オッサンと山脈の主 その2
「うわぁー! 美味しそう!」
「いい匂いですぅ! ほえ、ヨダレがぁ〜ですぅ」
「とても食欲をそそる匂いですね。姫様!」
「あぁ、宮廷料理にも、ここまでの香ばしい匂いは無いな。ルド殿の手料理・・・・楽しみだ」
「ルドは相変わらず器用だな」
オッサンが作っていた料理。それは、シュラスコだった。
☆シュラスコ
鉄製の串に刺し、岩塩をまぶして炭火でじっくりと焼きあげるブラジル料理。バーベキューの際によく作られる。
「もうちょっと待ってくれ」
オッサンは転生前、バーベキュー担当だった。
懐かしいなぁ。転生前は、よく会社のバーベキューで焼いたなぁ〜。女子受けが、結構良かったんだよなぁ〜。
普通は塩胡椒だけなんだけど。俺は肉にはタレ派だ。なので、特製のタレをかける。
『ジュワーーーー』
肉にかけたタレが音と共に、香ばしい匂いを周囲に撒き散らした。
「うわっ、更に良い匂いが!」
「ヨダレが止まらないですぅ」
「姫様! とても美味しそうな匂いです」
「この香り、先程かけた物は一体!」
「あぁ、腹がすいたなぇ。ルド! まだかい!」
「もう直ぐ出来るよ。もうちょっと待っ『ドゴーーン』」
三十メートル程離れた所に何かが落ちて来た。土煙りが舞っていて何かは分からないが、紅き三ツ星と殿下、それにリサーナは直ぐ様臨戦態勢に入った。
「一体何だ! 魔物か! フィオ、リジー!」
「はい姐さん!」
「はいですぅ!」
「姫様! 私の後ろに!」
「リサーナ、案ずるな。妾なら平気だ」
皆は魔物の襲撃と判断し、緊張が走った。しかし、オッサンは・・・・。
「まったく、折角焼いた肉に砂がかかるじゃないか!」
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
「ルドさん、こんな時に肉かよ」
「ルドさんはお肉の方が大事ですぅ?」
土煙りが少しづつ晴れていく。月の明かりが差して、落下物の正体を晒した。
「「「暴君蜜熊!!! キュートハニーベア!!!」」」
紅き三ツ星が、クレーターの真ん中に居るチッコイ物体を見て叫んだ。
「あれが! あの、かわいい魔物ランキングトップ5に入るとされる あの!」
「・・・・かわいい(ボソ)かわいい! かわいいぞリサーナ!
何だ! あの愛くるしさは!」
殿下とリサーナもかわいい魔物の事なら知ってるようだ。
「か、かわいいですぅ!」
「かわゆい、かわゆいよー!」
「かわいいな(ボソ)」
えっ、フィオやリジー、それにリサーナや殿下は分かるけど。マリーダまで・・・・まぁ、女子だしね。それはさておき、まさかアイツの方から来るとは・・・・。
「ルド!! 我と勝負せよ!!」
チッコイ熊がビシッと、俺に指を差して宣言した。
「「「「「しゃ、喋った!」」」」」
よく見ると、熊の顔部分に人の顔があった。その姿は、謂わゆる着ぐるみパジャマのような格好だ。
「「「「でもかわいい!」」」」
「いや、それよりルドに勝負を挑んでるぞ!」
「ルドさんの知り合いですぅ?」
俺は立ち上がり、数歩前に出た。
「よぉ! 元気してたか? と言うか、お前一人か?」
「ふん! 貴様など我一人で充分なのだ。行くぞ!」
『ボガーン』と勢いよく地面を蹴り、こちらに猛スピードで突っ込んで来た。
『ガシ』・・・・オッサンはちみっ子熊の頭を掴み、凄まじい突撃を片手で受け止めた。
「ふぬぬぬぬ! この! おりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
頭を掴まれ動けないちみっ子熊は、その場で両手を動かし攻撃をしかけた。両手を動かしたが、オッサンの手より短い手では当然届かないわけで・・・・ただ、かわいさが増しただけだった。
「この! うりゃ! とりゃ!」
「「「「「かわゆい」」」」」
「うりゃりゃりゃ」
「「「「「抱きしめたい」」」」」
「ハァ、ハァ、ハァ。このくらいで許してやる」
「「「「「尊い」」」」」
「もう気がすんだか? 離すぞ」
オッサンは、ちみっ子熊の頭から手を離して、頭をナデナデした。
「こら! やめぬか! 気安く撫でるな!」
「別にいいだろ。それより、クリュレミアはどうした?」
「母上は所用で出かけておる!」
「そうか、ん? 何でみんな俺の後ろに並んでるんだ?」
振り返ると何故か、オッサンの後ろにみんな並んでいた。
「ルドさん! ナデナデさせてですぅ」
「ルド殿、妾にも撫でさせてくれ!」
「次は私ですよ姫様」
「フィオ狡い! 私も」
「私は別に・・・・」
「じゃあ姐さんは無しで」
「なっ、私にも撫でさせろ!」
・・・・フィオ・・殿下・・・リサーナ・・リジー・・マリーダ・・お前達・・・・まぁ、確かにかわいいけどね。
「な、何じゃ! お前等!」
みんなの熱と圧にびびったちみっ子熊は、俺の背中に隠れてしまう。
「あのみんな、ちみっこが怯えてるから」
「べ、べ、別に怯えておらんわ!」
「「「「「キョドる所もかわいい」」」」」
みんな、程々にしないと益々怖がられるよ。
オッサンのズボンにしがみつき、警戒する様に女性陣をチラチラ見るちみっ子熊。ジリジリとにじり寄る女性陣。その間に居る俺。
何だこの状況!! そう思ったその時!!
『グルギュルルルルルーーー』
ちみっ子熊のお腹が鳴った。
「なぁ、みんな。メシにしないか?」
「「「「「賛成!」」」」」
「ちみっ子、お前も食うだろ」
「・・・・ちみっ子では無い! リュリュティアなのだ!」
『ギュルグルグルルルルーー』
ちみっ子のお腹が盛大に鳴り響いた。
「腹減ってんだろ。うまいメシ作ったから食ってけ」
「うぬぐ、確かにいい匂いじゃ・・・・仕方がない。食べてやるのだ!!」
「おう、食ってけ!」
オッサンは、鉄串に刺した肉を外して木皿に分けていく。
一緒に焼いておいたオニオンにピーマン。それにコーン。
コレ、完全にバーベキューだな。
「フィオ、魔法で椅子と台を作ってくれ」
「はいですぅ。んぬぬ・・・・ほいっ、ですぅ。アースコントロール」
『ゴゾゾゾ』と土が盛り上がって椅子と台の形に形成させれていく。
「そしてぇ〜ですぅ。キャアリング!」
土で出来た椅子と台がみるみる硬質化して石になった。
「よっと、ですぅ〜」
フィオはひょいと椅子に座り、大丈夫か確かめた。
「ほっ、よっ、ですぅ。大丈夫ですぅ」
完成した椅子に、みんな座り始める。それぞれの席に、焼いたキングディアの肉と野菜を盛った木皿を置いていく。
「「「「「美味しそう」」」」」
「そんじゃあ、食べるか。ん? どうしたリュリュティア?
早く席につけ」
「ぬ、うむ、でわ」そう言うと、何故か俺の膝の上に乗って来た。
「ふむ、食べるのだ!」
「ルドさん狡いですぅ!!」
「ルド殿、独り占めですか」
「そうですルド殿! 妾の膝の上に是非」
「ちょこんと乗ってかわいい」
耳をピクピク尻尾もフリフリ。リジーもかわいいぞ。
注意、オッサンはただ犬派なだけです。
「かわいいな。ギュッとしたい」
マリーダって以外とかわいいもの好きだな。
「モグモグ、ゴックン。・・・・うまい、うまいのだ! こんなの食べた事ないのだ!」
「「「「「食べる姿もかわいい!!!!!」」」」」
ちょこんと座って膝の上でメシを食べるちみっこ。
確かにかわいいな。俺の歳ならこのくらいの子供がいてもおかしくないよな。
「何か、ルドの子供みたいだな」
ボソっとマリーダが呟いた。
「ルド殿の子供・・・・」
「どうかされましたか姫様?」
「にゃ、にゃ、にゃんでもにゃいぞ! リサーナ!」
真っ赤になる殿下。何か見慣れてきたな。
「ふふふ。大方、ルド殿との子供の妄想でも「リサーナ!」
俺との子供? 何の話しだ?
「ルドよ。おかわりなのだ!」
「はいよ。って、リュリュティアが座ってたら立てないじゃんか」
「だったら妾の膝の上に」
「あっ、姫様狡いです。私の膝に! リサーナの膝に来て下さい」
「私の膝がいいですぅ」
「私の膝の方がいいに決まってる」
「私は・・・・ゴニョゴニョ」
「ふがっ」と声をあげ、リュリュティアはぴょんと跳ねて、俺の背中に抱きついた。
「ふしゃーーー」とみんなを威嚇するリュリュティア。猫かよ。
「あまり構うと余計に警戒されるぞみんな」
「「「「「うっ、でもかわいくて」」」」」
かわいいけど、リュリュティアはドラゴンなんだよな。それを知ったら、コイツらどうなるやら。にしても、クリュレミアは何処行ったんだ?
「なぁ、リュリュティア。クリュレミアは何処に行ったんだ?」
「ぬ、母上か? よく分からんが・・・・用事で東の方にいったのだ」
「東か・・・・」
もしかしてメルキオス迷宮に向かったかと思ったが、違ったか。
「なっ、幼な子を置いて母親が出て行っただと!」
「いや、殿下。置いて行ったのは確かですが、リュリュティアは、この辺の魔物より強いですよ」
「関係ありませんですぅ。幼な子は幼な子ですぅ。はっ、私達で育てるですぅ!!」
「成る程、名案です。姫様、リュリュちゃんは私が育てましょう」
「なっ、リサーナ! リュリュは妾が引き取る」
「いえ、私ですぅ」
「私が」「私です」「私に任せろ」
・・・・いやいや、何で引き取って育てるまで話が進んでるんだよ。話がポンポン進み過ぎてこえーよ。
「ぬぬぬ、下等な人間が我を飼おうと言うのか! 貴様等如きに飼われる我ではない! 我は誇り高きドラゴン!!
火竜伯爵、クリュレミアの娘! リュリュティアである!」
『バサッ』と熊の着ぐるみを脱いだ。赤い髮が風ゆれ、そしてリュリュティアは、真の姿へと変身していく。その姿は燃えるように赤いドラゴンだった。
「「「「「ド、ド、ドラゴン!!!!!」」」」」
あーーあ、やっちゃった。コレ、どう説明したものか。と考えるオッサンであった。
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