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かくれご、ふたたび

作者: 田山人由自


「夏のホラー2021」のテーマ「かくれんぼ」です。


 

 鈴木ユウの母の妹夫婦が、夏に一家心中した。


 原因は分からなかったが、ユウの家の近所に住んでいて、その長男の佐藤ケンヤは、当時ユウと同じ小学3年生だった。


 ユウとケンヤの父は親友で、居酒屋を経営する家の姉妹と仲良く恋に落ち、結婚したらしい。


 ケンヤの父は遊びに来る度に、うまく同じ年に生まれたな、ユウとケンはママが美人姉妹だし、本当の双子の兄弟みたいなものだ、ユウがお兄さんだからな、と飽きずに言った。


 ユウとケンヤはひとりっ子だった。


 佐藤家が一家心中する、前日の放課後。


 ユウは3年生から入部できる、パソコンクラブのみんなと【かくれんぼ】を楽しんだことを思い出す。


 ケンヤはもちろんだが、ませたケンヤが好きだと教えてくれた、皆川トモカもいた。


 何故【かくれんぼ】をしたかというと、『かくれご』というホラーゲームを開発した卒業生がいて、その後輩が顧問の先生だった。


 顧問の先生は、自分のノートPCでこっそりそのゲームを遊ばせてくれることがあって、その日、実際に【かくれんぼ】をやってみようと言い出した。


 ケンヤにとっては、最初で最後の【かくれんぼ】だったかもしれない。


 ユウが初めて鬼になる前に、帰る時間になってしまった。


「今度やるときは、ユウが、鬼やるところからな!」


「またじゃんけんからだよ~!」


「ふざけんなよ!おまえ、一回も鬼やってないじゃん!」


 ユウは、子供らしく擬音を発して、両手でトゲを真似るとケンヤを突っついた。


「プシュー!プシュー!プシュー!」


「やめろよ!アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー!」


 ケンヤは指鉄砲を構えて、ユウをバーン!と撃つ真似。


 それは、当時二人の間でブームになっていた『ターミネーター2』ごっこだった。


 ユウとケンヤの父が大好きな映画だったからだ。









 ケンヤがいなくなった翌年の夏休み。


 ユウは小学4年生。


 ユウの父は長期出張。


 ユウの母は妊娠してお腹が大きくなっていた。


 ケンヤの家は空き家のままだったが、半年前に、何者かに放火されて全焼していた。


 全焼する前には、幽霊が住んでいるという噂があった。


 ユウの父が長期出張になってしまったので、母方の祖母が面倒を見に来てくれた。


 ある夜、ユウが風呂に入っていると、祖母から汗をかくまで湯船につかりなさいと言われたことを思い出し、50まで数えたが、飽きてしまい上がることにする。


「おばあちゃ~ん、300まで数えたよ~。もういいでしょ~」


 ユウがそう言うと、突然パッ!と停電になった。


「!?」


 ユウはパンツを穿くと、自宅なのに別世界に迷い込んだ気分になった。


「も~いい~よ~」


 と、聞いたことがある声がした。


 ユウは背筋がゾクッ!とした。


「おばあちゃん、どこ?」


 ユウは怖くて控えめに言った。


 妊婦の母は寝ている時間である。


 広いが新築ではない、ギーッ!と廊下を歩く自分の足音が怖い。


 祖母がいるはずの和室には、誰もいなかった。


(ママの部屋だ!)


 ちびりそうだが、少しだけ勇気を出して暗闇を進む。


 母はいた。


 ベッドに寝ていた。


(良かった!おばあちゃんは、どこ?トイレ?)


 ユウは、寝ている母に近づいた。


「おまえはだ~れをみいつけた」


 また聞いたことがある声がした。


「おまえはぼ~くをみいつけた」


「あっ!」


 ユウは、その場でおしっこを漏らした。


「あっ、ああ~」


 下半身から床がどしゃぶりの後みたいになった。


「ぼ~くはだ~れ?みいつけた」


「!!」


 その声に、ユウは、恐怖でドン!と尻餅をついた。


「またにげるの~?」


「!?」


「きょうはにがさな~い」


「!!!」


 母の大きなお腹が、天井に向かってメリッ!メリッ!メリッ!と音をたてて山の形に伸びて行き、掛け布団を高く盛り上げた。


「ママが死んじゃう!」


 ユウは泣いて言った。


「ぼくはだ~れ?つぎはだ~れ?おまえはだ~れをみいつけた?」


「……ケ、ケンヤを、みいつけた」


 ユウが泣いてそう言うと、母のお腹がズン!と一気に妊婦とは思えない高さまで引っ込んだ。


「!!!」


 次の瞬間、ドタドタドタドタ!と階段を駆け上がる音がして、そのまま2階の部屋までドタドタドタドタ!と入って行く音がした。


 暫く、天井からドタドタドタドタ!と音がする。


 ユウは恐怖で気を失った。


 そして、ケンヤの夢を見た。


 ケンヤは背中を向けて壁にもたれかかり、【かくれんぼ】の鬼をやっている感じで顔を見せなかった。


「何でぼくは、ユウになれなかったんだろう?何でユウは、ぼくじゃなかったんだろう?」


「?」


「パパがぼくを殺すときに言ったんだ。おまえはユウのパパの子だって」


「!」


「ユウのパパは、うちのママが好きだったんだ。うちのママも、ユウのパパが好きだったんだ」


「!?」


「それでも、うちのパパは、ユウのパパをキライになれなかったんだ。ぼくが悪いんだ。パパが言ったんだ。おまえが生まれなければ、今までどおりやれたって」


「!!」


「うちのパパは子供ができない人だったんだ。うん、分かってる。男は子供を生めないんだ。そういうことじゃないんだ」


「?」


「パパは、ユウのパパとは違う人を好きになった、ママを殺しちゃったんだ。ぼくが悪いんだ。ぼくがいたから、パパとママは仲良くなれなかったんだ。ユウのパパに似てくる、ぼくがイヤだったんだ。だから、ぼくもついでに殺したんだ。それでも、パパは、ユウのパパがキライじゃないんだ」


「!!」


「……も~いい~か~い」


「……も~いい~よ~」




 その後、ユウは無事に目が覚めた。


 しかし、母のお腹は元に戻ったが、流産した。


 生まれていれば弟だった。


 祖母は玄関で気を失っていた。


 父も無事、出張先から帰って来た。









 16年後の夏。


 ユウは25歳になっていた。


 大学を卒業して市役所に勤務し、結婚もしていた。


 ユウの奥さんは、小中と同級生だった皆川トモカだった。


 母の弟が経営する居酒屋で、アルバイトをしていたトモカと再会し、付き合うようになった。


 小学生のケンヤが好きだった女の子が、トモカだった。


 トモカは今、ユウの子供を妊娠している。


 ユウは休日、ネットで映画を観ようとしていた。


「ユウ、何観るの?」


「『ターミネーター』の新作」


「今、何作目?」


「えーと」


「同じようなこと繰り返してるよね。もういいよ」


「それがいいんだよ、それが……」


 ユウは、大きくなったトモカのお腹を見た。


「……」


 ユウは昔、夢で聞いたケンヤの言葉を思い出した。


 ――何でぼくは、ユウになれなかったんだろう?何でユウは、ぼくじゃなかったんだろう?




ミッドナイトノベルズに、連載している作品の宣伝を兼ねて書きました。

18歳以上の方、よろしければお読み下さると幸いです。


こちらをお読み下さった方、ありがとうございました。

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