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第4話 突然の別れ!? 百々最の決意!

「そろそろ起きたほうがいいんじゃないの」

「ふぁぁ! あ……おはよう、心鳴ちゃん」

「んー。お弁当は鞄の横に置いといたからね、朝食も作ってあるよ」


 百々最は思う、この子お母さんみたいだ、と。


 百々最は顔を洗ってから、食卓へ付く。朝食らしい朝食が並んでいる……少なめのご飯、焼き魚、味噌汁、卵焼き、漬物。

 ホッとした様子で百々最は胸を撫で下ろした。


 三日前。お風呂に入った後の心鳴が夕食を作ってくれた。油っ濃い肉ばかりの夕食だった。大食いとなった百々最さえ食べきれない程のくどい料理の山であった。

 流石に苦言を呈すと、次の日からはシンプルで食べやすいものへと変えてくれた。


「あーそうだ、百々最の部屋にあるノーパソ借りていい?」

「美味しい!」


 満面の笑みを浮かべ、話をまったく聞いていない百々最。食い意地張りすぎだ。心鳴が何度も咳きのフリをしている。しかしやめない! 満面の笑みをやめない! 幸せの中へ入り込んでいる。今が一番幸せだと言わんばかりだ。


 しかしそれは、当たり前なのかもしれない。

 心鳴の料理は可も無く不可も無くと言った所だ。調べた通りに作っているし、味噌汁と漬物は買ってきたものだ。それでも百々最は、人の手料理を食べる事が久しかった。だから美味しく感じる。とても、とても。

 暖かさを感じる。


「百々最、ノーパソ借りていいかな」

「うん? あーえっと、ずっと使ってないから付くかわからないよ?」

「そのときはそのときで」


 お母さんから貰ったお古のノートパソコンだ。スペックも低く、すぐにガコ……ガコ……とか言ってフリーズする代物だ。百々最は密かに長老様と名づけているノーパソ。

 年相応なのだろうか、百々最もパソコンに憧れた時期があった。何が何だかわからなくてすぐにやめたが。


「言いたくなかったら言わなくても大丈夫だけど、何に使うの?」


 物によっては、スペック不足で使えない。と百々最のお母さんは言っていた。でも百々最? 何に使うか聞いても、要求スペックを満たしているかなんて君にはわからないだろう?


「SNSだよ、そっから仕事取ってるから」

「仕事してるの!?」


 アルバイトもした事が無い百々最は衝撃を受けた! こんな小さな、小学生位の年齢の子でも働いているだなんて!


「こ、心鳴さんはお幾つなんでしょうかっ!」


 自然と敬語になる百々最。急に心鳴が大きくなった様な錯覚を受けている。


「成人はしてるね」


 呆気に取られるが、すぐに元の表情へ戻した。そうだ、心鳴ちゃんはこうした冗談をたまに言うのだ。結構茶目っ気がある。

 1番最初に聞いた冗談は、そう──『男』だと言われた時か。その次は『既婚者』だと言われ、その次は『この世界の人間ではない』だ。よってこれも冗談。百々最は結論付け、登校の準備を済ませたのだった。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」


 扉が閉じ、玄関に立ち尽くす心鳴。どうしたと言うのだ、不安げな顔をしている。やはり小さな女の子と言うべきか、1人ぼっちが寂しいのだろうか。百々最は居ない、心鳴しか居ない。

 誰もその表情には気づかない。


「あ、思い出した。鍵貰わないと外出できないんだ」


 そう、意外と心鳴もおっちょこちょいであった。


「今日は休業だ……探偵心鳴の休日」


 1人ぼっちでボソボソとつぶやきながら、心鳴はリビングに戻る。探偵、そう、心鳴は探偵だったのだ。SNSで依頼を受け、恐らくは子供の風姿を利用しているのだろう。

 心鳴の事だから、ノリで探偵と言っただけかもしれないが。


 それからは独り言を止め、心鳴はゆっくりとソファーに腰掛けて眠りに付いた。


 昼。

 心鳴はまだ寝ている。一方百々最は、次吹といつもながらの昼食を取っていた。


「次吹ちゃん、私やっぱり……」

「言ったでしょ百々最、私があの男に事情が聞けるまで、貴女は戦っちゃだめよ」


 2人はある取り決めをしていた。サニーピーチに脅迫をかました謎の男、彼から詳しい事情を次吹が聞き、何とか説得する。それまで百々最は、サニーピーチとして戦ってはならないという約束をしたのだ。

 幸いというべきか、あれからビーストも現れていない。よってあの男も現れていない。

 次吹もまだ、男に取り入る作戦を思い付いていないのだ。


 旧校舎、埃っぽくボケボロの教室で2人きり。静寂が鳴く空間に次吹が思案する。


「百々最、あの日から全然食べてないじゃない……」


 そう言われ、百々最は手を胸の前でプラプラさせ否定の意を示す。


「あ、えっと、今は作って貰ってるの」

「ご両親、帰って来たの?」

「ううん、えっと、か……家政婦?」

「どうして疑問系なのよ」


 次吹は口元を隠し、くすりと笑う。それに釣られ、百々最も笑った。


 二人の笑顔は変わらないまま、ただ、影が差した。


 次吹が窓から空を見上げる、雲が太陽を隠したのだと、そう思った。


 黒い、真っ黒だ。周りも真っ暗になった。


 闇の中、百々最の声が瓦礫に消えた。音に埋め尽くされる、それが悲鳴なのか何なのかはわからない、ただ暗闇の中で何かが起こった、それはわかった。一瞬送れて激しい揺れが伝わり。


 2人の意識はそこで途切れた。


 ──青空の下に居た。

 太陽は強く輝いているというのに、暑くは無い。いや、温度そのものが感じられない。若緑の草が風に揺れている、だと言うのにだ。


 百々最はただ、そんな場所に立っていた。地平線には何も無く、果ても無く……まるで此処は、天国か地獄だとさえ思える。

 見た目だけで言えば天国だ。爽やかだし、無償に落ち着く。しかしその実、何もやる事が無い。もしかして一生、いや、死んだのかもしれないが、ずっとずっと此処で暮らすのだろうか。そう考えると地獄としか思えない。


 見渡せど見渡せど、景色は変わらな……変わった。後ろを向けば、大木があった。20メートルはあるか、と言った大木だ。

 その下には、次吹が居た。百々最を一直線に見て、微笑んでいる次吹が。


「次吹ちゃん……?」

「百々最、貴女って結構抜けてるわよね」


 微笑みを崩さず、次吹は続ける。


「凄く暗い顔してたわよ、何を想像したの?」

「えっと、天国か地獄かなって」

「ふふっ、もっと突拍子も無い事を考えているのだと思ったわ」


 そんなに自分はおかしかっただろうか、と百々最は思う。この状況を知っていそうな次吹に何も聞かない百々最はおかしいのだ。


「此処はね、天国でも地獄でも無いと思うわよ。はっきりとはわからないけど、そうね……私と百々最だけの世界かしら」


 今日の次吹は一段と詩人なのだな、と百々最は思うのだった。


「ど、どういう事?」

「私は多分、死ぬのよ、後少しで。レイングレープの力を使っても駄目だったわ……だから百々最、今から言う事をよく聞いてほしいの」


 景色が色褪せる、疑問が浮く、頭も草も、目の前の次吹でさえ白く染まっていく。百々最の心臓は狂った様に跳ね始める。


「理解するのも後でいい、受け入れるのも後でいい、だから今は、話を聞いて。今だけは、うんって言って?」

「……うん」


 百々最の表情は歪んでいた。それでも尚、次吹だけは表情を崩さない。妹か娘でも見るかの様な顔だ。


「まず、私のレイングレープの能力を貴女に渡したわ。最初と同じよ、黄金の果実を手にする資格を有する者……エバに与える事でエバは新たなる力を手に入れる。その二次作用で瀕死の身体も元通り、覚えてるわよね?」

「うん、覚えてる……」

「一か八かだったけど、上手く行ってよかったわ。やっぱり貴女は特別なのね」


 長くも短くも無い付き合いだが、相変わらず百々最は次吹の言っている事がわからないのだ。次吹は何時も先を見ていて、深く見ていて、どれも百々最には無い視点だった。


「だから百々最、貴女はサニーピーチに加えレイングレープの力も手に入れたの」


 つまり、百々最は再びビーストとの戦いに身を投じる事となる。異議等言わなければ、そもそも無かった。薄々だが気づいている、きっと死んだのは……次吹だけでは無い事に。

 旧校舎の一室を黒く塗りつぶす程の巨大なビーストに、恐らくは攻撃を受け旧校舎ごと破壊されたのだ。旧校舎だけとは考え難い、きっと、多くの人が。


「追々教えようと思っていたけど、私が黄金の果実を持っていたのは、託されたからなのよ。私より1つ前のウェザープリンセス達にね。でも、出来る事なら私達の代で終わらなきゃ行けない……前のウェザープリンセス達は、私よりも年下だったのよ」


 選ばれし者であるエバで無ければ、黄金の果実を手にする事は出来ない。ビーストに対抗できる力を持ち、戦いへ引き込まれていく。望んだ者が選ばれるのが一番良いが、きっとそうでは無い。

 無差別に選ばれているのだ、例えそれが、次吹や百々最よりも小さな子であっても。

 次もそうならないとは限らないのだ。


「ウェザープリンセスは他にも居るわ……別の地域だけど、きっといずれ此方に来る──もしくはもう、近くに居るかもしれないわ」


 いつの間にか、次吹の表情は硬くなっていた。真剣な眼差しのまま近寄り、百々最を抱きしめる。直前まで見えていた表情が嘘の様に、優しく、優しく。


「でも、頼るならまず、例の男を頼りなさい」

「え……?」


 どうして、突然そんな事を言うのだろう。百々最の頭の中では、あの男が1番の障害である。それを、頼れと次吹は言う。


「恐らくはビーストに襲撃された時、あの男が現れたのよ。下半身の無い私と、貴女を抱えて外に出してくれたの……泣いてたわ、私にも、百々最にも、ごめんって」

「…………」


 ただ、考えるだけでは信じられない。思い出すだけで震え上がるあの感覚。それでも、次吹がそう言うのなら、きっとそういう事なのだ。百々最は次吹を疑った事等無かった。あの日、百々最がウェザープリンセスとなってから、次吹は常に支えてくれて居たのだ。

 口にこそ出して無いが、百々最から見た次吹とはお人好しで、寂しがり屋で、冷徹ぶっていても甘やかしてくれるような、姉の様な友達だった。

 その次吹が言うのだ、信じる他無い。


「と言っても、まだ信用するには早いし……うん、とりあえず話をして百々最で判断してちょうだい」

「次吹ちゃん……!」


 何時しか抱き返していた百々最の手が宙を切る。一歩下がって次吹を見れば、その体は既に消えかかっていた。


「百々最、友達になれて、良かったわ」

「私、だって、次吹ちゃんと友達になれて──っ!」


 次吹が消えるのと同時に、剥がれ落ちる様に景色が消えていく。広がるのは、瓦礫の山、人の腕や頭、赤と灰と、様々な色が混ざる。

 救急車のサイレン、警察のサイレンが赤く赤く、百々最の耳を、目を劈く。


「私が、終わらせる」


 百々最の決意もまた、赤く燃える──。

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