グランシェル伯爵領 サローニカの街
マジで助かったな。クリュレミアが直ぐ近くまで送ってくれて。
「サローニカに・・・・着いたぁーーー!!」
「何叫んでんだルド?」とマリーダが突っ込んだ。
「・・・・・・・・いや、何となく」
「ここがサローニカ」
「殿下とリサーナは初めてで?」
「妾は初めてだな。迷宮には一度は来たかったのだが、エバンの奴に止められてな。リサーナは?」
「私は、一度だけ来た事があります。幼い頃だったので記憶にほとんどありませんが」
「そうだったのかリサーナ?」
「はい姫様」
「懐かしのサローニカですぅ。鱗鳥のフワフワ玉子菓子が食べたいですぅ」
「サローニカ名物、黒鉄トカゲの屋台串焼きが食べたい」
「フィオ、リジー! そんな暇無いよ。まずは冒険者ギルドに行くぞ」
「はーいですぅ」
「分かってるって姐さん」
そうだぞフィオ、リジー。そもそも、まだ街に入ってすらい無いのに。
「ほれ、さっさと行くぞ。門番がこっち見てるし」
サローニカの街は、魔物や盗賊から身を守る為、防壁に囲まれている。まあ、こちらの世界では大概そうなのだが。門も大きい。馬車三台が通れるくらいはある。壁も門も、王都に比べたら小さいけどね。
「そこの者止まれ! 怪しい奴等め」
まさかの検門に引っかかる。あのぉー、俺達怪しく無いですよ。
「無礼者め、此方はクシャーナ殿下であるぞ!」
リサーナが、王女殿下居ますよアピールするものの。
「殿下?・・・・ぷっ、くっ、ふわっはっはっは。殿下が馬車にも乗られず、歩いて来たと?」
「貴様! 門番風情が!」
「落ち着けリサーナ」
いや、まあ、一理あるけど。今にも剣を抜きそうになるリサーナを抑える。
「なっ、貴様何のつもりだ! おそれおおくも殿下をかたる不届き者である、であえ、であえ!」
おう、まさか某時代劇のクライマックスに言われるセリフを、言われる日が来ようとは・・・・。
「お主ら辞めぬか! 妾はクシャーナであるぞ!」
「殿下が来られるなど聞いておらん! どうせ迷宮の異変を狙った詐欺集団であろう! 引っ立てろ!」
「「「「「はっ!!」」」」
まずい事になったな。
「私達は詐欺師じゃねぇよ。私は、紅き三ツ星のリーダーのマリーダだ」
「ぬけぬけとSランク冒険者を名乗るとは!」
「あのぉー、門兵長。間違い無くご本人ですよ」
「貴様! 平民門兵の分際で貴族出の俺に意見する気か!」
「あのいえ、事実を言っただけです」
「口答えする気か! しかも、読み書きすら怪しい平民出が、俺に意見などするな!」
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
半数程は平民出身の門兵なのだろう。門兵長の言葉に怒りの表情を一瞬見せた。
「そうだ! 平民どもめ!」「ふん、所詮は平民よ」
などと、貴族出の門兵達が平民門兵を罵った。
こいつら・・・・典型的な貴族特権主義者か。だが、アホだな。よりにもよって殿下の前でこんな事してんだから。
「おい、アンタらいい加減にしとけ」
「何だ貴様!」
「俺達はメルキオス迷宮にようがあるんだ。さっさと入れてほしいんだが?」
「貴様! 貴族である私に・・・・。構わんやってしまえ! おっと、女は捕らえておけよ。中々いい女だしな」
ハァー、やっぱりアホだ。それに下品だ。やっちまってもいいか。そんな事を考えていたら、門の扉が開いた。
「何をやっている貴様ら!」
「んぐ・・・・衛兵隊長。 ちっ!」
「ゲリオン! 貴様また!」
「ふん、これは門守衛隊の管轄だ! 衛兵隊は関係無い!」
派閥争いか・・・・そんなので俺達を巻きこま・・ん? んん? まさか!
「ウゴールさん?!」
「あぁっ? 誰だ気安く俺の名前を呼ぶや・・・・ルド? お前ルドか!」
「久しぶりです。ウゴールさん!」
「おう! 元気してたか!」
衛兵隊長は俺の見知った人だった。
「元気そうだな! 一体何年ぶりだ?」
「クアッザート砦以来だから、二十年近いな」
「もう、そんなになるかぁ」
ウゴールさんとは、クアッザート砦で戦っていた時に知り合った。実力もあるし男気もあるいい人だ。クアッザート砦では、とても世話になった。
「ルド、知り合いか?」
ウゴールさんと語っていると、マリーダが訪ねて来た。
「あぁ、クアッザート砦で、一緒に戦った仲なんだ」
「ルドさんの戦友ですぅ」
「クアッザートの戦友か、そりゃ強そうだな」
「強いぞリジー。Aランク冒険者クラスの実力はあるぞ」
「それは昔の話しだ。今のこれじゃな」
そう言って、右足のズボンの裾をあげて見せた。ズボンの下は、義足だった。
「ウゴールさんその足・・・・」重心が少しズレてると思った。だが、一体・・・・。
「なあーに、ちょっとヘマしてな。今じゃグランシェル伯爵に拾って貰って、衛兵隊長だ」
ふはっはっはっ、と笑うウゴールさん。明るく振る舞っているウゴールさんに、少し複雑な気分になった。
「・・・・・・おい・・・・おい!・・おい!!!」
「ん? 何だ? 今忙しいから後にしてくれ」
「貴様!! ふざけおって!!」
門兵長は剣を抜いて、こちらに切先を向けた。
「おい、ゲリオン。抜いた以上只ではすまんぞ」
「ふん! 平民の貴様とは違うのだ!」
「ハァー。・・・・ふんぬ!」『ボカッ!』
ウゴールさんは思いっきりゲリオンをブン殴った。
「ぐへっ」とゲリオンは潰れた蛙のような声を出し、ぶっ飛んだ。
「「「「門兵長!」」」」と、貴族出身の取り巻き連中が、門兵長に群がった。平民出身の者達は、ざまぁみろと言った感じで見ていた。
「ふん、たった一発でおねんねとは、たいした門兵長だよ」
「おい、いいのかウゴールさん? 問題にならないか?」
「ふん、心配するな。伯爵からは、コイツがまたやらかしたら構わずブン殴っていいと言われてる」
おいおい。グランシェル伯爵って結構武闘派なのか?
「おい、ルド。さっきから気になっていたが、その女性達は? そっちのは冒険者だろ? でっ、そっちは?」
「あーえーと、リサーナ頼む」
こう言う事は適任な人に任せよう。・・・・けっして面倒な訳じゃない。
「はい、ルド殿。皆の者! 拝聴せよ。ここにおられるのは、イスルカ王国第二王女、クシャーナ殿下である」
「うむ、クシャーナである!」
・・・・何かババーンて効果音がしそうな説明からの登場だったな。
「おい、ルド。大丈夫かあの子達」
ウゴールさんは疑っていた。まあ、そうなるよな。
「ウゴールさん、コレマジな奴だから」
「え?」
「うんうん」
「えっ? ええええぇぇぇぇぇーーーー!!・・・・・・・・・殿下ぁーーー!!」
ウゴールさんは、シュパッと素早い動きで土下座をしていた。うむ、見事だ。見事な土下座だ。そうオッサンに、思わせる程の土下座であった。
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