6.そうだ、ダンジョンに行こう!
久しぶりだからあらすじを振り返っておくと、5年間所属していたパーティーを追放されたので、新たにパーティーを立ち上げようとメンバーを募集したら、魔王、邪神、暗黒竜がやってきちゃったがもう遅い、こいつらの面倒を見ないといけなくなっちゃったぜ☆っていう話です。
「そうだ、ダンジョンに行こう」
俺は、破れかぶれに突っ込んできた盗賊団の頭のみぞおちに拳を叩き込むと、そう決意した。
いや、実際もう限界なんだよ。
日没前に起きて仲間とともにギルドに行くだろ?
掲示板でその日受注するクエストを探すだろう?
無いんだ。俺たちが受けられる依頼が。ゼロ。零。null。空集合。ナッシングなのさ。
なぜか。
クエスト掲示板の半分を占めるのは、モンスター討伐依頼だ。だが、クエストを受けて現場に向かったら、モンスターたちは命からがら逃げた後でもぬけのから。そりゃあ、魔王と邪神と暗黒竜が討伐に乗り出したら、普通逃げるわな。俺がモンスターでも逃げるよ。
というわけで、目の前にある優良クエスト「オーガキングの討伐依頼」や「変異種ケルベロスの討伐依頼」は受けられない。報酬めっちゃいいのになぁ。
クエスト掲示板の残りの半分を占めるのは、採取系依頼だ。だが、ガキどもに交じって葉っぱや木の実を採取するのはかなり厳しいものがあるし、うちのメンバーはそういう細々とした作業に向いていない。
世界征服クエストとか異界侵攻クエストがお似合いの魔王や邪神や暗黒竜が葉っぱを採取しようとしたらどうなるか?
答えは、「ミスって葉っぱが灰塵に帰す」でした。
細かい作業にいち早く限界が来た暗黒竜がイライラのあまりフィールドを丸焼けにしたこともあったなぁ。随分と前のことのように思えるぜ。
というわけで、フィールド丸焼け事件以降ギルドから採取系のクエスト全般の受注を禁じられた俺たちが、採取系クエストを受けることはできない。
え? 護衛クエストがあるだろって? 実績のないFF級冒険者に命を預けてくれる商人なんて、よっぽどヤバいやつだぞ? それに、魔王に護衛を依頼したりしないだろう?
そんなこんなで、やっとのこさ見つけたのが、今まさに挑んでいる盗賊団の討伐クエストだ。ただ、これも決して簡単なクエストではなかった。
俺が殴って気絶させた盗賊団の頭、なんと元はいいところのお坊ちゃんだったらしく、「生きたまま引き渡せ」という条件が付いていたのだ。
盗賊団の討伐はただでさえ厄介なのに、生け捕りという無理難題を吹っ掛けたせいで、このクエストは長らくギルドの掲示板に残っていた。
だが、たとえどれほど難易度が高かったとしても、俺たちは挑むしかないのだ。
そして、ただでさえ高い難易度をさらに上げたのは意外にも邪神だった。道中、こいつと何度「蘇らせれば問題ないのでは?」「問題しかねえよ!!」という会話をしたことか。
弁の立つやつを説得するのは難しい。邪神の話を聞いていると、ついうっかり、ゾンビとして蘇った盗賊団の頭を「オタクの息子さんですぅ」と言って引き渡しても問題ないんじゃないかなと思ってしまいそうになるんだよな。
しかし、しかしだ。邪神の超理論を跳ね除け、暗黒竜の隙をつき、魔王に食材探しを依頼して、俺たちは、無事、盗賊団の頭を生け捕りにすることに成功した。うん、もうほとんど俺一人で頑張ったようなもんだよ。敵はパーティー内にあり!!
聖女様がちょっとでも見てくれを良くしようと、盗賊団の頭に治癒魔法をかけてくれているのを感謝の気持ちで眺めながら、ぼんやりと考える。
後はこいつをギルドに突き出せばクエストは終わりだ。
ただ、これは裏を返せば、俺たちが受注できるクエストが、もはやこの町にはないということだ。おそらくこの近辺の街にもない。一昨日、ギルドの受付嬢(愛想笑いがカワイイ←ここ重要)に近隣のクエストも調べてもらったからな。
そこで、さっきも言ったダンジョンですよ。
ダンジョンなら、モンスターは袋の中のネズミだし、宝箱はギミックでない限り足がないから逃げたりしない。もう俺たちに残された道はダンジョンでの冒険しかないといっても過言ではないだろう。
幸い、ここから3日ほど行ったところにあるサードタウンの街はダンジョン城下町として有名だし、なんと温泉がある。温泉につかれば、降り積もった俺の心労もちょっとは軽減されるかもしれない。
さらに、あの街には、知り合いのドワーフが経営する鍛冶屋もある。元相棒から譲り受けた剣も鍛えなおしてもらえるかもしれない。
はっ! これは、噂に聞く一石三鳥というやつでは…! 俺もこれで頭脳派の仲間入り……?
感無量の俺を治療を終えた聖女様がじとーっと見ているような気がするが、心に余裕ができた俺はもちろん気にしないぜ。
「というわけで、次はサードタウンに向かいたいと思っている。みんなの意見も聞かせてくれ」
俺は静かに他のメンバーの意見を聞いた。まず反応したのは、暗黒竜と聖女様だった。
「お・ん・せ・ん! 行っきたーい!!」
「あら、温泉なら、私もぜひ行きたいわ」
喜ぶ女子二人に邪神がニコニコと笑って言った。
「お二人がそれほど温泉を楽しみにしているのなら、行かないわけにはいきませんね。異存ありませんよ」
最後に魔王も、「ザ・男の料理 外伝 〜自分の胃袋は自分でつかめ!〜」を広げて言った。
「温泉があるのであれば、この温泉卵なるものを作ってみたい」
「温泉卵か。うまくできたらその本には載っていない、温泉卵を使ったとっておきの料理を教えてやるぜ!」
「さすがはリーダー!! 次の街では温泉卵を極めてみせよう」
魔王がキリリとした顔で決意表明する。やる気があることはいいことだが、温泉卵を極めてお前はどこに行くんだ? レストランでも開くのか? 注文の多い料理店か?
かくして、俺たちは温泉に行くため、そして温泉卵を作るため、サードタウンに向かったのだった。
一話と持たず当初の目的を忘れるリーダーですが、今年も宜しくお願いします!