群がる魔物
「うおぉらあーー! うおりゃあーー! くそっ、キリが無い」
魔香液によって集まった魔物の群れ。その数は、数百・・いや、数千になろうかという数が、オッサンに群がっていた。ミイラの入ったガラスケースを、片手に持ちつつ応戦している為に。半分以下の力しか出せずにいた。
「こんな野郎! おらあぁぁぁー! うらあぁぁぁーー!」
次から次に押し寄せる魔物。最早、大剣で斬る暇すら無く、殴る蹴るの肉弾戦状態になっていた。
さすがに、このままだとマズイな。
大中小の魔物が約数千匹。小さい物はゴブリンから、中くらいにはオークにオーガ。大きいのになると、デミジャイアントやサイクロプスなどが。続々と群がってくる。
魔香液の効果はどれくらいだ? 地面に流れ出たのは、直ぐさま魔法で焼却したが・・・・既に拡散した物だけでこの効果か。何つうもんを・・・・。あぁ、そんな事を考えてる暇は無い。今は兎に角。
「かかって来いやー!!」
「「「「「「「グギャァーーー!!!」」」」」」」
その頃大樹では・・・・。
「おい、テュラミアーダよ。大変な事になっているのじゃ!」
「うむ。あの人間が撒いた妙な奴の所為じゃの。ここからでも少し匂うの」
「むーーー、臭いのだーー!! 変な匂いなのだ」
鼻を摘み、ジタバタするクリュレミア。
「そもそも、あれは人間なのかの?」
テュラミアーダは目を細め、謎の者達を思い出していた。
「どう言う意味じゃ?」
「そのままの意味だの。人の気配とはまた違うものだったの。あれはまるで・・・・・・・・」
「まるで? なんじゃ? ・・・・早よ言うのじゃ!」
「分からぬの」
「・・・・・・・・溜めるだけ溜めおいて、それは無いのじゃ!」
「分からぬものは、分からぬの。それよりルドが大変そうだの」
「母上ー! 叔母上ー! 助けに行くのだーー!」
「ふむ。頑張ってはいるが・・・・さすがにあの数じゃ。我達も加勢に行く方がよいのじゃ」
「リュリュも行くのだー! ルドを助けるのだー!」
「リュリュティアが行きたいのであればの。妾も行くかの」
「なんじゃ珍しい」
「たまには体を動かしたいのだの」
「行くのだーー!!」
そして、その頃オッサンは・・・・。
「いい加減・・しつこいんじゃあぁぁぁぁーーーー!!!」
倒しても倒しても減らない魔物に、さすがイライラが募っていた。オッサンの体力と、スタミナは半端ないので。このまま、二、三日は闘い続けられる。しかし、鬱陶しい事に変わり無いので、ストレスが半端ない事になっていた。
「やったらぁぁ! おらあぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
『シュビィィィィーーーーン! ドガァァァァァーーーーン!!』
オッサンの放った、大剣と魔法の融合技により。振り下ろした大剣から放射状に、白い閃光の斬撃爆風が起きた。その威力は、百メートル以内の草木が消しさり、地面のみを残す程だった。しかし、それだけの技を放ったにも関わらず・・・・。
「くっそ! まだ、ぞろぞろと!」
草木の変わりに、新たにやって来た魔物によって、埋め尽くされた。
このままだと、森が無くなるか。魔物が居無くなるかだな。
ふと、そんな事を思っていたら・・・・。
「ルーーーードーーーー!」
「えっ?」
今、誰か呼んだ? しかもリュリュティアの声のような?
「ルーーーードーーーー!!」
「えっ? やっぱりこれ、リュリュティア?!」
「ルーーーードーーーー!!!」
「・・・・上か?! っておい! リュリュティア!!」
上を見上げると、空からリュリュティアが急降下・・・・いや、ただ落ちてるだけだ。
オッサンは慌ててジャンプ。オッサンの強靭な脚力により、軽く百メートルは跳んだ。そして、落ちてくるリュリュティアを空中で無事に片手キャッチした。
「ルド、助けに来たのだー!」
いや、助けたのは俺の方だろ。まあ、リュリュティアは、このくらい大丈夫だろうが・・。
幼い姿に心配して、思わず飛び出してしまったオッサン。意外と過保護なオッサンなのである。
「って! 一人で来たのか! クリュレミアとテュラミアーダは?」
「母上と叔母上なら上なのだ。ほら、あそこにいるのだ」
リュリュティアは、ニコニコしながら上を指差した。雲の切れ間から、クリュレミアとテュラミアーダが現れ・・・・って! クリュレミア! スカート押さえろ! 何で人型のままで来てるんだよ!
シュタと地面に着地して、リュリュティアを下に降ろす。テュラミアーダの背に乗ったクリュレミアも、地表に降りて来た。
「クリュレミア、ちゃんとリュリュティアを見とけよ」
「このくらい大丈夫じゃ。過保護じゃの」
「大丈夫なのだ」
「とは言え、リュリュティア。いきなり飛び降りたらビックリするのぉ」
「ごめんなのだ叔母上」
「さて、そんな事よりじゃ・・・・」
クリュレミアは辺りを見渡した。魔物達は、圧倒的な存在である
古竜に・・・・たじろいだ。
・・・・古竜であるクリュレミア達にビビってるな。魔香液の影響で、狂乱状態だったが・・・・少し効果が切れてきたか?
「助けに来てくれたのは嬉しいが・・・・どうすんだこれから?」
「どうするも何も・・・・殲滅なのじゃ!」
「だーー!」
「おいおい、殲滅はダメだろ。なあ、テュラミアーダ」
「いや、別に構わんの。ここに居る魔物達は、せいぜいこの森の十分の一程度だの。たまには調整が必要だからの、丁度いいの」
「・・・・はあ。じゃあやるぞ!」
「「「おぉーー!!」」」
オッサン+古竜三人による、蹂躙が始まる。
「いくのだーーー!!」
「って、リュリュティア!」
リュリュティアが一人突っ込む。止める間もなく凄い速さだった。
「ふんがーー! ふんが! ふんが!」
リュリュティアは、魔物の群れに突進して、蹴散らし始める。ものの数秒で、魔物の群れの死体が山となっていた。
何て事だ・・・・かわいいニャンコが、死を呼ぶ猫に。凝って爪なんか付けなきゃよかったな。
手足に岩をも切り裂く、ヘルキャットの鉤爪をつけてみたのだが、殺戮ニャンコとかしたリュリュティアに、失敗だったか? と思い始めていた。
「リュリュが一番なのだーー!!」
死体の山の上で、誇らしげに片手を空に突き上げた。
「・・・・・・・・」
「次は我の番じゃ」
ドレスアーマー姿のクリュレミアは、両手を腰に置き、魔物の前に立ちはだかる。
「あっ、ちょっと待てクリュレミア!」
「ほへ?」『ボホォッ・・・・ドカーーーーン!!!』
・・・・遅かった。クリュレミアのブレスによって・・・・大爆発が起きた。ん、あっリュリュティア!
「リュリュティア!」
爆風で飛んで来たリュリュティアをキャッチする。
「はははっ! 吹っ飛んだのだー!」
怪我はして無いな。まったく! クリュレミアめ!
楽しそうに腕の中で笑うリュリュティアに、胸を撫でおろす。
「クリュレミア! 手加減しろ!」
「ちゃんと手加減した。リュリュティアがいるのだから当たり前じゃろ?」
いやいや。その手加減したブレスで、お前の娘が吹っ飛んで来たんだぞ。楽しそうに笑ってはいるが・・・・。
「安心するのだの、ルド。リュリュティアはこの程度で怪我などせんの」
「分かっちゃいるが・・・・心配なんだよ!」
「ふむ、クリュレミアの言う通り、お主は過保護だの」
過保護なのか? ・・・・いやいや、絶対古竜の常識の方がおかしい
だろ。
「さて、クリュレミアの次は妾だの。ふん!」
「ん? あわあわあわ、テュラミアーダも待て!」
「ふへ?」
『シュイーーーーーン・・・・ボガーーーーーーン!!!』
俺達を中心に、周囲一帯を炎が包み込み、草木一本残さず焼失した。
「やり過ぎ」
あれ? 俺の出番は? 周囲数百メートルが灰塵とかし。アウダマの森に、ぽっかりと空いた空間を眺めて、そう思いながら溜息を吐いた。




