8.ねんがんの でんせつ の けん を て に いれたぞ
翌朝、温泉とマッサージのおかげで身も心も記憶もさっぱりとした俺は、皆と昨日の鍛冶屋に剣を引き取りに行った。
「よう、オヤジ。修理は終わったか?」
「修理は終わったが、鑑賞が終わってない」
ドワーフのオヤジは、店に入ってきた俺たちには目もくれず、じっと聖剣を見つめていた。昨日と服が変わっていないし、髭も三つ編みのままだから、もしかすると徹夜で鑑賞していたのかもしれない。
こんなに剣を見ていていたいとアピールするドワーフを無視して聖剣を引き取るのは、正直、心が痛まないわけではない。
だが、武器は振るってなんぼのものなのだ。そして、そのことを俺に一番初めに教えてくれたのは、他でもないこのドワーフだった。
だから、俺は言う。
「そろそろダンジョンに潜ろうかと思ってるんだ。金はここに置いた。その剣はもらって帰るぞ」
すると、意外にもドワーフのオヤジは、俺の言葉に頷いた。
「あぁ、こいつは冒険に出たがっている。ワシが私利私欲で引き留めることはできん」
「……オヤジ、詩的な表現は似合わないぞ?」
特にビキニアーマー&三つ編み髭リボンではな!
そんなことを考えていると、ドワーフのオヤジが剥き出しの肩をすくめ、鑑定の巻物を俺に投げてよこした。
これで鑑定しろってことか?
よく分からないながらも、巻物をほどき、【鑑定】する。
特になんのエフェクトもなく、鑑定結果が巻物に現れた。なかなか達筆な文字をパーティー全員でのぞき込むと、そこには、こう書かれていた。
【鑑定結果】
名称:聖剣
属性:聖
レアリティ:SR
武具種:大剣
適正Rank:50
分類:勇者武器
ATK:680(Lv.5)
H P:32(Lv.4)
会心率:1%
加護:星の導き、ドワーフの友
奥義:英傑の勲
スキル1:闇属性の敵に対する大幅なATK上昇(特大)
スキル2:被ダメージの度にATK上昇(小)
説明:その昔、ドワーフの王が鍛え、エルフの勇者に贈った伝説の聖剣。しかし、エルフの勇者は幼少の砌より頼りにした黄金の弓を手放そうとはしなかった。不遇の剣は、勇者の死後、エルフの城の地下にて眠る。彼を真に使いこなすものが現れるまで。
「うおおーーーい! 重いよ! 重すぎるよ!」
聖剣の説明文を読んで、俺は胸が痛んだ。
魔王と邪神も聖剣を痛ましそうに見ているし、暗黒竜なんか号泣している。聖女様はドン引きしているが、多分、エルフの勇者の非人道的な仕打ちにドン引きしているんだろう。
それを見て、ドワーフもさらに感極まり、「お前らも、この剣に同情してくれるか」と滔々と語り始めた。
「何百年もの間敵を屠ることを許されず、ただそこにあり続けるのはつらかっただろうなぁ。当時最高峰の技術を結集して鍛えられた剣も、昨今の技術革新で陳腐化しちまってよう。今や、骨とう品としての価値の方が高い、中の上くらいの剣になっちまって」
「まじか」
正直、もっといい剣だと思ってんだけどな。だが、魔王と邪神と暗黒竜は、ますます感じ入ることがあったらしい。
まず、魔王が重々しく言った。
「時代に置いていかれる恐怖は察するにあまりある。この魔王の力を受け取るがよい!」
次いで、邪神が万感の思いを込めて言った。
「冷遇されても恨みの気持ちを微塵も持たない健気な姿に胸うたれました。どうか力にならせてください」
そして、最後に、暗黒竜が涙ぐみながら言った。
「私の炎も受け取って欲しいの! どうか私の分まで強くなってね」
んんんんん? これはヤバい、ヤバいぞ!?
「おい、待て!話せば分か……」
しかし、俺の制止は遅すぎた。
禍々しいオーラと閃光とドラゴンブレスのマリアージュにより、伝説の聖剣は逝った。
……確認しよう。確認したくないが、確認しよう。
先ほどまで眩いばかりの光をたたえていた刀身は漆黒に染まり、時折炎が揺らめくように赤く光っている。そして撒き散らされる瘴気の中、天に向かって黒い粒子が立ち昇り始めた。
どうみても、世界を破滅に追いやる系の武器です。ありがとうございました!!!!!!
あまりの出来事に気絶してしまったドワーフのオヤジ(ビキニアーマー&三つ編みリボン)に「もう一枚鑑定の巻物もらうぞ」と声をかけ、【鑑定】してみる。
【鑑定結果】
名称:繝舌き縺ェ
属性:闇・炎
レアリティ:縺・°・
武具種:大剣
適正Rank:100
分類:貍縺ェ蟄励
ATK:3↑↑↑↑3(Lv.∞)
H P:3↑{3↑3}(Lv.∞)
会心率:100%
加護:魔王の激励、邪神の加護、暗黒竜の炎の守り
奥義:æ–å—化ã
スキル1:全ての敵に対する大幅なATK上昇(特大)
スキル2:被ダメージの度に相手を呪う(大)
スキル3:( *´艸`)
説明:かえりみられることのなかった不遇の剣は、悲劇を糧に生まれ変わった。もはや勇者への未練はなく、虚空を切り裂き災厄を呼ぶ一閃は、滅亡への序章にすぎない。
横から鑑定結果をのぞき込んだ暗黒竜が満足気に言った。
「うん、これで間違いなく、世界最強の武器になったわね!」
「いやいやいやいや、明らかにこの剣、原型を留めてないよな? 最強っていうより最凶だよな?? 名称とか分類とか文字化けしてるし、しかも最後の( *´艸`)っていったいなんなんだよ!! 笑ってんじゃねーぞ!!!」
ったく、いい加減疑問符と感嘆符の在庫が切れそうだ。
すると、ここまで黙って事態の成り行きを見守っていた聖女様が浮かない顔で近寄ってきた。俺はハッと顔を上げる。
そうだ、俺たちには聖女様がいるじゃないか! 頼む、人類を救ってくれ!!!
「焼石に水かもしれないけど、私も、『天使の怨念』とか『死への祈り』とかをかけた方がいいかしら?」
「……やめろ、絶対にやめろ! 死んでもやめろ!!」
頼むからこれ以上事態をややこしくしないで欲しい。
ほんとコレどうしよう……。
囧rz
3↑↑↑↑3というのは、文字化けではなく、実際に存在する数です。
興味のある方は、グラハム数で検索してみてね!