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超ベテランのオッサン冒険者

         

「あぁぁぁぁ〜〜こひ「腰」痛てぇ、かひゃが「肩が」凝るぅー」


 三十代のオッサンが、口にキセルを咥え、左手で腰をトントンし、右手で左肩を揉みながら一服していた。


「ハァ、俺も歳だな。にしても、二度目の三十八才がこんなに辛いとは」


 プハァと空に向けて、タバコの煙を吐く。白い煙はゆっくりと登ってゆき、消えていく。


「さぁーてと、帰りますか」


 そう言うと、オッサンは腰を上げ、キセルのタバコ草をトンと地面に落とし、足で踏んで火を消し、地面に突き立てていた大剣を背負う。


「おぉっと、コイツを仕舞わないと」


 オッサンは振り返り、腰掛けていた巨大な物体を見た。


 それは、巨大な牛。イスルカ王国南西部サンテール平原に住む、体重二トンを超える暴れ牛、タイラントバッファロー。


 年に数百人を超える犠牲者を出す恐ろしい魔牛。それが、一頭ではなく十頭以上のタイラントバッファローが倒れていた。オッサンはそれをバックに次々と仕舞っていく。


「このマジックバック、吸いが弱くなってきたかな? そろそろ買い替え時だな」


 全て仕舞い終わると、一路、東に歩き始める。サンテール平原の東、イスルカ王国の王都ヴァロワへ。






******************************



      王都ヴァロワ 正門入り口



「おいそこぉー! きちんと並べー!」「商人は此方にならんでくださぁーい」   「馬車の荷物を検める」    「おい、そこ! 割り込むな! キチンと並べ!」


 王都ヴァロワの正門では、商人や出稼ぎに来た人達でごった返していた。


「あれ? ルドさん? ルドさーん」


 門番のひとりが、街道を歩いてくるオッサンに手を振った。


「おう、キッツ。忙しそうだな」


「まったくですよぉ〜、この時期は特に、それより今日はどうでした?」


「今日もいつも通りだよ。それよりも、あぁ、もう直ぐお祭りかぁ〜」


「はい、フィルドラード王国建国祭が十日後に迫ってますから」


「そりゃ忙しいわな、まあ俺に関係ないし、さっさと入れてくれ」


「はい、此方からどうぞ」


「そんじゃあな、頑張れよぉ」



 王都の中は、人で一杯だった。いつもより人通りが多く、彼方此方でお祝いムードが漂っている。



「人が多いな、ギルドに報告して、さっさと帰ろう」


 頑丈そうな建物の前に着くと、扉を開けて中に入る。中では、荒くれ共が騒いでいたり、静かに酒を飲む奴、次の仕事の打ち合わせしてる連中と様々だ。


 だが、オッサンが入ってきた途端にシーンと静まりかえった。オッサンはカウンターの受付嬢の前に歩みを進める。


「依頼は達成した。というか! 依頼書にあった報告より多かったぞ!」


「それは、申し訳ありません。ですが、魔物も生き物ですから減ったり増えたりしますよ」


「いや、増えたらダメだろ。何の為の情報だよ、こちとら命かかってんだぞ、もっとちゃんとしろ!」


「申し訳ありません。それで、討伐したものは?」


「ハァ、ここに入ってる」そう言って、マジックバックを取り出した。


「量も多いし、マジックバックごと預けるよ。次いでにバックも下取りに出してくれ、買い替える」


「分かりました、お預かり致します。では、報酬と下取りの代金は、二日後になりますが宜しいですか?」


「あぁ、構わん。それじゃあな、エルナ」


「・・・・・・・・仕事場で気安く呼ばないで」





******************************





 ギルドや大きな店舗が建ち並ぶ、大通りから脇道に入って行くと、住宅街が広がっている。


 家に帰る道すがら、たくさんの人達に声をかけられた。


「おっ、ルド、おかえり」「ルドさん、おかえりなさい」


「ルドのおっちゃーーん、おかえりーー」


 今日もいつも通り。一日が始まり、そして終わる。おっ、家が見えて来た。


 ちょっとボロいが、立派な一戸建て。


「ただいまぁっと・・・・」返事は無い


「ハアァァァァ、独り身はツラいなぁ」


 大剣と荷物を置き、お気に入りのソファに腰かける。



「どっこいしょっと、・・・・異世界転生してから、もう三十八年も経ったのか。後、二ヶ月くらいたったら、向こうより長生きになるなぁ」



 ・・・・・・・・風呂入ろ。




 これは、不慮な事故で死んで、異世界に転生して三十八年間生きたオッサン冒険者の話である。



誤字がありましたらご報告ください。


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