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ベゴン山脈を目指して


 んん、んー、ん? 「おわ?! 何で殿下が? クリュレミアまで?・・・・リュリュティア?」


 オッサンは驚いた。何故なら、右腕にクリュレミア。左腕に殿下。そして、俺の腹の上で大の字なってリュリュティアが寝ていた。


 殿下とクリュレミアの四つの大玉西瓜が、左右から圧をかけてくる。逃げたいのだが、ちみっ子がお腹の上で寝てるので動けない。


 そもそも、何で俺のテントにいるの? 殿下はリサーナと一緒のテントでしょ! クリュレミアは自分の家に帰ればいいでしょ! 直ぐそこじゃんか!


 それにリュリュティア・・・・お前は何で俺の腹の上で・・・。


 大の字になって仰向けで「くかーくかー」とかわいい寝息をたてるリュリュティア。・・・・かわいいな。


 いや、そんな事より。何故こんな状況に? 確か昨日の夜

殿下は・・・・リサーナと一緒に二人のテントに連れて行って、

その後・・・・リュリュティアが風引かないように俺のテントで寝かせて・・・・あっ、俺もそのまま寝ちゃったんだ。


 ん、リュリュティアガここで寝てたからクリュレミアも?

そう言う事なのか? クリュレミアはそうだとして、殿下は何で?


「ルド殿、朝早くから申し訳ありません。姫様を知り・・・・ルド殿、そう言った事は結婚されてからの方が」


「違う! 誤解するな! 知らない内に居たんだ!」


「しかも、クリュレミア様まで・・まさか、リュリュティア

ちゃんも!」


「だから違う! 違うと言ってるだろ! それより殿下をどうにかしろ!」


 リサーナめ、会話の途中から悪い顔しながら話してたぞ。

そもそもお前は殿下の護衛だろ! 殿下から目を離しちゃダメでしょ! あっ!


「リサーナ、君は殿下の護衛だよな?」


「はい、勿論です」


「つまり、こんな事態になったのは君の所為でもあると」


「!!・・・・確かにそうとも言えますが、王国一の冒険者のルド殿が気づかないなんて事・・・・チラッ」


 ぐっ、確かに気づかなかった。しかし、イコール俺が悪いは違うだろ!


「それに、陛下が知れば逆にでかしたとお言いになるかと。いえ、何でもありません」


 おい、どう言う意味だそれ。


「騒がしいなぁ、誰ぞ我の眠りを妨げる者は!」


 クリュレミアが起きた。


「リサーナ、朝の訓練は後にしてくれ・・・・妾はもう少し寝たい」


 まだ、寝ぼけてはいるが殿下も目を覚ました。目は瞑ったままだが・・・・。


「この抱き枕・・・・少し硬い・・硬いぞリサーナ?」


「姫様、ですがそれは王国一の抱き枕でございます」


 誰が王国一の抱き枕だ! 


「王国い〜ちぃ〜? そのわりに・・・・硬いぞぉ? 匂いも・・父上みたいな匂いが・・・・」


 えっ、もしかして臭い? 最近、加齢臭が気になるオッサン。


「臭いですか姫様?」


 おい、リサーナ!そんなストレートに聞くな! 臭いって言われたらどうする! 臭いなんて言われたら俺、立ち直れないぞ!


「臭い訳では・・・・嫌いではないな」


 俺の腕を撫で回す殿下。おう、止めて!


「何をしとるのだ、お主らは?」


「ふへっ、何をって・・・・クリュレミア様?・・・・・・・・る」


「「「る?」」」


「る、る、ルド殿ぉーーー!!!」


「ふがっ、なんじゃぁーー!!」


 殿下は寝ぼけた目を開き、しがみついていたのが俺の腕と知って大声をあげた。その声に驚いて、リュリュティアも起きた。


「なんですぅ! 襲撃ですぅ!」


「なんだよぉ〜、朝からうるさいなぁ〜」


「一体全体、何の騒ぎだい?」


 紅き三ツ星も騒ぎを聞きつけ起きて来た。そして、テント内の状況を見て、沈黙した。


「「「・・・・・・・・・・・・」」」


 オッサンは・・・・冷や汗が止まらなかった。ただ何も言わず、ジトっとした目で見つめる三人。


 あの、せめて何か言って!


「ルドさん」


 重い空気の中、最初に口を開いたのはフィオだった。


「ルドさん・・・・狡いですぅ! リュリュちゃんと一緒に寝るなんて!」


 オッサンは思った。えっ、そっち?


「あのモフモフ着ぐるみを抱きしめながら寝るとか、うらやましいっす!」


 リジー、お前もか!


「ルド・・・・私にもギュっとさせてくれ」


 マリーダもかい! いや、そもそも! 抱きしめながら寝てないから! 横で寝てたのに、いつのまにか腹の上で寝てただけだから!


「えーと、そにょ、ルドどにょ」


 あっ、殿下の事忘れてた!


「殿下、落ち着いて下さい。多分、酔っ払ってテントを間違えてしまったのかと」


「にゃ、にゃるほにょ。そうにゃのきゃ」


 カミまくる殿下も結構かわいいな。顔を真っ赤にして、モジモジする殿下に、思わずそう思ってしまう。だが、このままでは困るので・・・・。


「殿下、コレでも抱きしめて落ち着いて下さい」


 取り敢えず、ちみっ子を生贄として差し出した。


「おい! 何をするのだ!」


「ほぉはぁぁぁぁー。よ、よいのか?」


「待て、よく無い! く、来るなのだ!」


「ふわぁぁぁぁーーー、モフモフモフモフモフモフ」


「ふぎゃいぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」


 殿下はちみっ子を、これでもかとモフった。モフりにモフった。


「ルドーー!! 覚えておれぇーーー!!」


「「「「いいな、私達もーー!!」」」」


 フィオ、リジー、マリーダ、リサーナがテントの中に突撃して来たので直ぐに避難した。


「騒がしい奴らじゃの。ふふふっ」


「母上! 助けてくれなのだ!」


「はははっ、リュリュティア! 遊んでもらって良かったの」


「よくなぁーーーい!! のじゃぁぁぁぁーー!!」



「ふわぁぁぁーあ。・・・・朝飯の準備でもするか」


 

 ☆☆☆


「酷い目にあったのだ。ルド、覚えておれよ!」


「モフられたぐらいで・・そんな・・・・そこまで怒る事ないだろ?」


「怖かったのだ! あの者らの目、思い出すだけで恐ろしいのだ!」


 まぁ、分からんでもないけど。


 チラ・・・・殿下達の方を見ると「うーー、頭がぁ」

「あう〜飲みすぎたですぅ」

「高級な酒は二日酔いにならないって嘘だよなぁ〜」


 フィオ、リジー、殿下は二日酔いでダウンしていた。


 さっきまでの元気はどうした?


「あぁーー、結構キツイなぁ」


「マリーダまで二日酔いかよ」


 三人共、結構酒に強かったよな? 


「しょうがないだろ。クリュレミアさんと飲み比べしたんだ! あーあぁー、頭が・・・・」


「こりゃダメだな。リサーナは平気そうだな?」


「あっ、はい、お酒はそんなに強くないのですけが、二日酔いにはならないですね」


「ルド殿もかなりお強いですね。それなりにお飲みになったのにケロっとされてます」


「まぁ、酒は強い方だな」


「強い方? 強い所か其方は底なしであろう。我に飲み比べで勝った者はお主だけだぞ」


「そうだっけか?」


「確かに、ルドが酔っ払ってる所何て見た事無い」


「本当ですぅ、いつも介抱される方だから気づかなかったですぅ!」


「ルドさん、どんだけ化け物なんだよ」


 酒と化け物関係無くね? 俺、ちょっと強いだけだから!


「はっはっは、化け物か言い得て妙じゃの。ふふははは」


 化け物に化け物と言われる。何か俺、凄く悲しい道を歩んでる気がする。



 ☆☆☆



 オッサンは手際よく、朝食の準備を進める。朝はパン派のオッサンは、食パン一斤を、マジックバックから取り出して切り分けで行く。シャキシャキのキャベツを千切りにして、軽く焼いた食パンの上に乗せる。フライパンでベーコンを炒め、卵を目玉焼きに、それから塩胡椒を少々。それをキャベツを乗せた食パンの上に乗せて、後はマヨネーズをお好みで!


 オッサン特製の朝メシ! 

 ベーコンと目玉焼きのシャキシャキキャベツ乗せ!


「メシだぞぉ〜、みんな座れぇ〜」


「腹減ったのだ! 早く食わせろ!」


 ちみっ子は朝から元気だ。ちみっ子はね。


「「「「うぅ〜」」」」


 リサーナとドラゴン母娘の三人以外は、頭を抱えて唸っていた。二日酔いによる、頭痛と吐き気のせいで。


 ちみっ子をモフって元気出たんじゃないのか? と言うかそれまで元気だったろ。これから山越えだってのに。


「食べないともたんぞ? 何たって、これから山脈越えをするんだぞ?」


「うぅ〜、頭が割れそうですぅ」


「うまそう、でも無理ぃ〜」


「ルド殿、うっ。妾はえんりょ、うっぷ」


 殿下、フィオ、リジーは台に突っ伏して、ダウンしていた。


「あぁー、キツイ。ルド! 昨日の酒ってもうないのか?」


「まさか、朝から飲む気か」


「迎え酒だよ」


「うむ、それはいい。ルドよ我にも酒を!」


 おいおい、クリュレミアもかよ。ハァー、しょうがねぇーな。「一杯だけだぞ」そう言って、俺は酒樽を取りだした。


「・・・・ルド、一体何樽買ったんだ。まあいいか」


「マリーダよ我も付き合うぞ」


「うぅーー、母上はまた酒か! 酒臭いのじゃ!!」


 ちみっ子は鼻を摘み抗議した。


「一杯だけだぞマリーダ」


「分かってるよ」


 そう言ってマリーダは、デカイお椀型の器に酒を注いだ。


「・・・・・・・・おい、マリーダ」


「一杯は一杯だろ!」


「我もその器に注いでくれ」


 クリュレミアもそれに乗っかる始末。ハァー、この酒好き共め。


「「「うぅーー、酒臭い」」」


 二日酔いメンバーは、酒の匂いで更に気持ち悪くなったようだ。


「ん? おいルド! この酒、昨日の酒より美味いのだが」


「うむ、確かに。香りも段違いだ。素晴らしい!!」


「えっ? あっ、しまった! 間違って熟成樽を!!」


「「「「「「熟成樽?」」」」」



 聞き慣れない言葉に、みんな首を傾げた。



「ルドさん、熟成樽ってなんですぅ?」


「聞いた事ないっす?」


「あぁー、何と言うか・・・・」


 フィオとリジーが、台に突っ伏し体を起こして聞いて来た。


「そもそも、何でルドはこの高級酒をこんなに持ってんだ?

量はかなり少ない筈なのに、樽買いとか有り得ないだろ」


「「「「そう言えば!!」」」」


 そもそもの流通量が少ない高級酒を、樽ごと買うなど普通は出来ないのだ。


「うむ、美味い!! もう一杯!!」


「この卵の乗った奴、おいしいのだ! もっと食わせろ!」


 二人はちょっと静かにしててくれる?


「別におかしくは無いさ。酒を作ってるオルレリア男爵には貸しがあってな」


「貸しですか?」とリサーナが、不思議そうな顔で聞いてくる。


「確かオルレリア男爵領は、王国南方にあるましたね。そこまで秀でた才覚はありませんが、民衆からも信頼されてる方だった筈」

 

「リサーナは詳しいな」


「姫様の側近たる者、貴族の顔や人物については、それなりに知っておかねばなりませんから」


「で? この美味い酒とどう関係が?」


「うん? あぁ、前に依頼を受けて・・・・って、マリーダ! それ二杯目だろ?」


「この酒がうますぎるのが悪い!」


 どう言う理屈だよ! 飲むなっつうの! これから山越えすんだぞ!


「で? どう関係が」


「まったく・・・・十年くらい前に、オルレリア男爵領で暴れる魔物を、退治する依頼を受けた事があってな。魔物を退治したが、男爵が報酬を払えなくてな」


「それはダメダメですぅ。そんな人はハゲる呪いですぅ」


「タダ働きとか、マジ最悪じゃん。嚙みたくなる」


「私なら、有無を言わさずぶん殴るな!」


 同じ冒険者の三人は、辛辣な言葉を述べた。って、ハゲの呪いってなんだ? そんな恐ろし呪術があるのか!


 最近、髪毛の後退が心配になって来たオッサンには、とてつもなく気になるものだった。


「男爵がそのような事を! 王国貴族が何たる事を!」

 

「姫様、落ちついて下さい。きっと訳があったのでは?」


「えぇ、リサーナの言う通り。男爵は払いたくても払え無かったのですよ。そもそもオルレリア男爵領は、農業を細々とやってるような領地で。そこに魔物が現れて、田畑を荒らして甚大な被害が・。そんな領民から税を取るなんて出来ず、領民の為に男爵自身も蓄えを使ってしまい、支払えなくなってしまったんです」


「なるほど、領主の鏡だな。しかし、それと酒にどう言った関係が?」


「はい、金が払えないなら物納でとなりまして。それで、男爵領で作っていた酒を貰った訳です。ただ、そこまで味が良くなかったので、俺が勝手に改良を」


「「「「「改良?」」」」」


「貰った酒を魔法で蒸留して、熟成の魔法を使い改良したんだ」


「「「「「蒸留、熟成の魔法?」」」」」


 この異世界で蒸留の技術はまだ無い。熟成と言う概念もまだ無い。ワインは出来て直ぐに販売されるので、俺には若すぎて何かもの足り無かった。そこで作ったのが、蒸留と熟成の魔法だ。蒸留して度数を上げ、熟成の魔法で寝かせる。


 一回の熟成魔法の効果で、四、五年は寝かせたくらいの効果がある。試しに男爵領のワインに使ったら、中々のブランデーが完成したのだ。それで思ったのだ。コレを売れば復興も早く出来るのではと。そこで、蒸留と熟成の魔法を男爵領の魔法使いに伝授したのだ。


「男爵はそれを使い、領地を復興させたと?」


「はい殿下。なので、今でも報酬の代わりにと、年に一樽頂くんです。それに、購入に際しても、それなりに融通してもらえるんです」


「ルド殿は領地の経営も出来るのか。さすがだ」


「そんなたいした事はして無いですよ。ただ、美味い酒が飲みたかっただけです」


「それで、ルドよ。これはどのくらい熟成したのじゃ?」


「この樽は、魔法で四、五年熟成した後、マジックバックでさらに十年は熟成してるかな? だから十四、五年物って訳だ」


「マジックバックで熟成出来るのか?」


「時間停止の効果がないやつならな」


 マジックバックには、二種類ある。空間内の時間が停止して、入れた時のまま保存出来るマジックバックと、時間が経過してしまう物の二種類だ。時間停止の効果が無いマジックバックなんて、いらない物を入れる物置きバックだと揶揄されるが、酒を熟成させるには最適だ。バック内の空間温度が

五、六度と低く、酒を熟成させるには最適だ。


「ふむ、酒とは深いのだな」


「クリュレミア。浸るのはいいが、お前どんだけ飲んでんだよ」


 先程から水のようにガブ飲みしていた。ほんと飲み過ぎ!


「ほらみんな! 山越えするんだ急いでメシを食って準備しなきゃ!」


「「「うぅー、そうだった」」」


 二日酔い苦しむ三人は、憂鬱そうにまた台に突っ伏した。


「山脈越えか・・・・ルドよ、この熟成した酒はまだあるのかの?」


「あるが・・・・何でそんな事聞く?」


「あるのか。ふむ、むふふ、だったら残りの酒樽をくれるのであれば、我が背に乗せて山脈を越えて運んでやろう」


「いいのか?」


「構わぬ。この酒の為ならばな」


「ソイツは助かる」


「「「「「ドラゴンに乗って山脈越え!!」」」」」 


 クリュレミアに乗って行けば、直ぐに越えられるな。なら三日は早く着けるぞ!!


「じゃあ頼む!!」俺は樽を三つ程取り出して、クリュレミアの前に置いた。


「おぉーー!! 引き受けた!!」



 ☆☆☆



「ぐわー、怖いですぅー!!」


「うわっ! 高いぃぃぃぃ!!」


「凄いねこりゃぁ。夢みたいだよ、ドラゴンに乗って飛ぶとか」


「うぅ〜、気持ち悪い〜」


「姫様、大丈夫ですか」


 リサーナ、背中さすったら逆効果だぞ


「母上ぇーー!! 早いのだぁぁぁ!!」


「ふふふっ、もっといくぞぉぉぉーー」」




「「「「「きあぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」



 マリーダ以外が絶叫する。


「何でルドまで叫んでる?」


 オッサンは、絶叫系が苦手だった。



「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁーーー!!」



誤字報告ありがとうございます。助かります。

少しでも面白いと思ったら☆を下さい。

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