「地底都市で働く僕」 短編読切
「地底都市で働く僕」
僕は、気づいた時には地底都市で生まれ、地底都市の女王様が統治する国で働いていた。
僕らが地底都市で生きていく為には地上に出て食料を探しに出なければならない。
食料調達が僕達の仕事。
しかし。
僕の食料調達は簡単では無い。
困難を痛感したのは、僕が上層部の指示を受け、最初に入った先輩達のチームの時だった。
「よ、よろしくお願いします」
僕は初めての為、挨拶をしたがしかし、先輩はこう言った。
「挨拶はどうでもいい…お前は先頭を歩いていればいいんだよ」
「あ、はい」
その時の僕は新人だからだとそう思っていた。
そして、食料を探しに幾つもある、カモフラージュされた出入り口から地上へと出る。
僕はその時、外の景色に感動した。
見るもの全てが初めてだったからだ。
最初の印象は「なんと素晴らしい世界」なのだと感じたのを良く覚えている。
吹き抜ける気持ちいい風、温かな太陽、鮮やかに彩る青い空、生い茂る緑の葉、まるで天国の様な開放感。
しかしその時、同時に思った。
「何故、こんな素晴らしい地上で暮らさないのだろう」と。
僕はそんな疑問を抱きつつも、心を躍らせ食料を楽しく探す。
しかし。
ふと隣を見た時、一緒に同行していた先輩達の姿が急になかった。
でもその時。
後ろからグチャグチャと音がし、僕はその音が気になり、振り返る。
そこには、僕たちを簡単に飲み込んでしまう程の大きく口。
更にあまりの大きさに恐怖を抱いてしまう程の身体の大きさ。
太陽の光で不気味に艶めく謎の肌。
それはトカゲの様な大きい怪物だった。
そして、僕が気になっていたその音の正体とは…
先輩達が咀嚼されていた音だった。
僕は驚きの余り一瞬だけ硬直し、混乱し、何が起きたかもわからなかった。
しかしその時、恐怖と言う直感だけが僕を動かした。
その恐怖に身を任せて、走り出し、ただ前だけを向いて振り返らず、必死で逃げた。
しかし。
僕の逃げる速さなど、たかが知れていた。
僕は呆気なく怪物の前足で捕まり、抑えられた。
怪物は大きな口を開け、僕を食べようとする。
僕はその時、思った。
「この世界は腐ってる。」
僕はまだ何も知らない。
何も知らないのに、今で命が終わってしまう。
そんなの本当に許せなかった。
僕は何の為に生まれ、何を成すべくしてこの世界に産まれたのだと思った。
しかし、必死に抗い、抵抗してもびくともしない。
僕はついに諦めた。
圧倒的体格差、今にも体が潰れてしまいそうな重さに、抜け出せないと悟った。
でも、その時だった。
僕を食べようとする怪物のその大きさを遥かに超える別の怪物が現れた。
身体の全体の大きさを認識できないほどの大きさで、まるで羽の様な手をバタつかせる鳥の様な怪物がトカゲの様な怪物に食らい付いていた。
その激しい乱戦の中で僕は投げ飛ばされ、間一髪の所で助かった。
僕は本当に喜んだ。
殺されなかった事に喜んだ。
急いで国に帰ろうと、2体の怪物を背に自国へと走った。
その帰る道中で僕は何かを踏んだ。
そして、その踏んだ物に気付き驚いた。
それは同じ地底都市に住む、仲間の脚だった。
ふと、その周辺を見渡した時。
そには他の部隊チームの仲間の手や足、頭までもが無差別に転がっていた。
更にその先で、先程の鳥の様な怪物と同じ種類の怪物が仲間を引き千切り、美味しそうに食べていた。
僕はまだ助かってなどいなかった。
喜んだ事が浅はかだった。
僕はまた更に必死で逃げ、何とか国の入り口へと飛び込み、死を免れる事ができた。
ようやく心から安らぎを感じた。
そして、冷静になり誰かに助けを求めようと、近くにいた門番に助けを求める。
「お、お願いします…た、助けて下さい…先輩達が…みんな…いや…まだ…生きているかも…しれない…お願いです…助けてください。」
「おお…そうか…それは大変だったな…なら次はここのチームに入るといい。」
門番はそう言って僕を別の部隊に案内した。
そして突然、後ろから声をかけられた。
「これが初めてです!精一杯頑張ります!!よろしくお願いします!」
そこのチームで僕は先輩になっていた。
そして、その時気付く。
先輩が言った「先頭を歩いていればいい」と言う言葉に。
あれは囮だったのだ。
しかし、運が悪く怪物は後ろから来てしまった。
そう言う事なのだろう。
そして、同時に僕達に助けなど来ないのだと理解した。
僕はこの時、後輩は守ろうと誓い、言葉をかける。
「僕もまだ2回目なんだ。地上はとても危ないから一緒に頑張ろう。」
しかし、僕は言えなかった。
地上が地獄だと。
いや…今思えば、僕のその言葉も自分に嘘ついていたのだと分かった。
なら僕が何故、自分の嘘がわかったか…
今、僕の目の前で後輩が助けを求め、叫び、僕に手を伸ばし、怪物に食われているからだ。
僕は自分でも気付かぬうちに、後輩を自分だけの最高の囮にしていた事を理解した。
その自分の裏腹だった気持ちに気づき。
僕は後輩が食われる所を見て笑っていた。
そして。
夕方になり、今日1日の仕事が終わりをむかえた。
僕の今日の成果は先輩も、後輩もたくさん死んだ事だった。
しかし、国に帰れば他のチーム達は食料の調達に成功していた。
激戦の狩りの末に手に入れた物や、たまたま落ちていた物など、国の中はお祭りの様に喜んでいた。
そして、全員の食事の時間が来た。
僕はすごくお腹を空かしていた。
ご飯がとても楽しみだった。
記憶は薄いが、小さい頃に食べていたご飯はとても美味しかった。
食べやすい様に調理され、とても美味だった記憶を良く覚えている。
そして。
本日のご飯が配られ始め、その列に並び順番を僕は心をワクワクさせて待った。
そして、飯を渡された。
渡された飯は…
門番をしていた仲間の頭だった。
僕は唖然とした。
驚きで、しばらく頭を見つめていた。
すると隣の先輩が言った。
「食べないなら俺が貰うぞ?」
「い、いえ…た、食べます…。」
「…あっそ。」
そう言って先輩は何処かへと消えていく。
そして。
僕は意を決して仲間の頭を食べた。
明日もあの地獄を乗り越えなければならなかったからだ。
僕は仲間の頭を泣きながら食べ、思いを噛み締める。
「死んでたまるか…死んでたまるか…絶対明日も生き残ってやる…。」
そして、気づけば2日目の朝になり、チーム編成が終わり、昨日と同じように地上へと赴いていた。
警戒しながら食料を探す。
しかし。
奴らは音もなく突如として現れる。
僕はまた仲間を生贄に逃げ出した。
その時、急に上手く走れなくなった。
気づいたら地が揺れ、凄まじい衝撃音を奏でて鳴っていた。
近くにいる怪物達ですら食事を急遽やめ、忽ち逃げ出した。
すると、僕の目の前に地鳴りの正体と思われる巨大な物が落ちてきた。
いや…落ちて来たのではない。
謎堕りて来たのだ。
知らない素材。
嗅いだ事のない匂い。
何かわからない物。
未知なる物。
耳が張り避ける程の聞いた事のない奇声。
恐らく、僕たちの世界ではこれを表現する事は出来ないだろう。
余りの巨大な大きさに上を見上げても天辺は霞、確認する事が出来ない。
怪物達も逃げ出す、恐ろしさ。
僕はこれを神と思った。
この世界で恐れる物の無い巨大な大きさ。
きっとこの世界を統治しているのだろう。
しかし。
神が降り立った下に幾度となく下敷きになっている仲間達を見て思った。
「神は僕たちを見てくれてはいない。」
僕は何の為に生まれたのだろう。
意味なく、生まれてすぐ死ぬ先輩や後輩たち。
僕もいつ死ぬかわからないこの不条理な世界。
生まれては死に、生まれては死にの繰り返し。
これにいったい何の意味があるのだろう。
何の為に生き、何の為に働くのだろう。
それでも僕は今日も、明日も、明後日も、その先も、ずっと働かなければならない。
この不条理で理不尽な世界の宿命から逃げる事が出来ない。
何故なら…
僕は…「働き蟻」なのだから。
読んで頂きありがとうございました!!
途中で蟻と気づいた方も多いと思います!
しかし、蟻と思わず、人間で考えていた方も必ずいると思います!
びっくりされたのではないでしょうか?
それか、腹が立ったのではないでしょうか?
しかし、私は蟻の世界は残酷だなと思い、自分なりに描いてみました!
少しでも楽しんで頂けたのなら嬉しいです。
ちなみに働き蟻は全てメスなのです。
今回はイメージを膨らませやすいようにオスで描かせて頂きました。
他にも小説を書いています。
私の感性が嫌いでは無かった際は是非他のも見てください!
よろしくお願いします!