オッサンと山脈の主 その3
「ベゴン山脈の主たる我の力を! 見せてやるのだ!」
「いや、主はお前の母親だろ」
「・・・・いずれ我がなるのだ! 同じ事なのだ!」
「でも、今の主はリュリュティアの母親のクリュレミアだろ」
「・・・・うるさーーい! だったらルド! お前から血祭りにしてくれるのだ!」
「おい、暴れるなよ。肉にゴミがついて食べられなくなるだろう」
「肉などもうよいのだ!」
「あっ、あれ忘れてた」
そう言ってオッサンは、薪を燃やしていた場所を掘り返した。すると、地面の下から大きな葉っぱに包まれた、バランスボール並み大きさの塊が出てきた。
「コイツのことを忘れてたぜ」
オッサンは台の上に置き、包んでいた葉っぱを剥がして中身を出した。中には大きな鳥肉が丸ごと入っていた。
「ほがっ、まさかそれは!」
「おう、リュリュティアが大好きなホッポロ鳥だ」
「・・・・・・・・勝負は食事のなのだー」
そう言うと、またちみっ子に戻った。さすがに大好物を前にして、食べないという選択肢は無いのだろう。
「おーい、これ着ろよ」
人間の姿に戻ったちみっ子は・・・・裸。脱ぎ捨てた着ぐるみパジャマを急いで渡した。
「所で・・・・いつまで固まってるんだ。みんな?」
「「「「「ええぇぇぇぇぇ」」」」」
「何が何でですぅ?!」
「何でルドさんは平然としてんだよ」
「リジー、ルドさんだからですぅ」
「なるほど!」
いやいや、何でそれで納得する。
「あんなにかわいいのに、ドラゴンとは・・」
「姫様、それはそれでいいのでは?」
どういいんだ?
「あの幼女がドラゴン。それはそれで・・・・むふふ」
おい、リサーナ。リュリュティアに何かしたら、王都が火の海になるぞ。
「おい! ルドよ! 早く我にそれを食わすのだ!」
「その前に、それを着ろ!」
「しょうがなのぉ、まぁよい。それも気に入っておるのだ」
ちみっ子は椅子から降りて、着ぐるみパジャマをマゴモゴと着はじめた。
「なあ、ルド?」
「何だ、マリーダ?」
「あの子ドラゴンなんだよな?」
「あぁ、ドラゴンだぞ」
「人の姿になれるのは百歩譲るとして、何であんなの着てるんだ?」
「あぁ、俺が作ったんだ」
「「「「「えぇぇぇぇーー」」」」」
「器用にも程があるぞルド!」
「でも、何であんな風なのですぅ? 趣味ですぅ?」
「なるほど、ルドさんにそんな趣味が! はっ、獣人の私も変な目で見ていたんじゃ」
「「「「なっ! ジ〜〜〜」」」」
リジーの一言に皆が疑いの目を・・・・別に変な目で・・・・見て無いぞ! 俺はただ、犬が好きなだけだぞ!
「リジー、人を変態みたいに言うな」
「・・・・そうだよな。ルドさんに限って無いよな」
「そうですぅ。ルドさんはそんな人じゃ無いですぅ」
うんうん。
「ふむ、ルド殿は獣人がお好きなのですか? なら姫様に耳と尻尾をつけて・・・・」
「リ、リヒャーナ! な、何を言ってりゅのりゃ!」
殿下とリサーナは、コソコソと何か盛り上がっていた。
「ルドよ! 着替えたぞ! 早く食わせるのだ!」
「へいへい。みんな、メシの続きにしよう」
「「「「「はーい」」」」」
オッサンはホッポロ鳥を切り分けて、皆の皿によそっていった。
「いい匂いなのじゃ! ルド! 早く座れ! 我が座れぬではないか」
「一人で座ればいいだろ」
「やじゃなのだ!」
何故そこまで俺の膝の上に座りたがるんだ?
「なら私の膝に来て来てですぅ」
「あっ、狡い! リジーお姉ちゃんの膝においで!」
「リジー、フィオ! あまり無茶を言うんじゃないよ! ここは、私の膝に座るのがいいんじゃないか?」
「姐さん狡い!」
「ずるずるですぅ!」
「ゴホン! ここは、妾で!」
「姫様、例え姫様でもそれはダメです」
女性陣による、かわいいもの争奪戦。オッサンは心底、関わりたく無いと思った。
「そなたらはやじゃ! 何か怖い! ルド、早く座るのだ」
「へいへい」
「「「「「狡い」」」」」
オッサン特製蒸し鳥に齧り付くちみっ子は・・「極うま」
と叫んで、また齧り付いた。
「本当に好きだな。そんなにおいしいか?」
「極うまー、なのだ!」
「確かにおいしいですぅ」
「うめぇーー」
「ルド、アンタ本当に料理が上手いな」
「おいしいですね姫様」
「あぁ、コレは中々の物だ」
「そりゃ良かった」と軽く答えるが、かなり嬉しいオッサンだった。だって、褒められて嬉しくない人何て、いないでしょ。
「うん?」
「ムシャムシャ、んが?」
俺とちみっ子の食べる手が止まった。
「どうしたルド?」
それに気付いたマリーダが聞いてくる。
「あぁ・・・・どうやら帰って来たな」
「うぬ、母上が戻ってきたのだ」
「母上? ってリュリュちゃんのお母さんですぅ?!」
「つまり、ベゴン山脈の主。どうしよう姐さん!」
「落ち着きなフィオ、リジー! 心配無いよ。ルドが居るんだ」
「そうか、ルドさんがいる」
「でも、ベゴン山脈の主ですぅ」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
あのぉ、そんな深刻そうな顔せんでも・・・・大丈夫だから。
『バッサ、バッサ、バッサ』
「何だ? この音は・・・・。フィオ! リジー! 戦闘準備!」
「「はい「ですぅ」」
「マリーダ、大丈夫だぞ」
「何を悠長に」
「大丈夫だ。殿下達も大丈夫ですから」
「本当に大丈夫なのか?」
「姫様、ここはルド殿を信じましょう」
「うむ」
『バサーン、バサーン、バサーン』
「母上ーーー! お帰りなのだーーー!!」
リュリュティアが空に手を振り、大声で出迎えた。
「おぉーーい!! クリュレミアーーー!! そのままで降りないでくれーー!! 人型になってくれーー!!」
俺も空に向かって叫んだ。
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
みんなは、空を見つめて沈黙した。リュリュティアを遥かに上回る深紅の竜が、翼を羽ばたかせ、ホバリングしていたからだ。
みんな・・・・口、開いてるよ。
ヒュンと竜の巨体が消えた。そして、美しい赤い髪の女性が、地上に舞い降りた。裸で・・。
「「ルド殿!」」
「「ルドさん!」」
「ルド!」
「見ちゃダメ!」「見ちゃダメですぅ!」「見てはいけません!」「見てはならぬ!」「見んな!」
女性陣に目を塞がれた。
「あぁ、見ないよ。誰かクリュレミアに服を」
「リサーナ! 妾の予備の物を!」
「はい! ですがよいのですか?」
「あの者のスタイルは、妾に近い。合うであろう」
「確かに・・・・胸の駄肉あたりが特に・・」
「何か言ったかリサーナ?」
「いえ、何でもありません」
確かに、クリュレミアの胸はデカイよな。殿下といい勝負かも。
「ルド! 変な事考えてないよな?」
「考えておりません。所でマリーダ。お前の指が、こめかみにくい込んでるんだが?」
「気の所為だ!」
「あっ、はい。気の所為です」
いや、明らかに力が入ってるぞ! ちょっと痛い!
「何をやっているのだ?」
裸で舞い降りたクリュレミアは、よく分からないと首を傾けた。
「お帰りなさい母上!!」
「おぉ、リュリュティア! 帰ったぞ!」
「クリュレミア、服を着てくれないか? じゃないとずっとこのままなんだが?」
「ぬ? あぁ、それでそうなっておるのか! 人間とは変わっておるのぉ」
「あの、クリュレミア様とお呼びしても」
「うむ、よいぞ人間の娘よ」
「では、クリュレミア様。これを」
リサーナは、殿下の替えの服を手渡した。
「ふむ。でっ、どう着るのだ?」
「お手伝いいたします」
☆☆☆
「出来ました。皆さん、もう手を離してもいいですよ」
リサーナからOKが出たので、皆手を離した。そして、目の前に殿下の替えの服に着替えたクリュレミアが・・・・・・・・アレってドレスだよな?
「うむ、中々の着心地。服とやらも悪くないの」
「リサーナ、何でドレスを着せてるんだ?」
真っ赤な髪と同じ、真っ赤なドレスに身を包んだクリュレミアが現れた。
「何となく?」
何故疑問系?
「どうじゃルド。似合うかな?」
「似合ってるぞ」似合ってるけど、胸を寄せるな!
「ん、そう言えば、何処行ってたんだ?」
「あぁ、叔父上に呼ばれての」
「叔父上? あぁ、火竜太公か」
「「「「「か、か、火竜太公ーーー!!!」」」」」
更なる衝撃が女性陣を襲った。
まあ、仕方ないよなぁ。火竜太公だもん。世界中のレッドドラゴンを統率する古竜だもんねぇ。
「でっ、どんな用事だったんだ?」
「なに、たいした事では無い。五十年に一度、古竜の集会があるじゃが、今度は何処で開くかの話し合いじゃ。な? たいした事ではなかろう?」
「人間の俺には、結構な事に思えるのだが?」
「「「「「古竜の集会・・」」」」」
そんなのあるのかぁ。古竜が一同に集まるのか・・・・・
ちょっと見たいな。
「所で、ルドは何でここにおるのだ?」
「あぁ、用事があってな。ベゴン山脈を超えて、メルキオス迷宮のあるグランシェル伯爵領に行くとこなんだ」
「ほう、メルキオス迷宮にのぉ。別に、山脈を通るのは構わんが、通行料は貰うぞ」
「分かってる」
俺は王都で買った酒の樽を、マジックバックから取り出した。
「うむ、さすがはルド! 分かってあるの!」
「母上はまた酒か。酒は臭いから嫌いじゃ!」
「リュリュティアよ。お前も、後百年もすれば分かるようになる」
「姐さん! これ、超超、高級酒のヴァッカスだぜ!」
「おいおい、樽買いって! 一体幾らしたんだいルド!」
「ん、そうだなぁ。金貨五十枚くらいかな?」
「「「「「金貨五十枚!」」」」」
「父上でもそうそうに飲めぬ物を樽買いとは」
「姫様、凄くいい香りです」
後、六樽あるんだけど・・・・言わない方がいいな。・・・・まあいいか。さて、飲むとしますか!
オッサンは、結構いける口である。
その日の夜は、オッサンの振る舞った酒で夜遅くまで飲み明かした。
「りゅどどにょ〜」
「殿下、飲み過ぎですよ」
「でんかではにゃぁ〜い! クシャーにゃとよぶゅのら〜」
殿下はベロベロに酔っ払い、俺の腕に抱きつき胸をこれでもかと押し付けてくる。
「うっ、うっ、姫しゃまばっかり狡いでしゅ」
んー、殿下は飲み過ぎるとこうなるのか。リサーナは泣き上戸だし。紅き三ツ星のメンバーはケロッしている。マリーダに至っては、クリュレミアと飲み比べをしてる程だ。
俺は誓った。殿下とリサーナに、今後この酒は飲まさないと。結構、度数キツ目なんだよねこの酒。
因みにリュリュティアは、俺の膝の上で寝ていた。
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