オッサンは宣言する
帰りたいあまりに、急いで家に帰った結果。
「剣、置いて来ちゃった。どうしよう」
気づいたのは朝になってから、それもベットの上で思いだした。
うーーーむ、どうするか・・・・取り敢えず起きるか。
ベットから起き上がり、洗面台へ。年々しんどくなっていく朝の日常に、なんとも言えない。冷たい水で顔を洗って、目をシャキッとさせる。
「ハァーー、取り敢えず朝メシに・・・・あっ!」
昨日のゴタゴタで、なんも買ってなかった。今日も食いに行くか? いやでも、もう時間的に閉まる時間か?
現在の時刻は、鐘が十回なったから午前十時。昨日、色々あった事で疲れたのか、いつも六時過ぎには目が覚める筈が、今日は珍しく寝坊した。
「んー、昼メシまで待つか。あっ、今日は報酬の支払い日だった。ギルドに顔を出して、その後メシにすればいいか」
☆☆☆
「おはようエルナ!!」
「・・・・朝からうるさい・・・・でっ、どうだったの晩餐会?」
「大変だった」
「でしょうね。疲れた顔してるし。それで、何のよう?」
「いや、何のよう? じゃないだろ。今日が依頼の報酬支払い日だろ?」
「そうだったわ。ちょっと待ってて」
エルナこそ疲れてんじゃないか?
「はい、これがタイラントバッファローの報酬。そしてこっちが、マジックバックの下取り料。そんで、新しいマジックバックと・・じゃあさっさと確かめてサインして」
「なあ、年々俺に対する扱いが、酷くなっていってる気がするんだが?」
「気の所為、気の所為」
いやいや、絶対そうだって! そもそも、初めて会った時はルドさんだったのに、今じゃ呼び捨てじゃんか!
まぁ、いいけどさぁ。
「ルド・ロー・アスっと」
ふむ、いい出来! やはりサインはこう・・スラスラっと書くとカッコイイんだよね。何気に、異世界の文字の中で一番練習したのが名前だったなぁ。名は体を表すならぬ、字は人を表すみたいな?
「あんたさぁ、その図体で何でこんなに達筆なの?」
「わぁ、ほんとだぁ〜。ルドさん字の綺麗」
「リズ、あんたルドさんに教えて貰いなさいよ」
「何で私?」
「リズの字、汚くて読めないからよ!」
「メーアだって人の事言えないじゃん! たまに誤字とかあるし!」
エルナの背後で、口喧嘩を始めた二人。あーだこーだと、互いに言い合い。取っ組み合い寸前だ。
おい、そろそろ止めろ。エルナが怒りだす前に! だが、遅かった。
「リズ! メーア! あんた達うるさい!!」
「「ひゃい!!」
二人はぴーんと、背筋を真っ直ぐに伸ばし、綺麗な気をつけいをした。
「さっさと仕事に戻る!」
「「了解です!!」」
リズとメーアは、腕の角度まで揃えた綺麗な敬礼をエルナに向かってした。二人の目には、鬼教官を見るような畏怖と敬意が入り混じっていた。
・・・・エルナ、二人に一体何をしたんだ?
「何か?」と、こっちを睨みつけてくる。
受付嬢がそんな顔すんな! と言うか睨むな!
俺はエルナ目をしっかり見て・・・・「いえ、何でもありません」と言って目を逸らした。
この時オッサンは、四十年近い人生を二度も生きた経験から。エルナを絶対怒らせていけない人として、認定したのであった。
怖かった。どんな魔物よりも、本当に怖かった。
「何だ騒がしい。一体何の騒ぎだ?」
声の方に目をやると、髭を生やした小太りの男が、階段から降りてくるのが見えた。ビシッとスーツを着たその男の正体は・・・・王都冒険者ギルドのギルドマスター、ロウゼンだった。
「何だ、ギルマスか」
「何だとは何だ! ギルマスに向かって! って、ルドか。
だったら丁度いい、お前に依頼だ」
「・・・・断る!!」
オッサンは断った。
「そうか、依頼内容はベクター伯爵領のって、断る? 依頼をか! どうして?!」
「断ると言ったら断る! 俺ばっかり働かせるな!」
「働かせるなって、お前以外にこの依頼をこなせる奴が居ないんだ! しょがないだろ!」
「しょうがないで済むか! 最近更に、俺への依頼が増えてきてる。休みが殆どねぇじゃねぇか!!」
俺は拒否する。断固として拒否する。
「ルド・・・・働ける内が花だぞ?」
「だから、働き過ぎだっていってんだ!!」
「ちょっとルド、あんまり大きな声出さないで! ギルマスも!」
「エルナ、俺は決めたぞ」
「何をよ?」
「俺は引退する。するったらする!!」
「「「「「「「「何だってえぇぇぇーー!!」」」」」」」
その日、王都の冒険者ギルドホールに、激震が走った。
その頃、姫殿下は・・・・。
「なに? ルド殿が剣を忘れただと・・・・」
「はい、姫殿下」
「姫様、良かったですね。またルド殿に会える口実が・・」
「にゃにをいってりゅのだリサーナ! わりゃわは、べちゅに・・・・」
『『分かりやす』』
姫殿下は今日も、分かりやす過ぎです。
姫様・・・・少し心配になる分かりやすさですね。
「うにゅぬぬ」と、真っ赤になりながらモジモジする殿下。
小動物系のかわいさがある。所々がビックだけど。
今日も姫殿下は、可愛らしいですね。と孫娘を見る様に暖かい視線を送るエバン。それにたいして・・・・。
さすが姫様、イジリがいがあります。ルド殿もルド殿でイジリがいが・・・・ぬふふっふ。
一人だけ、変なベクトルで殿下とルドを見ていた。
誤字報告ありがとうございます。助かります。
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