表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嫌悪感を抱かれながら。

作者: 冬紀 咲

「思い出の中のコンビニで。」、「眺める電車と逃げ出したい。」と姉妹作です。


上記二作の方も時間があればどうぞお読みください。

嫌悪感を抱かれながら。


気が付いていないわけじゃなかった。何故実の兄が私を嫌っているか、そんなことは火を見るより明らかだった。実際、それは仕方がないことだと思うし、あの人が私を嫌いであることの理由に、私自身、納得をしているどころか同情という類の感情も抱いていた。

言わずともがな、人によって感じ方は違うのであの人がどれほど私を嫌っていたのかは分からない。稀に遊んでくれるところを見るに、嫌いではあったけれど好きでもあったのかもしれない。はたまた、憎んでいるくらいに嫌いだったのかもしれない。


兎に角、あの人は私が嫌いだった。


先にも述べた通り、私はそれを十分すぎるほどに理解していたので、私はそれに気が付いた時、真っ先に両親と距離を置くことを思いついた。自立しよう。そして、なるべく外にいるようにしよう、と。


兄が私を嫌っている理由は幼少期まで遡る。兄が一歳と八ヶ月の時に私が生まれた。兄は色々なことを我慢しなくてはならなかった。その事に嫌気が指していた兄は、私を邪険に扱った。暴力を振るうなんてよくある事だったし、物を投げてくることも稀では無かった。その為、私は沢山泣いた。親戚はみんな私に優しくした。親までも。それだけの理由。それだけの事。それがどの位辛い事なのかなんて私にはわからない。弟が出来た時、既に私は小学生に上がっていた。兄は弟にとても優しくした。年齢がかなり離れているので親みたいな目線だったのではないかと今になった思う。

兄は弟には優しかった。私には酷かった。ただ、それだけの話。仕方がないと思う。ああいう環境に生まれた兄が妹に優しく接しられなくても。むしろ憎んでくれていいとさえ思う。


ただ、これだけは忘れないでほしいと切実に思う。私は君の気持ちなんて分からない。でも、君だって私の気持ちなんて分からないでしょ。


互いに中学生になってから、私達は一度だけ大喧嘩した。それで私はようやく兄の心情を知る事になる。その頃には絡むこともほぼほぼなくなっていて、喧嘩だって全くしていなかった。くだらない理由だったと思う。確か、兄が私に悪口を言ってきて、私は兄に悪口を言い返し、殴り合いにまで発展していた。そういう喧嘩だった。

兄は私にこう言った。

「いいよな、お前は泣くだけで親を味方につけられて」と。「お前が悪口を言ってきたせいで、俺は友達にからかわれたんだよ」みたいなことまで言ってきた。

ただ単純に、巫山戯んなと思った。胸が痛くなり、叩かれたところが痛み、更に涙が出てきた。

私が言った悪口のせいで? 君が最初に私の友達に私の悪口を言ったんでしょ。友達は笑って否定しなかった。だから、やり返しただけでしょ。私だって、苦しかったんだよ。そもそも君の方が親に愛されてるくせに。長男特権? なんだか知らないけどずるすぎるだろ。


兄と違って、私は兄に何も言わなかった。兄が苦しかったのはわかる。でも私だって同様に苦しかったんだよ。弟には優しくするくせになんで私には叩いたりしてくるんだよって。納得はしてたし理解もしてた。同情もしたし気持ちも少しはわかった。私にはそれを声に出すことができなかった。涙がとてつもなく邪魔で、何か喋ったら止まらなくなりそうで。私は兄に謝らなかった。謝るつもりなんてなかった。喧嘩はすぐに終盤を迎え、私は次にこう思う。


一生そうやって思ってろ。私は君なんかとは違って大人になって、自立して、今度は君を家族に甘えさせられるようにしてやるからなって。その時になってようやく私の気持ちでも思い知れ。そうして後悔すればいい。


落ち着いて考えてみればとても醜い争いで、私達は自分の苦しさを人にぶつけた。それが終わった後、兄はほんの少しだけ私に素直になった。といっても、私の喋り方が嫌い、とかそんなものばかりだが。



兄が私のことを嫌いなのは分かっている。憎まれていることも。けれども、今日もまた、嫌悪感を抱かれながら、謝ることなく、気づかないふりを。

お読みいただきありがとうございました。


次作のアイデアは特になにもないですが、在るもの捻り出して自分のペースで書いていこうと思っています。長編になるか短編になるかもまだなんとも言えない状態ですね。

では、また次の作品で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ