オッサンは断れない
で、殿下! 何で? いや、それよりも、おい! エルナ止まれ!
「ん? 何事だ? おっ、ルド殿! ここにおったか!」
殿下が俺を見つけて、ツカツカと近づいてくる。
殿下! ダメ! 今はこっち来ないで!
「・・・・何をしておるのだ?」
「えーと、そのぉー。・・・・おい! エルナ! 殿下の前だ! だから落ちつけ!」
「フシュー、フシュー。プシュ・・・・・・」
ん? プシュ? 止まったか? 羽交い締めにしていた手を緩めた。すると・・・・。「・・・・・・・」大人しくなったエルナが、チラッと殿下を見た。
プルプル。 プルプル? あれ? 何か震えてる?
「す、す、すみません。殿下!! 失礼いたました!!」
ガバッと、俺の手を振り払って殿下に一礼して、受付カウンターに隠れた。
「うむ! でっ、いったい何だったのだ?」
「まぁ、色々ありして。所で、殿下はどう言った御用で?」
「昨夜城に、剣を忘れていったであろう? 故に妾が届けに参ったのだ。しかし、家に行ったが留守であったのだ」
「だったら、ギルドに顔出してるだろうって、私が殿下に言ったんだ。そしたら案の定さ」
「マリーダ!」
「私もいますぅ〜」
「私もいるよぉ〜♪」
「フィオ! リジー!」
紅き三ツ星の三人も一緒に、俺の家に行ったようだ。
「後、私もおります」
「リサーナ! あれ? エバンさんは?」
「エバン殿は、別件でおりません」
あぁ、そうなの。まぁ、側近だからっていつも一緒って訳じゃないか。
「ルド殿、コレを!」
殿下は俺が忘れていった剣を差し出した。
「わざわざすいません」と、礼を言いつつ受け取った。
「あのぉー、ちょっといいですか?」
「ん? 誰だお主?」
何か知らんがギルマスが、俺達の会話に割って入ってきた。
「はい、王都冒険者ギルドのギルドマスター、ロウゼンと言います。クシャーナ姫殿下におかれましてわ御機嫌麗しゅう」
ぷっ、何やってんのギルマス? 片膝を突いて挨拶したギルマスの姿に、ギルドホールに居た冒険者達は、笑いを堪えるのに必死だった。
「クシャーナ姫殿下、暫しルドをお借りします」そう言うと、ギルマスが俺の腕を引っ張って、殿下から少し離れた所に連れて行き、殿下に聴こえないように小声で聞いで来た。
「おい、ルド! 何であの戦姫がここにいるんだ!」
「えーと、剣を届けに来たみたい」
「剣? 何でまた?」
「昨夜、晩餐会に呼ばれて・・・・」
「聞いてないぞ!」
「そりゃあぁ、言って無いからな」
「・・・・・・狡い、狡いぞルド! わしだって呼ばれた事無いのに!」
いやいや、知らんわい! あんた一応、元Sランクだろ?
何で無いんだ?
「くっ、ならば是が非でも依頼を受けろ! 受けて酷い目にあえ!!」
「ちょっ、あんたギルマスの癖に何言ってんだ!!」
さすがの言い草に、俺はギルマスの胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと二人共! 殿下の前よ!」
カウンターから頭だけ出して、エルナが俺達を叱るが、
エルナ・・・・お前が言うな!!
「兎に角、晩餐会の事はいい。依頼を受けろ! 本当に急を要する依頼なんだ。お前にしかできん!!」
・・・・・・真面目な顔で言ってるが、俺が胸ぐらを掴んで持ち上げているので、足が宙ぶらりんになっている。しかし、顔は真剣だ。俺はハァーとため息を吐いて、ギルマスを床に下ろした。
「取り敢えず、話だけでも聞こう」
「ふん、最初からそうしてくれ。引退だの言う前にな」
・・うるせぇ。
「で、一体どうしたのだルド殿?」
あっ、殿下の事忘れてた。
「クシャーナ姫殿下が居られるし丁度いい。更に、紅き三ツ星まで居るとはついてる。クシャーナ姫殿下、それと紅き三ツ星も来てくれ! お話したい事があります」
「うむ、よいだろう」
「ウチ等もいいぜ」
☆☆☆
「何! メルキオス迷宮に異変だと! そんな報告受けておらんぞ。本当なのかロウゼン?」
「先程届いた情報です殿下。恐らく陛下の耳にも入っているかと」
「何と!」
「姫様、ルド殿に剣を届ける為、城を離れてましたから。きっとその間に届けられたのでは?」
「であろうな。リサーナ! 城に使いの者を」
「はっ、直ちに」
リサーナは部屋を出て、ドアの横で警備していた女性騎士に指示を出した。
「だが、異変ってなんだ? 詳しい情報は無いのか?」
「分かってる事は、メルキオス迷宮で異変があり、調査に出したSランクパーティーの紫電の鴉が、戻って来ないと言う事だけだ。異変の内容は、まだ詳しく分かってない」
「紫電の鴉か・・・・確かSランクのクロウが率いる四人組パーティーだよな? なぁ? マリーダ」
「あぁ、クロウを筆頭に後はAランクの冒険者と組んでた筈だ。一緒に仕事した事無いからなぁ〜。名前まではわからんが」
「真っ黒な連中だったよねフィオ?」
「そうですぅ、真っ黒黒太郎ですぅ」
何だよ、真っ黒黒太郎って。もしかしてあれか? 真っ黒○助の仲間か?
「メルキオス迷宮か・・・・懐かしいな」
「ルド殿はメルキオス迷宮に行った事が?」
部下に指示を出し終えたリサーナが、部屋に戻って来て聞いてきた。
「リサーナ? だっけか」
「はい、マリーダ殿」
「マリーダでいいよ。行った事あるも何も、メルキオス迷宮を最初に踏破したのはルドだよ。しかも一人でね」
「ふむ、さすがルド殿だ。妾はできれば迷宮の話など聞きたいが、しかしそんな時間はないか」
「やはり、迷宮の踏破とは凄いのですか姫様?」
「いや、そんな対した事ではないですよ」
一応、謙遜しとこう。持て囃されたり褒め称えられたりされたく無いし。何より、化け物扱いされたく無いし。
オッサンは意外と、脆いガラスのハートなのだ。
「何いってるですぅ、ルドさん! 迷宮を一人で踏破とか化け物ですぅ!」
「そうですよ! ウチ等だってまだ、メルキオス迷宮は踏破して無いんすよ!」
「ルド、自覚が無いにも程がある! 少しは自分の実力を分かれ! あんたは化け物なんだから!」
「ほんと、姐さんの言うとおり、ルドさんは化け物だよ」
オッサンは少し傷ついたぞ。知人の俺に対する認識が、ちょっと酷いんだが。
「兎に角、ルドに頼むしかないんだ。メルキオス迷宮を唯一踏破してるルドにな!」
「ハァー、仕方ない。分かった! やるよ! やりゃあぁいいんだろ!!」
「それでいい。後、紅き三ツ星も参加してくれ。Sランクパーティーに何かあったとするなら、ルド一人よりいいだろ」
「あぁ、私は別にいいよ。二人は?」
「姐さんがやるなら私もやる!」
「私も問題無いですぅ」
「よし、決まりだ。なら急いで準備して出立してくれ! メルキオス迷宮の在る、グランシェル伯爵領は馬でも十日は掛かるからな」
「そうだな。急ごう」
「はいですぅ」
「りょうかぁ〜い」
「いや、三日あればいけるだろ?」
「「「「「「はぁ?」」」」」
へっ? 何だよ? その目は何?
「ルド、幾らなんでも三日は無理だぞ! 馬の足で十日掛かるんだぞ!」
「ギルマスの言う通りだ。三日とか、どうやっても無理だ」
「マリーダ殿、ルド殿は何か考えがあるのでは?」
「殿下、考えでどうこう出来ませんよ」
「いや、出来るって、グランシェル伯爵領まで真っ直ぐ進めば行ける」
・・・・・・・・。
皆沈黙した。いや何言ってんの? と。
「おい、ルド。無茶苦茶もいい所だぞ」
「はいですぅ、マリーダさんの言う通りですぅ。ルドさん、グランシェル伯爵領は王都から近いですぅ。でも、魔物が支配するベゴン山脈があるですぅ。だから遠回りするしかないのですぅ」
「そうだぜルドさん。そもそも、魔物だらけで三日で突っ切るとか無理だから! それに、ベゴン山脈には恐ろしい主が」
「いや、だから大丈夫だって。グランシェル伯爵領にって訳じゃないけど、あっち方面に行く時は、よく突っ切って行ったから。後、主も大丈夫だぞ。あそこを通るたびに、主はボコってたし」
「「「「「何だってえぇぇぇぇぇ」」」」」
またコレか。何でそんなに驚く?
オッサンは自覚して無い。自身の実力が、化け物を圧倒する化け物である事に。
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