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犯人は私です。  作者: 足尾 三
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何よりあなたのために私が決めたこと。

誰を恨めばよかったのだろう。私の望まぬ裁判で、下された判決は過失運転致死傷という物だった。私がいうのもなんだが、これは無意だと思っていた。しかし結果は応報。もちろんアイツは罪を償うべきだと思ったし、そうでなければ彼が浮かばれない。そう考える人もいる。でも私は違うと思った。悲しみに暮れて考えた。いっそわざとだと言って欲しい。わざとじゃないだなんて言わないで欲しい。なるほど運転者にとってみれば石ころにつまづいてしまったような感覚で、でも人の命を奪っていて、どうしようもない自責の念からそういう言葉が喉をついて出るかも知れない。でもそれじゃああまりにも彼が浮かばれない。こうも思った。私が運転している側だったらどうだろう。もしかしたら人を轢いてしまうことがあるかもしれない。私だけじゃない。誰にでもある。向こうから飛び込んでくるかも知れないし、この間のことと同じように自分がふとしたミスで起こるかも知れない。考えるとキリがなく、気持ちも治らない。憤懣やるかたなかった。今日の判決が出るまで約半年間にわたって、私の中では本当に何も変わっていない。季節は変わり山は燃えるように紅くなった。彼も燃えて骨になった。私はただ涙を飲んでいるだけ。今日までに決めようと思っていたけれど、何も決められずじまい。自分の生死すらもうどうでもよかった。そう思うとほんとに何もかもがどうでも良くなる繰り返し。しかし良くはない。せめて今日までには決めようと、区切りにしようと思ったが眠れぬ夜が増えただけだった。退廷を命じられた鈴木が傍聴席に一礼し、口を開く。

「会社にも遺族の方にも何より本人にも申し訳ないことをした。わざとじゃなかった。なんとか私の2年で許して欲しい。」

離れた席から彼の母親の嗚咽が聞こえる。見るたび歳をとっているように思えた。私は覚悟を決めた。

 彼の葬儀で私は一人だった。当時彼と一緒にいた私を責める声が聞こえるようだった。私をみる目線も一挙手一投足に対して刺すようで苦しかった。あるいは私の思い込みか。それもやるせなさによるものだったのかもしれない。かくして私は彼が何より安らかであるよう願った。上半分が綺麗な彼の顔を見て思った。安らかであるはずがない。彼の最期を思い出す。抱えた頭の後ろは生暖かく、止めどなく血が出ていた。止めたくって押さえつけるようにして、逆効果かもしれないと思った時だった。もう麻痺して痛みもないだろうか。口が震えるように動いた。しかし食いしばったままの歯は開くことはなく。彼がそれ以上脈打つこともなかった。雨が降り出したようで空と彼を遮る屋根のない横断歩道では、必然降る雨が彼のまだ温い体を打った。最期の言葉もなかった。言えなかった。手を握っても何もない。いつもならありえないことだった。恥ずかしがる彼との一幕があったはずで、思い出せないくらいの数これからもあったであろうものが全て失われたと思った。今、式場でまた雨が降った。もう熱を持たない彼の目頭を雨が打ち、親族の平手が私の頬を打った。

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