オッサンと古竜の珍道中 その4
「ぐぅわーー! 何やってんだクリュレミア!」
「何か問題なのじゃ?」
「母上ー! 凄いのだー!」
山の中腹から上がる爆発による煙。それを、町の住人全てが見ていた。横には、顎が外れんばかりに口を開けたままのギルマス。ザワザワと、火球が放たれ場所に集まりだす人々。あぁーー、何でこうなる!
「ル、ルルルル、ルド殿? 一体何が起こって」
「えーーと、そのぉーー。何と言いますかぁ」
「か、彼女は何者なんです!」
「えーと、クリュレミアは・・・・その」
口籠もるオッサン。実は古竜なんです! なんて言えるか!
「うぬ? 我か? 我は古竜じゃ!」
「こ、こ、古竜?! 古竜? 古竜ってあの古竜?」
「古竜は古竜じゃろう? 何を言ってあるのだ?」
「クリュレミア! 更にややこしくするな!」
「なにがじゃ?」
あぁーー!! もうーーー!! こうなっては仕方ない!
「クリュレミア! リュリュティア!」
「うむ?」「はいなのだ!」
「逃げるぞ!」
「「えっ?」」
オッサンは、リュリュティアを肩車して、クリュレミアをお姫様抱っこしてトンズラした。
「ル、ル、ルド殿ーー!!」
「良いのか? 呼んどるぞ?」
「誰の所為だよーー!!」
「速いのだー! 行けぇーなのだー!」
オッサンは風になった。
オロ山中腹の爆心地。
「ハァー、ハァー、ハァー。まったく! クリュレミア!」
「何じゃ? ちゃんと倒したであろう?」
「母上ー! 凄いのだー!」
オロ山の中腹には、直径百メートル近いクレーターが出来ていた。中心部はまだ、熱を発していて、クリュレミアのブレスの破壊力を物語っていた。
「倒すのと、消し飛ばすのは違うだろうが!」
「大して変わらんでは無いか。倒し事は倒したであろう?」
「町にまで被害が出たらどうすんだ!」
「ちゃんと手加減したぞ! 大丈夫だったであろうが!」
「結果論だろソレ! ハァーーー、もういい。兎に角、依頼は達成だな。・・・・・・・・達成でいいのかコレ」
「ルドー! もう一度、肩車なのだー!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
「むーー! ぶーーー!」
「騒がしくなる前に、さっさと離れよう」
「ぬ、もう行くのか? では、さっさと行くのじゃ!」
「肩車なのだーー!!」
オロ山の麓の町に住む、とある女の子の日記。
今日の朝、ドカーーンと凄い音がしました。お母さんと一緒に慌てて外に出ると。オロ山の真ん中辺りから、煙が出ていました。一体どうなってるんだ? と町のみんなは大騒ぎでした。みんながオロ山を見てたら、凄い速さで町中を走る人がいました。その人は、両腕、凄く綺麗な人をお姫様抱っこして、黒ニャンコの格好をした女の子を、肩車したおじさんさんでした。あのニャンコ、凄くかわいかったです。私もあんなの着てみたいです。
「そろそろ・・・・アウダマの森だな。うっぷ」
「そうじゃのぉーって! 我の背中で吐くでないぞ!」
「うっふ。リュリュティアを、肩車して酔った」
「高いのだー!」
リュリュティアが肩車を気に入り。何故か、クリュレミアの背に乗りながら、リュリュティアを肩車すると言う奇妙な状態に・・・・。あぁー、ゆ、揺れる!
「リュリュティア、暴れる・・・・うっぷ」
「おい! 絶対吐くでないぞ! 吐いたら落とすからな!」
「分かっ・・・・うっぷ」
「イェーイ、なのだー!」
「リュリュティア! ルドから降りるのじゃ!」
「ぶーー! 嫌なのじゃ! ぷん!」
「うっぷ」
「ぎゃぁぁぁぁーー!! 急いで降りるのじゃーー!!」
・・・・・・・・。
「ふう、ギリギリ・・・・だった」
「まったく、我の背中で吐かれたら、たまったものではないわ!」
俺達は何とか、アウダマの森に到着した。降りた場所は、鬱蒼とするアウダマの森で、唯一ひらけた場所だ。
「楽しかったのだー!!」
楽しそうにはしゃぐ黒ニャンコ。言っておくが、吐きそうになったのは、リュリュティアの所為だぞ!
「高い所は別に平気なんだが・・・・高さに速さ、それに揺れが加わると・・・・うっぷ。思い出すとちょっとくるな」
「酒にはまったく酔わない癖に・・・・なんとも情けないのじゃ。それでも我に勝った男か!」
「どんな奴にも、弱点くらいあるだろ。古竜にだってな」
「むっ! 古竜に弱点などないのじゃ!」
「いやいや、あるだろ普通に。じゃなきゃ、クリュレミアは俺に負けないだろう」
「ぬう、それは・・・・相手がお主だからでわないか! 古竜をも倒す化け物は、普通に入らぬのじゃ!」
古竜に化け物扱いされるオッサン。
「ルドは化け物なのだー!」
うっ、古竜から化け物扱い・・・・何だろう・・・・何か泣きそう。
「そんな事より、さっさと行くのじゃ! テュラミアーダの元へ!」
「叔母上、元気かのぉ〜。楽しみなのだー!」
「リュリュティアは、随分嬉しそうだな」
「叔母上は優しくて好きなのだー!」
「そうか。・・・・因みに、俺とどっちが好き?」
「んーー、迷うのだ。うむーーー、どっちも! 好きーーなのだー!!」
「・・・・・・ふはははっ、そうか! 好きーーか!」
「ルドー! リュリュティアー! さっさとこぬかー!」
「母上ー! 待ってなのだー!」
「おう、直ぐ行く!」
ちょっと・・いや、かなり嬉しいオッサンであった。
何だろ、結構嬉しい。・・・・母性ならぬ父性? って奴なのかな?
アウダマの森、奥深く。
「んー、久々だなアウダマの森。あんまり変わった様子はないな」
苔むした石や岩。空を覆いつくす大木。古から変わる事の無い太古の森、薄暗く妖しさ満点。危険も満点の森だ。
「そう言えばルドは、調査で来たのであったな」
「あぁ。ここに生息する魔物を、わざわざ迷宮まで連れて来た奴がいてな」
「妙な事をする奴がおるのぉ〜。人間とは、本当に変わっとる」
「クリュレミア、変な気配を感じたりはしないか?」
「うーむ、特には無いの。この森で、特に強い気配なら分かるが・・・・ルドにリュリュティア、テュラミアーダじゃな」
「そうか。気配に敏感な、クリュレミアがそう言うなら、特に問題は無いのか?」
「叔母上に早く会いたいのだー!」
黒ニャンコドラゴン娘のリュリュティアは、叔母のテュラミアーダに会える事が、相当に嬉しいのだろう。嬉しい事が、体の動きから分かる程だ。ウキウキワクワクと言った感じだ。
「この辺りかの?」
「ん? どうしたクリュレミア?」
薄暗いアウダマの森を歩く事一時間。森の真ん中で突如、クリュレミアが足を止めた。
「ここから先が、主の領域じゃ」
「ん? 何も感じんが?」
「隠蔽の魔法を使っておる。更に、結界まで張っておるしな。これ以上は近づく事はできん」
「できんって、会いに来たんだろ? どうすんだ?」
「決まっておろう。テュラミアーダ!! クリュレミアじゃ!! リュリュティアもおるぞ!! 結界をといてくれー!!」
「何をするかと思えば、ただの大声かい!」
「叔母上ーー! リュリュなのだー!」
クリュレミアは、鼓膜が破れんばかりの大声をだした。リュリュティアも、クリュレミアを真似て、大声をだす。
「こんなので分かるのか?」
「我はいつもこれだぞ? それに、テュラミアーダなら我が森に来た事は、とっくに分かっておる。ただ今回は、人間のお主がおるからの」
「余所者かつ人間の俺がいたら警戒するか」
「うむ。・・・・ほれ、結界が解かれた」
クリュレミアは、顎でクイっと目の前を指す。目の前では、透明な魔力のベールが消えていった。俺たちが通れるほどの穴が空くと、そこで止まった。
「これは・・・・。この距離で分からなかったなんて!」
「ふっふっふっ。凄いじゃろテュラミアーダは! 戦闘力では我より劣るが。魔法や、特に結界などは我より上じゃ!」
「へぇー、凄いな」
「叔母上は凄いのだ!」
「では、行くぞ。ルドよ」
「おう」
「ルドー! 肩車なのだ!」
「本当に気に入ったんだな」
「うむ、楽しいのだー!」
オッサンは、リュリュティアを肩車して、空いた結界の中へとクリュレミアと入っていった。結界の外では気づかなかったが、中に入ると古竜特有の、強い魔力を感じとれた。
さて、テュラミアーダってのは、どんな古竜だか・・・・。
オッサンは少し不安になっていた。何故なら基本、オッサンが古竜に出会って、良い感じに終わった事など無いからだ。何せ、古竜に出会うと大概、戦闘に発展してしまうからだ。
オッサンは、何事も無い事を祈るのであった。




