶーたれるな。俺がリュリュティアの分も頑張るから」
「ぬう、なら仕方ないのだ。ルドに譲るのだ」
「やれやれなのだ」と、腕を組みながら、首を振る黒ニャンコ。
ふっ、可愛い奴め。さてと・・・・タルボロ! 許すまじ!
オッサンは、大剣をマジックバックに仕舞うと。別の剣を取り出した。取り出したのは、同じく大剣。双刃の大剣で、剣身は赤く、
熱を放射していた。
「テュラミアーダ! クリュレミア! リュリュティア! 避難してろ! それかテュラミアーダの結界を、最大の力で作れ!」
「ふむ、分かったの。クリュレミア、こちらに来るのだの。リュリュティアも妾の側に居るのだの」
「はいなのだ」
「ふむ。頼むのじゃ」
「それでは、結界を張るの」
「あっ、テュラミアーダよ。地面も張るのじゃぞ!」
「言われなくとも、分かっておるのだの」
テュラミアーダは、最大魔力で結界を張る。見た感じ、かなりの強度だ。俺の本気でも、簡単に破壊できないレベルだろう。
「よし・・・・」
オッサンは、気味の悪い姿に変貌したタルボロを睨みつける。
「行くぞぉーー!!」
オッサンは、勢い良く駆け出す。地面を蹴る力で、土煙りが舞う程だ。
「はあぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
「・・・・・・・・ギィ」
「はあぁぁぁぁっ!!」
『ガキィーーーン! ガギィン! バキィン! ガギィーーン!
バキィンガギィンバキィンガギィン!!!!』
オッサンは、猛攻を仕掛けるが、攻撃は全て弾かれてしまった。
「くぅっ、硬ぇー!」
物理が無理か。だったら・・・・。
大剣に魔力を注ぎ込む。大剣の熱が一気に上がり、ジリジリと周囲の温度を上げていく。
「火焔兜割り!!」
大剣に、炎が竜巻のように巻きつく。
「とぅっあ!」
オッサンは、高く飛び上がり。タルボロ目掛け、大剣を振り降ろした。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
『ガキィーーーン・・・ジューー』
「ビギィーーーーーーーーーーー!!」
オッサン放った一撃は、タルボロの体を溶かすように切っていく。その攻撃に、タルボロは悲鳴をあげた。
『シュバーーン!』
「ぐっ!」
『ドカーーン!』
タルボロは、頭上から斬りつけて来たオッサンを、触手で吹っ飛ばした。オッサンは、地面にめり込む程に、叩きつかれた。
「いってぇーな。・・・・この技でもダメか。でも、効いてはいるな」
焼き爛れたタルボロの傷口は、再生できていなかった。高い再生力が、タルボロの強みだが。オッサンの一撃は、再生しようとする細胞組織を、完全に破壊しているようだ。
「ルドーー! 頑張れなのだーー!」
リュリュティアの声援が、オッサンの耳に聞こえた。リュリュティアの方を見ると、ぴょこぴょこと飛び跳ねて、オッサンを応援していた。
「ふう、まったく。こりゃ、頑張らないとだな」
オッサン、超マジモード!
今度の技は、さっきの十倍だぁぁぁぁぁ!! 多分。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
オッサンの体と大剣を、赤い光りが包み込む。
もっと速く、そして最大火力。ならこの技しかない。
大剣を両手で手に持ち、腰を少し落として、剣を構える。
紅蓮・・・・流星・・・・爆炎刃。『シュタッ!!』
『ボガアァァァァァァァァァーーーーーーーーン!!!!!」
オッサンは、目にまとまらぬ速さで、タルボロの体を貫いた。
タルボロには、大きな穴が空き、タルボロは炎に包まれた。
「ルドーー! 凄いのだーー!!」
「見事なものじゃ!」
「なかなかやるのぉ!」
ふう、倒せたか。それにしても・・・・あのミイラは何だったんだ?
ふと、考え込んでいると。
「ルドー」と、リュリュティアが駆け寄ってくる。可愛い黒ニャンコに。「まあ、いいか」とそう思ってしまった。




