オッサンと古竜の珍道中 その3
「くかー、くかー、ムニャムニャ」
「よく寝てるなリュリュティアは・・・・それに」
腹が出すぎ、どんだけ食うんだお前は・・。
ベットの上で眠るリュリュティアのお腹は、食べ過ぎてポッコリとなっていた。
「ここの酒も中々美味かったが、ルドの酒には敵わぬな」
クリュレミアは、俺がマジックバックから取り出した酒を、丸テーブルの上のグラスに注いで、クイッと飲みほした。
「さて、クリュレミア。幾つか気になる事があるんだが?」
「ん、何だ?」
「お前は古竜だよな?」
「何、分かりきった事を聞いておる」
「いや、ならリュリュティアは、卵から産まれたのかと思ってな。何と言うか、そこが気になってだな」
「・・・・うむ、実はリュリュティアはな、卵から産まれた訳では無いのじゃ」
「ん? いやしかしクリュレミアは竜だろ? 竜は卵生だろ?」
「勿論その通りじゃ。我とて卵から産まれておる。しかし、リュリュティアはな・・・・」
「血の秘術が関係と言ったな。回復させる術が、どう作用させたら子供ができる?」
「我もそんな難しい事は分からぬ。リュリュティアは突然、ポーンとじゃ!」
「ポーン?」
「うむ、いや違うか? シュパーンかの?」
「シュパーン?」
何だその効果音は? 分かりやすくする筈の効果音が、逆に難解にしているのだが?
「うむむ、何と言えばいいのか? 唯一、分かっている事は・・・・」
「事は・・・・」
「我が産んだと言う事じゃ」
「結局の所、それしか分からないって事かよ」
「うむ」
クリュレミアは大きく頷き、酒の入ったグラスに手を伸ばした。
「ぷはっ、くう〜うまい! お主の魔力や血、それに龍脈の力と、色々な要素が組み合わさって・・・・説明しにくい! 詳しく知りたければ、叔父上に聞け」
「火竜太公にねぇ。話が長いから、会いたくない」
「ブワッハッハッハ、確かにのぉ。得に雷竜帝との闘いの話などそうじゃ!」
「そうそう。一週間聴かされ続けた時は、頭がおかしくなるかと思ったぞ」
「じゃが、叔父上を酒で潰したであろう?」
「一週間かけてな。さすがにキツかった」
「よく言う。叔父上特製の竜殺しを、一週間も飲み続けた人間は、歴史上、ルドお主一人じゃろ」
「だと思うが・・・・火竜太公の酒って、味はそこそこなんだよなぁ〜」
「お主の酒と比べるでない」
「クリュレミアも気にいるくらいだからな」
「うむ、ルドよもう一杯!」
「飲み過ぎだぞ。宿の酒樽を二つ空にしたろうが」
「ルドの酒が、うまいのが悪い!」
「はいはい」
その日の夜、遅くまでクリュレミアに付き合った。リュリュティアについて、はっきりはしないものの、今はそれでいいだろう。いずれは、火竜太公の所に行って、ちゃんと説明を聞きたい。聞いてどうこうと言う訳では無いが、まあ、聞いておきたい。ただ・・・・話が長いから会いたく無いんだよなぁ。
因みに、部屋は一部屋しか取ってない。他に空いてなかったのだ。なので・・・・。
「おい、クリュレミア。服を脱ぐな!」
「このままでは寝にくいではないか」
「少しは恥じらいを持て!」
「人間の基準で申すな。そもそも、竜の姿の時は裸であろう! 人型だと何故いかんのだ?」
「色々あるんだ色々・・」
「人間とはよく分からぬ」
クリュレミアは大胆に服を脱いだ。そして、指で魔法陣を空中に描くと、現れた黒い影の中に、脱いだ服や買った服をしまっていった。
「便利だなソレ」
「そう言えば、ルドは異空間収納魔法は、使えないのだったな?」
「人類最高の魔法使いに教えてもらったけど、無理だったな。相性が悪いらしくてな」
「・・・・何故、手で顔を隠しておる?」
「見ないようにだ」
「人間とは変わっておるのぉ? それでは寝る」
「あぁ、おやすみ」
クリュレミアは、リュリュティアと同じベットで眠りについた。俺も寝るか。
「・・・・・・・・狭い」
オッサンの、デカイ体には合わない小さなベットで、オッサンは眠りについた。
☆☆☆
「朝? もう朝か、起きないと」
差し込む日差しで、目を覚ますオッサン。しかし! 腹に違和感が!
「ん?」バサッとめくるとそこには!
「リュリュティア? 何で俺の腹の上で寝てる? ん、クリュレミアはそっちで寝てるのに・・・・」
クリュレミアは隣りのベットでまだ寝ていた。移動して来た? 何で?
「すぴー、ふがふがふがふが。すぴー、ふがふがふがふが」
変わった寝息を立てて、ぐっすりと寝ていた。大の字ではなく、丸まって寝ているので。ニャンコ服と相まって、大きなニャンコが寝ているみたいだ。
「何故、腹の上に?」まあいいか。
「起きろリュリュティア」
「くかーー、ふがふがふが」
「・・・・何つう寝息だよ」
「リュリュティア起きろ!」
「くかーー、ふがふがふが」『ぎゅるるるる』
寝ながら腹空かしてやがる。
「・・・・リュリュティア・・・・メシだぞ」
「ほげっ! メシ!」
おっ、反応した。
「ふはは。そうだ、朝メシだぞ」
「メシ! メシなのだ! 母上も起きるのだ!」
黒ニャンコは、シュタッと飛び起きた。そんなに腹減ってるのか?
「んん? 朝か・・・・リュリュティアは朝から元気じゃの」
「母上! メシなのだ!」
「リュリュティア、腹の上で跳ねるな。よいしょっと」
腹の上で飛び跳ねるリュリュティアを、持ち上げてベットの横にどかす。
「ルドよ! 早くメシを食わせるのだ!」
「はいはい、そう慌てるな」
黒ニャンコの頭を撫でてやる。するとリュリュティアは・・。
「ふぬがー、撫でるな! むむう」
「悪い悪い。クリュレミア、メシだぞ起きろ」
「分かっておる。ふわぁーー」
上半身を起こして、大きなアクビをした瞬間。クリュレミアが・・・・ポロリした。
「クリュレミア、隠せ!」
「何をだ?」
「・・・・ハァー、いいから早く服を着てくれ」
「ん? 分かった」
・・・・・・・・。
「どうだルド! この服は!」
「母上、綺麗なのだ!」
「凄い似合ってるじゃないか。けど、その服・・・・」
クリュレミアが着替えた服は・・・ドレスと鎧が一体となったドレスアーマーだった。
あの店・・・・こんな物まで置いてるのかよ!
「ふっふー、どうだルド?」
「あぁ、凄い似合ってるけど・・・・何で買ったのその服」
「ふむ、正直私には不要の物だが・・・・何かひかれてな。ふむ、良いと思うだろ?」
「・・そう」 分かったからポーズをとるな。それと、足をニョキっと出すな。
ドレスアーマーには、チャイナドレスのようなスリットが入っている。それも深いのが・・・・。
「じゃあ、朝メシにしよう」
「うむ」「メシー!」
「この街の冒険者ギルドに、顔も出さないといけないし。さっさと済ませて行くぞ」
「うぬ! メシなのだ!」
「うむ。朝の一杯を頂かねば・・・・」
まだ、飲む気か。ハァー、程々にしてくれよ。
☆☆☆
「うぬぬ、酒がもう無いとはどういう事なのじゃ! むふー!」
「クリュレミアが飲み干したからだろ?」
「酒は嫌いだからよいのだー」
クリュレミアがご機嫌斜めの中、冒険者ギルドに向かっていた。宿の食堂で酒を頼んだが、酒がもう無かった。まあ理由は昨日、クリュレミアが飲み干したからだけど。
「落ちつけ。そもそも飲み干したのはクリュレミアだろ」
「むふーー!! むふーー!!」
今にも火を吹きそうな勢いで、鼻息を荒くしていた。
本当に火を出すなよ?
「うぬ♪ うぬ♪」
「リュリュティアは機嫌がいいな」
「うぬ! 楽しいのだ!」
「そうか、楽しいか。良かった」
「うぬ!」
「むふーー!!」
クリュレミアがマズイ。早く顔を出して、さっさと街を出よう。
「おっ、ここだな。どうーもー、ギルマス居ますー?」
「どちら様で?」
冒険者ギルドのカウンターに座る受付嬢に、話しかけてみるが、俺の顔は知らないようだ。やっぱり俺って認知度低いな。
「ルド・ロー・アスだ。ギルマスを頼む」
「ルド・・・・ルド・ロー・アス様!! 少々お待ち下さい!!」
「ルド、まだか?」
「もうちょっと待ってくれ」
「つまらないのだー」
「お待たせしました」
「おぉ、ルド・ロー・アス・・・・本物だ!」
「おギン婆さんに頼まれたんだ。はいこれ」
胸の内ポケットから、婆さんから預かった紙を渡した。
「これは依頼書。しかも、グランシェル領のギルマス、ギンメイ殿の。では、依頼を受けて・・・・」
「あぁ、婆さんに頼まれからな。それで、オロ山に出た魔物って?」
「オロ山の中腹にある洞窟に、デモングリズリーが住み着いたらしくてな。困っていたんだ」
「デモングリズリーが? 珍しいな? こんな南に」
「あぁ、普通はもっと北に生息してる筈なんだが・・・・兎に角、この町には最高でもBランクしかいない。Sランククラスのデモングリズリーを倒すのは無理だ」
「そんなのが住み着いた割には、被害が少ないなぁ」
「あぁ、近ずきすぎなければ、襲っては来ないんだ」
「ふーん? 変わった奴だな」
「あぁ」
「ルド、まだなのか! さっさとせよ!」
痺れを切らしたクリュレミアが、急かしてきた。だいぶイライラが溜まってる。そろそろ行った方がいいな。
「もう、話す事は終わったから。ってリュリュティア何してる?」
「モグモグ、ゴックン。甘くておいしいのだ!」
「かわいいー!」「リュリュティアちゃんコレも食べる?」
「狡い私も!」「本当にかわいい!!」
リュリュティアは、受付嬢と女性冒険者に餌付けされていた。
「何やってるんだリュリュティア。そろそろ行くぞ。クリュレミアも」
「うぬ、分かったのだー」
「えー、リュリュティアちゃん行っちゃうのー」
「行かないでぇー」「うちの子になってー」「行っちゃう前にギューさせてぇー」
「何じゃー! ふしゃー!」
「「「「かわいいーー!!」」」」
「ほら、行くぞー!」
「「うむ」」
ギルドから出ると、ギルマスが見送りに着いて来た。
「ルド殿、頼んだ」
「サクッと済ませて来ますから」
「ルドよ? お主が倒す魔物は、山の中腹に居ると言ったな?」
「あぁ、それがどうかしたか?」
「ちょっと待て・・・・うむ、確かに山の中腹に強い魔物がおるのぉ」
「分かるのか?」
「山に突出した魔物がおるからのぉー、感知しやすい。しかし、あれを倒すならここからでも出来るのじゃ」
「ここから? さすがに無理・・」
「すぅーー・・・・」『ブファーー!! ドドーーン!!!』
クリュレミアは息を思いっきり吸い、ドデカイ火球を口から吐いた。その火球は山の中腹に命中し、巨大な爆発を起こした。爆発の衝撃波が村を襲い、音が遅れて町に届いた。
「うむ! これでよし!」
「母上ー!凄いのだー!」
「いい訳あるか!」
「あぁーやっちまったー」と頭を抱えるオッサンであった。




