オッサンの休日。トラブルは突然に
屋台で朝メシを食べたオッサンは、家のソファーでゴロゴロしていた。
「久しぶりの休みだと、何していいか分からんな」
ここの所、急な仕事が立て続けてあった所為で、ろくに休めてなかった。「冒険者・・・・そろそろ引退しようかな?」ふと、そんな事を思ってしまう。
三十八才・・・・大抵の冒険者は、引退してる歳だ。現に俺の同期、同年代は、皆引退していった。田舎なら冒険者として稼いだ金で充分暮らせる。引退した連中の七割程が、故郷の田舎や気に入った村に移住していった。
田舎でのんびり隠遁生活か・・・・うん、悪くないかも。
田舎の親父にお袋、元気かな? 家を継いだ兄貴とその家族はどうしてるだろう?
故郷を思い出して、オッサンはちょっと泣きそうになる。
十年は帰ってないなぁ。久しぶりに帰ってみようかな?
引退を決意しそうになったその時、『ドンドン、ドンドン』
とドアが叩かれた。その時オッサンは、一瞬ビクッとなった。何故なら、嫌な予感がしたからだ。
「ルド殿! ルド・ロー・アス殿はご在宅か!」
「ハァーーー、久しぶりの休みだってのに」
「ルド殿ー!」『ドンドン』
「はいはい、居ますよー!だから、そんなにドア叩かないでねぇー」
バッとソファから起きて、玄関に向かった。
「はいはい、どなた・・で・・す」
玄関を開けると、そこには、身なりの整った老紳士と、完全武装した王国近衛隊が数名程いた。
「おぉ、ルド殿! ご在宅でしたか。わたくし、王家の使者として参りました。エバン・フォー・クノッコスと申します」
え? 王家の使者? エバンさん? ちょっ、ちょいと待って! 何? 何なの?
「それでは、クシャーナ殿下の言伝をお伝え致します」
オッサンは、王女殿下の名を聞いてヤバイと確信する。クシャーナ王女殿下・・・・彼女には二つ名がある。
戦姫[せんひめ]と言う二つ名が。由来は、呼んで字の如く、自ら進んで戦場に身を投じる事からついた。
その姫殿下からの言伝・・・・オッサンは嫌な予感がした。
「えー、ごほん。ルド・ロー・アス殿。今夜行われる晩餐会にご招待致します。是非にご参加を・・・・クシャーナ・ネイノーク・イスルカ・・・・以上でございます。ご参加なされるなら、今すぐご返事を頂きたく」
「今すぐ?」
「はい、できましら今すぐに・・・・」
晩餐会って、ディナーに招待するって事だよな? えっ、マジか! どうしよう。お偉いさんとの会食は、それなりににこなしてきた。でもそれは、数日後という準備期間があった。いきなり使者が来て、今日の夜って! しかも返事を今すぐになんて、こんな突然に来られても・・・・。
「あのー、どう致しますか?」
エバンさんが心配そうに聞いてきた。王国近衛隊の兵士も、まさか断らないよなという顔で此方を見てくる。
あぁーーーどうする? 直ぐに支度出来ないと断るか? けど、使者に直接お断りの言葉を伝えるって、絶対無礼だろ。不敬罪にならないだろうか? まぁ近衛兵の百や二百どうとでもなるが・・・・んーーーどうしよう。
「あのー、決まりましたか?」
「もうちょっと待って下さい。今、考えてるので」
「はい、ですがお早め「貴様、まさか断る気か!」
使者の方と話していると、近衛隊の隊長さんらしき人が、怒気を強めた口調で割って入ってきた。
「平民の分際で、王家の、それもクシャーナ王女殿下のお誘いを断るなど言語道断!!」
「近衛隊長、ルド殿はクシャーナ王女殿下の客人ですぞ!」
「断るなら客人ではない! ただの無礼者だ!」
「近衛隊長!」
何だこの人? 貴族特権主義者か? それとも王族信奉者? おぉー、凄い睨んでる。全然怖くないけどね、あんたと俺じゃ実力が違いすぎるって。ハムスターに凄まれても、何とも思わないよ。
けど、どうするか? 行くか、断るか。YESかNOか。
・・・・どうしよう。
よし、断ろう!準備ができないと言って断ろうっと。
「申し訳ありません。流石に、今夜は・・・・む「貴様!!」
言いきる前に、近衛隊長がいきなり抜剣して、剣先を突きつけた。
「貴様! 平民の分際で!!」
「近衛隊長?! おやめ下さい!!」
何なんだこの人。面倒な奴だな。偶にこんな奴がいるから貴族とお偉いさんは嫌なん(なの)だよまったく。
「あのさぁ〜、何の準備もできずに謁見する方が失礼だろ?
いきなり今夜の晩餐会にって、服も無いし王族と相手のマナーも知らん! だから断る!」
「貴様あぁぁぁぁぁぁ!!」
怒った近衛隊長が、俺に向けていた剣を振り上げ、斬りかかって来た。
「「「「「「「「「いけません隊長」」」」」」」」
部下の近衛兵が止めようとするが、彼らが止めるよりも剣が俺に振り降ろされる方が速かった。俺には止まって見えるけどね!
『バシッ』
「・・・・・・・・へっ?」
「「「「「「「「・・・・・・えっ?」」」」」」」」
俺は近衛隊長の渾身の一撃を・・・・・・指二本で白刃取りした。近衛隊長と近衛兵、それにエバンさんも呆気にとられ、目を見開き口をあんぐりと開いていた。
「ばっ、ばっばばば馬鹿な! ありえん。私の剣を止めるなど! なっ、ぐぬぬぬぬぬ、くそ、貴・様・離・せ」
「馬鹿な隊長の剣を」「凄い、指だけで」「化け物か!」
「流石、イスルカ王国が誇る、冒険者ルド殿だ!! ルド殿構いません。やっちゃって下さい!!」
えっ? あのエバンさん? いいの? ちょい、アンタ本当にそれでいいのか? ボクシングのシャドーぽいのしてるけど、ワンツーからの・・右フック!・・・・じゃっないだろ!!
「ハァ、まあいい。斬りかかって来たのコイツだし」
別に殴りはしない。デコピンするだけだ。ただ・・・・俺のデコピン、瓦なら三十枚は軽くいけるけどね。
「ぬううううううう、ん? へ?」『バッチィィィィィン』
デコピンとは思え無い音が轟いた。近衛隊長はデコピンとともに「ぐべへぇっ」と潰れた蛙の様な声を出し、後ろに吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ隊長は、部下数人がかりで受け止められて、地面に落ちずにすんだが、気を失っている。
「いやぁー、スッキリしましたなぁ!」
おい、エバンさん・・・・アンタ王家の使者でしょ! いいのそれで?・・・・。
「あぁ、ご心配無く。あの者が先に無礼を働いたのです。
ルド殿に責任はございません」
「でも、あの人貴族でしょ? それに近衛隊長だし」
どんなアホでも、一応権力を持つ側の人間。どんな理不尽があるか・・・・。
「心配ご無用! 侯爵家の五男坊ではありますが、彼自身はあくまで貴族の産まれが名乗れる貴爵位のみで、爵位は私より下です。それに、最近は横暴な態度が目にあまりましたから、自業自得ですよ。それに、近衛隊長と言っても小隊長止まりですし」
「侯爵の息子ってだけで問題では?」
「ご心配無く、ベイルン侯爵家は武闘派の軍閥です。あの馬鹿の性根を叩き直す為に、厳しい事で有名な王国近衛隊に入れたのです。ここ最近の、態度の悪さや問題行動もご存知の筈ですから、どうせ何かしらお叱りを受ける事になったでしょう」
「ハァ、そうですか」
まぁ、俺に迷惑がかからなければそれで良いけど。
「それで、この様な事になってお聞きするのもなんですが、今夜の晩餐会はどう致しましょうか?」
「えーと、お断りさせて下さい。いきなり王家の晩餐会はちょっと・・・・。着ていく服もありません」
「分かりました。そうお伝え致します」
「すいません」
「それでは、失礼致します。・・・・帰るぞ」
「この馬鹿どうします?」
「適当に馬車に放り込め、それと、縄で縛っておけ」
「「「「「はっ!」」」」」
部下の人達も、かなり鬱憤が溜まっていたのだろう。グルグル巻きにされ、荒っぽく馬車に放り込まれた。
馬車の扉が閉まる前、俺は見た。馬車に乗車したエバンさんが、放り込まれた隊長を足で踏みつけて座っていた事に・
あの人、大分ストレス溜めてるなぁ。
「ハァ、何か疲れた。ソファーでゴロゴロするか」
エバンさん達が帰り、俺はゴロゴロを再開した。数時間後にまた、ドアをノックされるとも知らずに・・・・。
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