アウダマの森の主
「クリュレミア。もしかして、あそこが・・・・」
「うむ、あそこにテュラミアーダがおる」
オッサンの目に、鬱蒼とした森の中、一本だけ巨大な大樹が目に映る。他の木とは、比べられ無い大きさで。高さは軽く、数百メートル・・いや、下手をすれば一千メートルに届くかもしれない。その高さを支える幹の幅も、尋常では無い。
「でっけー! 飛んで来た時、あんなの無かったよな?」
「隠蔽の魔法で隠しておるのじゃ」
「凄いな! 俺にも分からない程の魔法だなんて!」
「叔母上は凄いのだ! それよりルド! 早く行くのじゃ!」
「はいはい。分かったから暴れるな」
「こっちじゃぞー!」
「おう!」「はいなのだー!」
***
「近くに来ると更にでけー!」
「ルド降ろすのだ!」
「ん? もういいのか?」
「うむ!」
リュリュティアをゆっくり降ろす。地面に降りるとリュリュティアは・・「叔母上ーーー!!」と走って行った。
「おい、リュリュティア!」
「楽しみだったのじゃ、放っておけ」
リュリュティアは、大樹の根本まで来ると・・。
「叔母上ーー!! リュリュなのだーー!! 遊びに来たのだーー!!」
リュリュティアの大きな声が、大樹の根本で響いた。すると・・・・『ゴゴゴッ』と地響きが!
「リューリュ? リューリュ・・りゃーとー?」
間延びした大きな声が、辺りに響いた。
「おーーい! テュラミアーダよ! クリュレミアじゃ!」
「んーー?! クリュレーーミーーア?!」
ちょっと・・イラッするなこの喋り方。
「なあ? 何でこんなゆっくりな喋り方なんだ? いつもこうなのか?」
「いや。どうせ寝ておったのじゃ」
「つまり、寝ぼけてるのか?」
「そうじゃ。はあー、テュラミアーダ!! いい加減シャキッとするのじゃ!!」
「叔母上ーー! 起きるのだーー!!」
「ぐっふぁーーーーーあーあ」『ゴゴゴ』
巨大な欠伸で地響きが! さすが古竜と、思ったその時!
『ドゴォーーーーーーーン』
空から何かが降ってきた。いや、大樹から落ちてきた?
巨大な物体が落ちた衝撃により、発生した突風によって土煙りが舞った。
「な、何だ?!」
「まったく! 服が汚れるのじゃ!」
「叔母上ーー!!」
土煙りが少しずつ晴れていくと、そこには真紅の竜が居た。
デカ! クリュレミアの・・竜の姿より、二回り程デカい!思わず、おぉと唸ってしまうデカさだった。
「ふぁ〜〜あ。クリュレミア?・・・・リュリュティア?」
「叔母上ーー!! リュリュなのだーー!!」
リュリュティアは、テュラミアーダの頭に突進した。
「おい、リュリュティア」
「叔母上ーー!!」
リュリュティアは、テュラミアーダのおでこ? に抱きつき、ほっぺスリスリ、頬擦りを始める。小さいリュリュティアが抱きつくと、テュラミアーダの大きさが際立つ。テュラミアーダの頭は、リュリュティア三十人分はありそうなのだ。
「ふっふっふ。リュリュは本当に甘えん坊だの。久しぶりだの、クリュレミア、リュリュティア」
「元気そうで何よりじゃ・・テュラミアーダ」
「叔母上〜!」
「所で・・・・クリュレミアは何故、人の姿をしとるの? 人の格好までして・・・・それに、そこの尋常ならざる気配の人間は何者かの? そもそも人間なのかの?」
「えーと、どーも。ルドって言います」
「ルド? ルド・・・・おぉー、お主がルド! 噂は聞いておるの。それで何用なのかの?」
「えーと、それが・・「テュラミアーダ。ルドは話す事があるので、上でゆっくり話そう」
「そうだのぉー・・・・うむ、良いぞ、では、皆我の背に・・・・うむ、ルドは尻尾に捕まってくれの。さすがに、人を背に乗せるのはなの」
そりゃそうだろうな。古竜が人を背に乗せる事自体、有り得ない事だからな。
「分かり・・「別に良いでは無いかテュラミアーダ。減る物でもあるまいに」
「そう言う問題では無いの! 誇り高き古竜が、背に人を乗せるのはダメだの!」
「面倒な奴じゃ。我は別に、乗せてもどうも思わぬのじゃ。それに、ここまで乗せ来たのじゃ」
「はぁー。クリュレミアはルドを乗せても別に問題無いがの。妾はダメだの!」
「面倒な奴じゃ! まあいいのじゃ。早く行くのじゃ!」
「解っとるの! 捕まるの!」
「こんな感じでいいか?」
「うむ。ではいくの!」
オッサンは、テュラミアーダの尻尾の先を軽く掴む。テュラミアーダは羽を広げて、シュバっと大地を離れた。
『シュグワーーーン』
「うおっ! おぉぉぉぁぁぁぁ!」
「ついたの」
「・・・・・・・・」
これは・・・・飛んだって言わん!
テュラミアーダは、飛んだと言うより跳んだと言った感じだった。しかも、一瞬で大樹の上に・・。風圧が半端では無く、オッサンの髪が全て後ろに・・。リュリュティアやクリュレミアの髪も、ボサボサになっていた。恐らく、音速とまではいかないが、それに近い速さが出たのでは?
「あははははっ! もう一回なのだ!」
「テュラミアーダ! もうちょっと加減するのじゃ! 服がダメになるのじゃ! それに! ルドが普通の人間でなければ、死んどるのじゃ!」
あの、クリュレミアさん。俺は普通の人間ですよ。
「ん? すまぬの。でも、生きとるの。ルドは普通の人間では無いの。兎に角、着いたの」
ん? ここは・・・・デッカい木のうろ? 樹洞と言うより洞窟だな。
木の規模が違いすぎる為、最早ただの洞窟にしか見えない。この大樹の大きさからすれば、小さなものだと思うが。
巨大なテュラミアーダが、易易と入れる大きさなのだ。さすがのオッサンも目を疑ってしまう。
「すげぇーな。ここにテュラミアーダは住んでいるのか?」
「うむ。そうだの。ここに住んでおるの。さて・・・・うむ?」
「ん? どうしたのじゃテュラミアーダ?」
「叔母上?」
テュラミアーダは俺達三人を見て、首を傾げた。どうしたんだ?
「妾だけ古竜の姿だの。うむ、人の姿になるかの」
「うむ。なれなれ、人の姿も楽しいものじゃぞ」
「うむ!」
「えっ、あっ! ちょっと待って!」
止めに入るのが、一歩遅かった。テュラミアーダは魔法を発動させ、巨大な古竜の姿から、数百分の一の人の姿に変身した。
「うむ。こんなものかの」
真紅の長い髪をなびかせ、高身長で見事なプロポーションの、美しい褐色の女性が立っていた。身長もオッサンより高く、足も長くスラッとしていた。そしてオッサンは、その見事なプロポーションのテュラミアーダを、真正面から見てしまった。
「ちょ、ちょっと! おい! 隠せ!」
「どうしたのかの? 顔が赤いの?」
「テュラミアーダよ。人間は服と言う物を着るのだ。我のを貸してやろう」
「ふむ? 人とは変わっておるの」
☆☆☆
「こうかの?」
「そうでは無いのじゃ」
「むう、こうかの?」
「いや、こうじゃ」
「ぬう、面倒じゃの。裸ではダメなのかの?」
「裸では、ルドが怒るのじゃ。よいから着るのじゃ」
十分程経過。
「もうよいのじゃルド」
見ないよう、背中を向けていたオッサンにクリュレミアが声をかける。
「ん? 振り向くぞ。えっ? 似合ってはいるけど・・・・何でこの服?」
「うむ。良いのじゃ!」
「叔母上、綺麗のだー!」
「ふむ・・・・服とやらも悪くないの」
テュラミアーダは、踊り子が着るような服を身にまとっていた。大胆な服に、褐色の肌と、見事なプロポーションがマッチしてはいるが・・・・子供の教育に悪い気が・・・・。チラッと
リュリュティアを見て、オッサンは思った。
「さて、本題に入るかの」
そう言うと、テュラミアーダは木のコブの様な場所に腰掛けた。
「何用で来たのかの? クリュレミアや、リュリュティアは兎も角としての。ルドは用があって来たのだの? アウダマの森の主である、妾にの」
俺は、テュラミアーダの前に腰を下ろし。アウダマの森に来た経緯を説明した。テュラミアーダはリュリュティアを膝に乗せて、ふむふむと聞いていた。話の途中から、アウダマの森にポツポツと雨が降りだした。
今後の行く末を、現すかの様に。空には暗雲が立ち込めていた。




