オッサンと古竜の珍道中 その2
「えーと、ここならいいかな? すいませーん」
「はーい、いらっしゃいませ!」
ちょっと高級そうなブティックに、二人を連れて入店してみるオッサン。
「ルドよ、この店か?」
「服が一杯なのじゃ!」
「いらっしゃい・・ませ」
クリュレミアと、リュリュティアを見た店員達が、固まってしまう。
「何じゃ? どうかしたか?」
「ぬ? どうしたのだ?」
「「か」」
「「「か?」」」
「「かわいい!! 綺麗ー!!」」
キャーと叫び、抱き合って騒ぐ店員達。入店して何だが、ここ大丈夫か?
「何のじゃ、此奴らは?」
「五月蝿いのだ」
「騒がしいわね。一体、何の騒ぎ?」
「「あっ、店長!!」」
お店の店長さん?
眼鏡をかけた色っぽい女性が、奥の部屋から騒ぎを聞きつけ、出て来たようだ。
「あら・・・・あらあら! これは・・・・なんて美しいのでしょう! さらに、こちらはなんてかわいいの!!」
鼻息荒く、クリュレミアとリュリュティアを、見定める様にジロジロと見ていた。つま先から頭のてっぺんまで、そりゃぁーもう見ていた。
大丈夫かこの人?
「はっ、失礼しましたお客様。それで、どういった御用でしょうか?」
「あぁ、二人に合いそうな服を・・「お任せ下さい!」
店長は食い気味にオッサンの言葉を遮り、満面の笑顔で了承した。
・・・・任せて大丈夫だろうか? オッサンは何となく、不安にかられる。何せ相手は、この世界で頂点に君臨する古竜だ。下手すると、町が壊滅する事になる。オッサンの方が強いのだが、攻撃を完全に防げる訳では無いのだから。
「では、お二方共こちらへ!」
「うん? そっちに服があるのか?」
「何じゃ? 此奴ら、何か嫌なら気配がするのだ」
リュリュティアは、店長店員の妙な気配を察してか、警戒し始める。恐らく、殿下やマリーダ達の様な気配を感じるのだろう。それに引きかえ、クリュレミアは自ら奥の部屋に入って行った。
・・・・何事も起きませんように。
少し不安になったオッサンは、そう願った。
「それでは、旦那様は少々お待ち下さいませ」
「いや、俺は旦那じゃ・・・・」
言い終わる前に、店長は奥へと消えて言った。
「・・・・・・・・まあいいか」
約五分後。
「お待たせ致しました。では、お二方共どうぞ」
「どうじゃルドよ」
「着てみたのだぁー!」
クリュレミアは颯爽と、スーパーモデルの様に現れた。赤いドレスを脱ぎさり、着ていたのはパンツスタイル姿で、キャリアウーマンの様だった。
「うん、かっこいいんじゃないか? 出来る女って感じするぞ」
「うむ、・・そ、そうか? ふむ!」
「そんで、リュリュティアは・・・・」
クリュレミアの横で、モジモジしているリュリュティア。
羊の着ぐるみを脱ぎ、新たに着ていたのは・・・・普通の女の子の格好だった。
「かわいいじゃんかリュリュティア」
「そうか? ・・・・リュリュはかわいいか?」
「あぁ、良く似合ってる」
「えへへへ。じゃが・・・・やっぱりルドが作った服の方が、着心地が良いのじゃ」
これはこれで、かわいいと思うぞ。だが、やはりリュリュティアには、俺特製着ぐるみの方が似合うと思う。
「ぐっ、やはりそうですね。あのモコモコした服を着用したお嬢様には敵いません! くっ!」
店長はその場で打ちひしがれる。リュリュティアに似合う服を用意出来なくて、悔しくてしょうがないのだろう。
まあ、仕方ない気もするが・・・・。
「それにしても・・・・服とは面白い。もっと着てみたいのう」
「リュリュも!」
「分かりました! 町一番の店として、お二方にお似合いの服を! 貴女達! やるわよ!」
「「はい、店長!」」
そっから、五時間に及ぶファッションショーが、幕をあげた。途中から、飽きて眠ってしまったリュリュティアは、眠りながら着せ替えをさせられ、更に、嬉々としてクリュレミアは、服を取っ替え引っ替えに着替えて、俺に見せつけた。
これ・・・・いつまでやるの? 結果として、クリュレミアの気に入った服を全て買う事に・・・・。
「合計金貨三十枚になりまーす!」
「はいはい」
因みに、リュリュティアにはオッサンが作った新作!
黒ニャンコを着せてある。店長はそれを見て、とても悔しがっていた。
「ぐっ、私もまだまだです!」
「「店長!!」」
「ふむ、我は中々気に入ったぞ」
横に立つクリュレミアは、ハリウッド女優の様になっていた。しかもサングラスまで着用して・・・・。
「まあ、似合ってるしいいか。そんじゃあどうも」
「はい、旦那様、奥方様、更にお嬢様もまたのお越しを」
「「お越しを」」
深々と頭を下げる店長店員。いや、だから違うっつうの!
「あの、俺達・・・・「うむ、旦那とまた来るのだ!」
「おい、クリュレミア」
「まあ、いいではないかルド」
俺が良くない! そう思いつつも、リュリュティアを抱っこして、店を後にする。
「おい、クリュレミア。どう言うつもりだ?」
「どうとは?」
「さっきの、旦那発言に決まってるだろうが・・・・」
「よいでは無いか。遊びの様なものだ」
「まったく、リュリュティアが起きてたら、きっと怒ってたぞ」
「うぬ? いや、リュリュティアは喜ぶと思うぞ?」
「そうか?」
「うむ。それに、リュリュティアはお主の娘といっても過言では無い。いや、お主の娘だ」
「はいぃぃぃ?!」
見た目ハリウッド女優の古竜から、とんでもない爆弾が投下される。
「いやいや、妙な言い方するなよ。そこは父親代わり? みたいな事だろ?」
「いや、お主の娘だ!」
「いやちょっと待て! そもそもリュリュティアは、俺より年上だろうが!」
「うぬ? リュリュティアはそんなに生きておらんぞ?」
「はぁい? つまり?」
「見た目通りの年齢と言う事じゃ」
「・・・・だとして、何故俺の娘って事になる?」
「うむ、何と言うか・・・・話すと長い」
「いやいや、それを説明・・・・」
オッサンは気づいた。周りの人にジロジロと見られている事に。
「何かしら? 痴話喧嘩?」
「それがね奥さん・・」
「何か男の方がね・・」
「俺の子供じゃないとか・・」
「最低ね!」
「「「「えぇ、最低!」」」」
「・・・・クリュレミア・・・・場所を移そう」
「ふむ? 分かった」
もう、夕暮れ時だった事もあり、宿を取る事にした。
「でっ、どう言う事なんだ?」
宿の部屋の一室で、椅子に腰掛け、クリュレミアに問いただした。
「うむ、十年近く前かの? 我と初めて闘った事を覚えておろう?」
「あぁ、火竜太公に依頼されて、おかしくなったお前を、何とかする為に闘った時の事だろ?」
「おかしくなったはいい過ぎであろう? せめて、荒ぶったとか言って欲しいの。まあよいわ。兎に角、あの時の事がきっかけだ」
クリュレミアは目を閉じ、初めて出会った時の事を思い出していた。
クリュレミアとの初めての出会いか・・・・。あの時は、本当に大変だった。クリュレミアの叔父、火竜太公とはクリュレミアより先に知り合っていた。突如、仕事中にやって来て、姪クリュレミアを助けてほしいと頼まれたのだ。
その理由は、クリュレミアがベゴン山脈の主である事に関係する。世界中を、巡るように流れる魔力の川、龍脈。
その龍脈から、魔力が吹き出す場所、龍欠泉。その龍欠泉を守るのが、その土地の主なのだ。しかし、龍欠泉の異変によって、クリュレミアがおかしく・・いや、荒ぶり暴れだしたのだ。
それを止めるのを、手伝ってほしいと火竜太公に頼まれた訳なのだが・・・・それがどう関係を?
「しかし、あれがどう関係するんだよ」
「あの時、お主と闘って瀕死の状態になったであろう?」
「・・・・・・・・そうだな」
「ん? まさか気にしておるのか? 気にするな。龍脈に自我を飲まれた、我が悪いのだからな。それでだな・・・・瀕死になった我を救う為、血の秘術を使ったであろう?」
「あぁ」
「それが、関係しとる」
血の秘術とは、自身の血を媒介に行う、回復魔法だ。生命力を分け与える危険な術でもあるが、あの時は考えている時間は無かった。即座に、ナイフで手の平を軽く切って、この秘術を行ったのだ。そのおかげで、クリュレミアは今、目の前にいる訳なのだが・・・・その秘術の所為って?
「あれがどう関係してるんだ?」
「どう関係しているかは、正直説明できぬ。しかしあの後、
リュリュティアをが産まれたのは確かじゃ」
「・・・・・・・・説明されても分からんのだが?」
「さっきも言ったであろう。我もよく分からないと。だがのぉー、それしか原因が無いでのぉー」
「・・・・いやいや。実は、その前にお付き合いしている古竜がいたとか」
「・・・・失礼な事を言うな! 我は未だに処女じゃ!」
「えぇー!」
「えーとはなんだ! えーとは!」
だって、クリュレミアは数百年、或いは千年の時を生きてる古竜だろ! それが処女って・・・・どうなんだろう。
「えぇい、そんな目で見るな! 失礼じゃぞ!」
「別に何も言って無いだろ」
「いや、目が語っておる! 何百年も独り身ってと、そう言う顔してるぞ!!」
「そんな事無いぞ」
「ならこっちを見よ! 我の目をしっかり見よ!」
オッサンは、クリュレミアと目を合わせるが、直ぐに目を離してしまう。
「あっ、こら! 目を、そらすな!」
「いや、だって! 話からすると、リュリュティアは俺の娘って事になるんだろ? 気まず過ぎて、目何か合わせられるか!」
「あくまで、その可能性があるというだけじゃ。間違いないとは言えん。じゃが、恐らくそうであろうな」
「・・・・・・あぁ、今後どうリュリュティアと接すれば!」
「今まで通りで良いではないか。それに、リュリュティアは
案外分かってるかもな」
「と言うと?」
「お主にあんなに懐いとるではないか。古竜の仲間でも、あれほど懐いている者はおらんぞ?」
「それは・・・・ちょっと嬉しいかも」
何だかんだで、娘の様に可愛がっていたし。・・まあ、関係はそんなに変わらんかも。
『ギュルグルグルルルルル』
オッサンの部屋を、震度2クラスの揺れが襲った。
腹が減った音で、部屋を揺らすって・・・・やはりリュリュティアも古竜だな。
「ひゃ、はりゃが減ったのだ」
「起きたかリュリュティア?」
「りゅど? うーん、ふが? ごはん・・ごはんなのだー!」
「ふふふっ、リュリュティアは食いしん坊じゃの。だが・・・・我も腹が減った」
「そうだな。メシにしよう」
「勿論、酒はあるのだろうな」
「ぶーー、酒は臭いのだ!」
「はいはい。ほら行くぞリュリュティア」
「うぬ、なのだー!」
「まるで父と娘じゃの」
「ルドが父上? ・・・・・・・・」
おい、クリュレミア! って、何か黙り込んだな。何だろう・・・・やっぱり嫌なのか?
「ルドが父上・・・・悪くないのだ」
「へっ? そ、そうか?」
「うむ!」
「はははははっ、今日は何か飲みたい気分じゃ! 飲んで飲みまくるぞ!」
「むー、酒は嫌いじゃ!」
「程々にしとけよ」
前略、地球の両親へ。孫が出来たぞ・・・・竜だけど。こっちの両親に、紹介した方がいいのかな? ・・・・辞めとこう。
俺自身、覚悟も出来て無いし。ん? ちょっと待て、リュリュティアが娘となると・・・・クリュレミアは?
・・・・・・・・・・今は考え無いでおこう。
オッサンと古竜の珍道中はまだまだ続く。




