オッサンと古竜の道珍道中 その1
「と言う事で、アウダマの森がある。ヴァラキア領まで送ってくれ」
「ふむ、ルドよ。送って欲しいなら分かっておろう?」
現在目の前には、クリュレミアが岩に座って、ほれ、寄越せと手招きしていた。アウダマの森に送ってもらおうと、また此処に来ていた。
「この前やった奴は?」
「もう既に飲み終えたわ!」
「・・・・・・・・飲み過ぎだぞ。所で、何でリュリュティアは・・・・機嫌が悪いんだ?」
「別に・・・・悪くなどないわ」
うんん? どうしたんだ一体?
「ルドよ、気にするでない。我が、酒ばかり呑んでおったから、怒っておるのだ」
「あぁ、成る程」
「ふーんだ」
オッサンのあげた、羊の着ぐる姿で、プイッと顔を背けて抗議するリュリュティア。ふむ、かわいいな。
「そうだリュリュティア。お土産に、お菓子買ってあるけど食うか?」
「食わぬ! ・・・・だが、何を買ってきたのだ?」
「蜂蜜を一杯使った蜜菓子だ」
「・・・・・・・・食べてやらん事もない」
「素直じゃないなぁ、まったく。ほら」
リュリュティアに、蜜菓子を渡す。最初は直ぐに受け取らなかったが、目の前でほれほれと動かすと我慢出来なくなったのか、跳びついて俺の手ごと食いそうなった。
「ふむ、甘いのだ! 悪くないのだ!」
「気に入ったなら良かった」
「えぇい、ルドよ。我を忘れるでないのじゃ!」
「はいはい、所で何でその格好のまま何だ?」
クリュレミアは人の姿で、しかも殿下のドレス姿のままだった。
「ふむ、何となくじゃ。それに、人型なら酒の節約になるからのぉ」
「つまり、気に入ったって事ね。古竜は変わった奴がほんと多いな」
「何じゃと! 我は変わってなどおらんのじゃ!」
「別に、クリュレミアが凄く変とは言わんが・・・・ザズーラルガとかは?」
「あの変態と一緒にするな!」
「じゃあ、ムハバーマとかは?」
「あれは! 変わり者の中の変わり者なのじゃ!」
「それじゃあ、アドラ・ガマ・・」
「その名を口にするな! と言うか! 先程からあがる名前は、古竜の中でも異色中の異色ではないか! それらと一緒くたにするでないのじゃ!」
「似た様なもんだろ?」
「似てもにつかんのじゃ!」
うむ、よー分からん。
「食ったのだ〜。うまかったのだ〜」
ちみっこは、いつも通りぶれないなぁ。
「まったく、腹立たしい。ルドよ、そなたは我の気分を害しに来たのか!」
「いや、送ってもらいたいだけだが?」
「古竜を馬みたく扱うな! 何なら、もう一度手合わせしてやろかや!」
「いいぞ。その代わり、俺が勝ったら送ってくれな」
「・・・・・・・・我は今、気分が乗らぬで今度にしよう」
あれ? えらく簡単に引き下がったな。
「ん? ルドよ。そなた先程アウダマの森と言うたか?」
「ん、あぁ言ったぞ、それがどうかしたか?」
クリュレミアは、ふむと右手で顎を触り、考え込んだ。
・・・・・・・・・・・・。
何だ? やけに考え込んでるな?
「アウダマの森? テュラミアーダ叔母上が、住んでいる所
なのだ」
沈黙を破ったのは、リュリュティアだった。
「テュラミアーダ?」
「ふむ、我の従姉妹じゃ。・・・・実は、古竜の会談に来ておらなんだ」
「そりゃあ・・・・心配・・だな?」
「いや、会談の参加は強制では無いのじゃ。顔を出さぬ者など幾らでもおるのじゃ。中には、千年は顔を見ておらぬ者いるからの」
千年、顔見て無いとか、古竜のスケール・・・・デカ過ぎ。
「しかし、気になるのぉー。そう言えば、そなた迷宮に行ったのだったな。それとアウダマの森が、どう関係するのじゃ?」
「えーと、こんな事があったんだけど・・・・」
オッサンは、迷宮での出来事を話した。
「成る程のぉー。その様な事があったか。・・・・ふむ、仕方ない。送ってやるのじゃ」
「おっ、いいのか?」
「テュラミアーダが気になるのでな。今回は特別じゃぞ」
「そうか。なら頼む!」
「リュリュも行くのじゃ!」
・・・・・・・・。
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁーーー!!」
「情け無いぞルドよ」
「怖いものは・・怖いんだぁぁぁぁぁぁ!!」
「母上、行っけぇぇぇぇ!」
☆☆☆
「ハァ、ハァ、ハァ。死ぬかと思った」
「本当に情け無いのぉー。所でルドよ。何故、こんな所に降りるのだ? アウダマの森は、まだ先だぞ」
「あぁ、用事があるんだ。オロ山で暴れてる、魔物の討伐を頼まれていてな」
「何だ面倒な。我がブレスで倒すぞ?」
「山が無くならない様に出来るならな」
「手加減ぐらい出来る!」
「・・・・・・・本当に?」
「出来るのじゃ! ・・・・多分」
「母上は強いのだぁー!」
「ハァー。兎に角、オロ山の麓にある町に行ってくるから、待っていてくれ」
「我も行く」
「母上も行くならリュリュも行くのだー!」
「・・・・・・・・大丈夫かぁ?」
「安心せい、我を誰だと思っている!」
「Aランク冒険者も逃げ出す古竜だな」
「楽しみなのだー!」
☆☆☆
「おい、止まれ!」
「何だ貴様! 我に命令するとはいい度胸・・「すみません。
入町税です」
「うむ、所で何でドレス?」
「気にしないで下さい」
町の入り口でいきなりコレか。
「クリュレミア、頼むから大人しくしててくれよ」
「何じゃ、我が悪いと言うのか?!」
「おぉー、初めて人間の町に来たのだー! 珍しい物ばかりなのじゃぁー!」
クリュレミアは・・・・下手に目を離すと、町が消えかねん。注意しないと。リュリュティアは・・・・楽しそうだな。
初めて見る物ばかりで、リュリュティアは大興奮。格好は羊だけど・・・・まあ、喜んでるみたいで良かった。
「おい、すげぇ美人だ」
「おう、本当だ。おい、ねえちゃん。俺らとお茶しない?」
何で、わざわざ死にに来るんだこの手の馬鹿は!
「ルドよ、何じゃこのアホそうな小虫は?」
「頭が変なのだ。病気なのじゃ!」
チンピラの独特な髪型に、病気と言い出すリュリュティア。
リュリュティア、それはただのファッションだよ。まあ、頭おかしそうな髪型だけど。
「ハァー。おいお前等、人の連れに手ぇだすな」
「あぁん? やろうって・・・・」
「おうおう、しばいたろ・・・・」
オッサンを見て固まるチンピラ。さすがに、ニメートル近い身長で、圧をかければ固まってしまう。普段は、人当たりの良さそうな雰囲気も、一度オーラを出せば、強大な魔物を、目の前にするようなものなのだ。
「「す」」
「「「す?」」」
「「すいませんでしたーー!!」」
「何なのだあやつ等?」
「さあな。それよりも」
オッサンは、クリュレミアをジィーーーっと見つめる。
「なっ、何じゃ!」
「その格好は目立つ。どっかで服を買おう」
「これはダメなのか?」
「ダメと言うか。その格好は・・・・何と言うか。パーティーとかで着る物だから・・・・」
「ふむ、よう分からんが・・・・他の服も、着てみたくはあるのぉ」
「なら、まずは服を買いに行くか」
「うむ」
「リュリュもーー!!」
・・・・服買うとは言ったけど、合う奴があるかな? まあ、行ってみれば分かるか。所でリュリュティア。お前には俺特製のを、用意してあんだぞ。ふっふっふっふ、楽しみにしておけ。
オッサンの、古竜を連れた珍道中が始まった。




